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3 期待していた

 リラが入浴を済ませ、用意されていた服(……これ?) を着て部屋に戻ると、テーブルの上にトレーが置いてあった。

 フードカバーがかぶせてあり、そこから微かに美味しそうな匂いがする。


(食事? 用意してくれたんだ! 嬉しい!)


 私は期待していた。


 この国に来るまでの食事は、毎食ほとんど同じメニューだった。

 豆と硬いパンに薄い味のスープ。

 さすがに六日は飽きます。違うものが食べたい。



「お腹空いてたんだよねー! 獣人国のご飯、どんなのかなー?」


 一人しかいない部屋で声を出し、ワクワクしながらフードカバーを開ける。



「…………ええっ‼︎ これだけ⁈ 」



 獣人は大柄だ。


 種族にもよるのだろうが、リフテス人より立派な体格をしている。


 マフガルド王もシリル様も丸い耳のメイドも、この城で見かけた獣人達は皆大きかった。


 だから、色々な物をたくさん食べるだろうって思っていた。


 リフテス王国から一緒に来て、ちょっとだけ親しくなった従者も言っていたのに。



 なのに……。



 皿の上には、向こう側が透けて見えるようなパンが二枚。

 これは……すごい技術だと褒めるべきなの?


 少し大きめのカップに入った、具の無い透き通ったスープ。 ああ、お肉の匂いはするのに……。

 そして、茹でた緑色の豆。



 私の背が小さいから、少食って思われた?

 それとも、この国ではこれが普通?



 その時、ぐううっとお腹が鳴った。


 ……食べます。


 お腹が空いている時、人は碌な事を考えないと、母さんとメリーナがよく言っていたもの。



「いただきます」


「ごちそうさまでした」



 量は少ないけど、めちゃくちゃ美味しかった。


 豆はただの塩味だったけど……スープは絶品でした。

 でも、もう少し食べたかったなぁ……。



 スープの味付けは、メリーナの料理とよく似ていた。



 ……メリーナは今頃どうしているだろう。


 王様は悪い様にはしないと言っていたけど、結局あのまま別れて、私はこの国まで来てしまている。


 どうか、メリーナが無事でありますように……。


 はっ……!


 メリーナの事を考えていたら、ある事を思い出した。

 以前メリーナは、お城ではデザートを食後に食べる習慣があると言っていた。


 母さんは城に行ったことがないから、知らないって言っていたけど、メリーナはお城にいた事があると言っていたから本当だと思う。


 ……リフテス人が食後に食べるぐらいなら、体の大きなマフガルドの人達も食べるよね?


 もしかして料理の量が少ないのは、後からデザートをたくさん食べるからなのかもしれない。



 一時間ほどすると、さっきの丸い耳のメイドが入ってきた。無言で食器を下げると、水差しとコップを置く。


 丸耳メイドをしっかりと見るが、彼女は他に何も持っていなかった。


(マフガルドでは食べないのね……)


 私がメイドを見つめていたら、それに気づいたメイドが、見つめ返し、フッと笑みを浮かべた。


「あらあら、人の姫様にその服は大きかったようですね。子供用をお持ちします」と嘲る様に言うと部屋を出た。


 確かに、今着ている服は大きい。

 肩はずり落ちるし、胸はガバガバ、裾も長くて……。


 でも子供用って、いくら私が小柄といえ小さくないかな?



 メイドが持って来てくれたのは、ピンクの毛糸で編まれた可愛らしい子供服だった。


「ラビー様の幼い頃の服ですが、これならちょうど良いと思います」


「ラビー様って誰ですか?」


 初めて聞いた名前だったから尋ねただけだったが、メイドは私に冷たい目を向けた。


(……聞いちゃダメだった⁈)



「ラビー様は、シリル様が婚約されるつもりだったお方です」


「……そう、ですか」



 メイドは深く溜め息を吐く。


「それでは、お休み下さい」


 パタンと閉じられた扉は、ガチャリと外から鍵がかけられた。



 私はハズレの姫。

 人の国から押し付けられた嫁。




 でも、婚約目前の人がいたなら、クジ引きに参加しなきゃよかったんじゃない?


 王子様達は八人もいたんだから。


 シリル王子の端正な顔を思い出しながら、ラビー様のピンクの服に着替えた。


 その服は、メイドが言っていた通り、私に丁度良いサイズだった。

(子供服がピッタリって……それに凄く着心地がいい……)






 さて、私はどこで寝ればいいのでしょう?

 部屋を見回すが、この部屋にベッドはない。長椅子はあるけど……まさか、これに寝るの?


 部屋には扉が三つ、一つは入って来た大きな扉。もう一つは浴室へと続く扉。


 もう一つの扉……あ、寝室はそこなのかもしれない。


 扉を開けると、やはりそこは寝室だった。

 部屋に一つある腰窓に白く薄いカーテンが掛けてあり、青白い月が透けて見えていた。

 部屋の隅には蛍石が埋め込まれているようで、ポゥッと弱い光を放っている。


 中央に天蓋付きの、私が5人は余裕で横になれそうな大きなベッドが一つ置いてあった。


 さすが、獣人の国。

 一人用のベッドでこのサイズなんだ……。


(隣の部屋には無かったんだもの、ここに寝るのよね⁈)



 ベッドに入り布団をすっぽり被ると、長旅と気疲れのせいか、私はすぐウトウトと眠りについた。



 しばらくすると、ギッとベッドが揺れて、横にもふもふした温かい何かが置かれた。


(ああ……湯たんぽだ……)


 リフテス王国より北に位置するマフガルド王国。

肌寒く感じていた。だから嬉しい。


 子供の頃、寒い夜には母さんがよく湯たんぽを足下に置いてくれた。……母さんはタオルに包んでくれていたけど、獣人の国は違うのね……毛皮みたいな物に包むんだ……。


 もふもふの長い湯たんぽを抱きしめた。


(すごい……細長いもふもふの湯たんぽなんて初めて……それにお風呂場にあった石鹸と同じ匂いがする。……温度もちょうどいい)



 もしかして、丸耳メイドがベッドに入れてくれたのかも……。


 終始顰めっ面して、話し方も冷たい感じだったけど、温かいお風呂も食事も、服も用意してくれたもの。多分、そこまで嫌われてはいないと思う……明日、名前を聞いたら教えてくれるかなぁ……仲良くなりたいな。


 獣人は優しいってマフガルド王様も言っていたし。


(……暖かい)



 私は、湯たんぽにスリスリと顔を寄せ、ムフフと笑いながら眠りについた。






「……………⁈」


 湯たんぽの本体、このベッドの主人であるシリルは固まっていた。


 入浴を済ませ、部屋で軽く酒を飲みベッドへ入った。


 いつものように横向きに寝ると、尻尾に何かがしがみ付いたのだ。


 上半身を起こし返り見れば、夕刻に会ったあの人の姫が寝ている。



 シリルの尻尾を抱きしめ、嬉しそうな顔をしているのだ。


 何故……俺の布団に入っているんだ……⁈

 それに……。


(気持ちいい……)


 シリルは思わず声をあげそうになり、慌てて片手で口を押さえた。


 ……聞こえたのだ。ハッキリと、この人の姫の声が。



 ね、寝ているよな?

 まさか……。


 ムニャムニャと尻尾を抱きしめて眠る姫。

 起きている様子ではない。




 ……くそっ、なんで可愛いんだよ!


 シリルは顔を赤らめエリザベートを見つめていた。



 会うまでは、嫌でたまらなかったリフテス王国の姫。


 クジ引きによって、仕方なく結婚することになった元敵国の姫。



 ハズレの姫だったのに……。

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