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33 誓い

 それから私達は、日中は進めるだけ進み、夜遅くに宿に入るようにした。

 

 リフテス王国へ入って三日目の夕方、ようやく王都の入り口まで到着する事ができた。


 王都へ入ると、シリル様は馬をゆっくりと走らせた。


「ここが、リラの育った場所か……」

「はい、でも私が住んでいた屋敷はもっと町の外れの方です」

「そうか……出来れば君の育った場所を見て見たいが、住んでいた屋敷には見張りがいるかも知れない。だが……」


後ろに座るシリル様から、ギュッと抱きすくめられた。


「シリル様?」

「君の母上のお墓に、俺を連れて行ってはもらえないか?」

「えっ、お墓に?」

「ああ、結婚をすると、君の母上にきちんと挨拶をしておきたい」


 シリル様は恥ずかしそうに言った。


「本当に? いいんですか?」

「ああ、もちろん。是非会いに行かせて欲しい」


  マフガルド王国へ突然連れて行かれたあの日、もう二度と母さんのお墓には行けないと思っていた。


 それがまさか、シリル様と行けるなんて……。







 私が住んでいた屋敷と、リフテス城の中間に位置する場所、そこにある墓地に着いた頃には、もうすっかり暗くなっていた。


 高台にある墓地には、同じ四角い形の平たい墓石が並んでいた。

 その一番奥の角隅に、母さんのお墓はある。



 側室だったが平民出の母さんは、王族の側室達が眠る墓に入ることは許されず、墓石にも王族の名を入れることは出来なかった。


 ただ、母さんの名前だけが刻まれる墓石。


それを見ると、側室というのは名ばかりだったのだろうか、そんな風に思ってしまう。


(あれ? この絵は……?)


 墓石の片隅に、いつの間にか絵が描かれている。



 それはどこかで見た事のある、小さな花。

 どこだったかな……。


 一つだけ描かれている花の花びらは五枚。

 

 ……一体誰が?



 私が最後にお墓を見たのは、母さんのお葬式から二週間後だ。

 だとしたら、それ以降にこの花の絵は描かれていることになる。



 墓石を黙って見ていた私の横にシリル様は並び、耳元に囁くように言った。


「この墓石がリラの母上様の?」

「はい、そうです」


 シリル様は頷くと、母さんの墓石の前に跪いた。私も横に同じように跪く。


(マフガルドではお墓の前ではこうするのかしら……?)


 シリル様は墓石に彫られた母さんの名前を右手でそっと撫で、その手を握りしめ胸に添えた。


 空いているもう片方の手で、私の手を軽く握る。



「シリル、リラ様、ちょっと待って」


 メイナード様が指をクルクルと回すと、小さな白いユリの花の形をした灯りが現れ、墓石の端を照らした。


「少しぐらい明るくしてもいいよね?」


「ありがとう、メイナード」


 シリル様がメイナード様にお礼を述べると、メイナード様は小さく頷いて微笑んだ。



 黄金の双眸が私を真っ直ぐに見つめる。


「リラ、私は君と君の母上に誓う」

「はい」


 シリル様は母さんの墓石に向き直り、真剣な目を向けた。


「母上様、初めてお目にかかります。私はマフガルド王国、第三王子シリル・ドフラクス・マフガルドと申します。

この度、リラ様と結婚をすることとなりました。

母上様が大切に育て、愛したリラ様は、これから私と共に幸せに満ちた人生を歩んでいきます。

リラの喜びは私の喜びとなり、リラが悲しめばその悲しみは私が慰めます。私は永遠にリラのものとなり、リラを生涯の伴侶として迎え、一生添い遂げていきます」


 シリル様はいつもの優しい声で、母さんにそう告げた。


(……でもこれは……結婚の挨拶というより……)



 次に、シリル様は私を真剣に見つめる。


 握られた手に少し力が入った。


「リラ、永遠に私の側にいて欲しい、君だけを見て、君だけを愛すると誓う」


 私に向けられる彼の黄金の目は、夜空の星のように輝いて見えた。


 今、シリル様が母さんの前で言った言葉は、結婚の挨拶ではない。


 これは……誓いの言葉だ。



 そして彼は結婚の決まっている私に、プロポーズの言葉までくれた。


 母さんの前で……


 嬉しくて胸がいっぱいになる。



 シリル様の気持ちに、ちゃんと応えたい。


 私は、彼の綺麗な目を真剣に見つめ返した。



「はい、私もシリル様だけを見て、シリル様だけを愛すると誓います」


 そう返事をすると、シリル様は柔らかな笑みを浮かべ握っていた手にキスをした。



「ああシリル、せっかくなら口にしたらいいのに……。でもまさか、ここで『誓いの言葉』を告げるとは思ってもいなかったよ」


 メイナード様は笑いながら小声で言った。


「うん、僕も驚いてる」


 そう言うルシファ様は、すごく嬉しそうだ。


「お母様の前で誓いの言葉を言うなんて、シリルらしいわ」



 ラビー姉様が指をクルクル回し、魔法でピンク色の花を出してお墓に添えてくれた。


 ラビー姉様が出した花、それはメリーナに教わった刺繍の花と同じ、星の様な形をしている。


「その花……」


「リラはきっと初めて見るわね、これはマフガルドに咲く花よ。大切な人に贈る花なの」


「マフガルドに咲く花?」


「そうよ」



 …………マフガルドに咲く花? 


 メリーナは確か、故郷に咲いている花だと言っていた。


 でも、メリーナは獣人ではない。

 私は子供の頃、何度も一緒にお風呂に入った。

 その時、獣耳も尻尾も牙も、羽根だって見たことはない。


 ……似たような花が、リフテス王国の何処かに咲いているの?




 しばらくすると魔法で出した花と灯りは、ここに誰か来た事が知られてはいけないからと、ラビー姉様がキレイに消し去った。


(母さん、いつかまた来るからね……)




 母さんに別れを告げ、私達はそのまま夜の闇に紛れて城へと潜入する事になった。

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