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28 必ず守る

 ベレンジャーの声がすると同時に、シリルは味方に防御魔法をかけた。


 全身黒装束を纏い、目元だけを出し、顔を隠す男達五人が、先頭を行くベレンジャーの前に立ち塞がった。

 その衣装の左肩には赤い鷲の紋様が印されていた。

 一部では知られているその者達は、マフガルド王国内各地に存在する闇の組織『クラッシュ』。

 自らを『神』と名乗る鷲獣人をリーダーに持つ彼等は、金になる事ならばどんな事であろうと仕事を引き受ける。強盗、殺戮、何でも非道に行う彼等は魔力も高く、王族であってもかなり手強い相手だ。



 しかし何故こいつらが現れる?


 

 シリルは、目深に被ったフード越しに目を光らせた。

 まだ相手は、自分達の正体に気づいてはいない。

 御者台に座るシリルとメイナードは、体を覆い隠すコートを羽織り、フードを被っている。

 山賊の仲間とでも思っているだろう。



「お前たち、ここが誰の縄張りか分かってんのか?」


 ベレンジャーが声を落とし告げた。


「知らん、知る必要も無い。俺達は依頼された仕事を遂行するのみ」


 一番手前にいた男が話す。


「依頼だと?」


 ベレンジャーは訝しげな顔をして男を見た。しかし、男はその視線など気にも留めず、馬車に目を光らせている。


「その馬車に、リフテスの姫が乗っているのは分かっている。素直に姫を渡せば、お前たちには何もしないと約束しよう」


「何の事だ……」


 シラを切ろうとするベレンジャーだが、彼は嘘が苦手だった。思い切り荷台に目が向いている。


「姫を手にしてどうするつもりだ」


 シリルはゆっくりと男に話しかけた。


「王族が手を付ける事なく、姫がリフテス王国へ向かった時には始末する」


「……えっ? 何の為に?」


 驚いたメイナードは、思わず男に尋ねてしまった。


 ーーーーが、もちろん男は答えない。



「大方、それを理由にまた争いを始めるつもりだろう。無条件降伏し、その上王女を嫁に出したが殺された、そうなれば今までマフガルドを支持していた各国は、リフテス王国を憐れみ、味方するとでも考えたか。まぁ、そうでなくともか弱い女性を王族が見殺しにしたとなれば、マフガルド国内で反乱が起きるだろう」


 シリルは男達を見据えながら冷静に話す。


「そんな事はどうでもいい。姫を殺した事で火種が生まれ、また争いが始まるのならば、多額の金が動くだけ、我々の仕事が増えるだけだ」

 男達はせせら笑う。


「ふざけた奴等だ……」


 命と金を同等に扱うなど……それも、リラの命を……。

 シリルは、唸り声をあげそうになる自分を抑えていた。今にも叩きつけ出さんばかりの尻尾は、メイナードが必死に押さえている。


「さあ、姫を渡せ。そこにいるのは分かっているんだ。素直に渡さないのなら、お前たちも道連れになるぞ」

「渡す訳がないだろう」

「忠告はした」


 ベレンジャーの前に立つ男が拳を掲げ、短く呪文を唱えた。

 グウンッと拳の周りに青い光が渦巻く。


 男が、パッとその手を開いた瞬間、突風が起こり山賊達と馬車に襲いかかった。


 瞬時にシリルが指を鳴らす。


 襲いかかって来た風は、魔法で作られた壁に全て跳ね返された。その強い風はまるで刃のように周りの木々を切り倒していき、葉や枝が散乱した。


「うわぁ、道が開けちゃったね」

 メイナードが感心した様に言う。

 シリルの防御魔法により、こちら側には傷一つなかった。


 だが、男達も防御していたのだろう、跳ね返しの風を受けても傷一つ負っていない。



「お前……何者だ」


 魔法を跳ね返された男は目を丸くしていた。

 攻撃型の風魔法は、かなり高い魔力を持つ者しか使えない。

 それを容易く跳ね返すほどの防御魔法を、呪文も唱えず、最小限の動きで目の前の男は使った。

 そして、そんな事が出来る者は、自分が知る限り王族のみ。



 シリルはフードを取り、顔を見せた。露わになった漆黒の髪、狼獣人の耳に男達は目を見開いている。


「シリル王子……⁈ 何故お前がいる?」


 シリルは眼光を鋭く光らせ、男達を見据えた。放たれた尻尾はバシバシと座面を叩きつける。


「姫は俺の嫁だ、一緒にいて何が悪い?」

「嫁? 第三王子が相手だと?」

「……そうだ」

「何故手を付けなかった⁈ 」


 男達はさらに目を見開き、あり得ないと言わんばかりに首を横に振る。


 その態度に、シリルはムッとし眉を寄せた。

(どういう意味だ⁈)



 相手がシリル王子だと知った男達は、ジリジリと後方へ下がり始めた。国で最強とされる魔力を持つマフガルド王と、変わらぬ力を持つ王子。

 諜報員から聞いていた話と違う、これでは割に合わない。


「撤収だ!」


 逃げようとした男達に、ベレンジャー達が飛び掛かった。


「させるかっ!」


 山賊達が、すぐに四人を拘束したが一人には逃げられてしまった。


「くそっ、逃げられちまった。どうするシリル」



 男が消えた方向を見ながら、ベレンジャーが悔しそうに話す。


 逃げたのは、リーダー格の男……だが……。


「アイツらはこの国からは出ることはない。それに、今すぐには襲って来ないだろう。用心するしかない」


 ため息混じりにシリルが話せば、ベレンジャーはフッと笑った。


「ま、お前がいれば何とかなるか。コイツらの事は俺達に任せてくれ。……さっきの話を聞いていれば、あちらこちらに諜報員がいるみたいだからな。何か分かったらすぐに知らせるよ」


「ああ、ベレンジャー頼む」



 シリル達はその場でベレンジャー達と別れ、急いで山を降りることにした。



「まさか、彼女の命を狙うとはね……本当に娘なんだよね?」

「リフテス王が何を考えているのか、俺には理解出来ない」


 シリルは用心の為、防御魔法をもう一度かけた。横に座るメイナードは、魔法で道の先に散らかる木々を退かし通りやすくしていく。


 また目深にフードを被ったシリルは、前を見据えながら考えていた。


 リフテス王は、最初から奴等を手配済みだったのか……。

 だが謎だ。クラッシュはこの国でしか動かない組織だ、それに仕事を依頼するには伝手がいるはず。

 どうやって彼等に接触したのか……。


 それに、奴等はリラが手付きでないと知って、始末すると言った。

 いくら獣人とはいえ、彼女を見てもいないのに、どうやってそれが判断できた?


 城に諜報員が入り込んでいるのか……もしかすると山賊達の中にも居たかも知れない。



 あの時、もし護衛を付けただけで、リラを一人リフテスへ向かわせていたとしたら今頃リラは……そう考え、シリルは頭を振った。


『もし』は無い。そんな悪い例え話は考える必要も無い。


 彼女は俺が必ず守る。俺しか守れない。


 俺の運命の相手……愛しいリラ。


 君の伴侶として俺が選ばれたのは、きっと必然だ。







 シリル様のお陰で、事無きを得た私達はその場で、ベレンジャーさん達と別れた。

 そして、馬車は再びリフテスへと向け走り出す。


 御者台に座るシリル様とメイナード様は、話もせずとても静かだった。



「はぁ、大変だったわね」


 ラビー姉様がもう安心ね、と足を伸ばした。


「ごめんなさい、私のせいで皆さんまで危ない目に合わせてしまいました」


 リフテス王に、『逃げようとは思うな、監視はつけておく』と言われてはいたが、命が狙われていたなんて……それに、皆の命まで危なくなるとは思わなかった。


「大丈夫よ、シリルがいるから。それに、私一人でも、あんな人達にやられたりしないわ。一番危ないのはリラ、貴女なのよ。なるべく早くマフガルドを出た方がいいわね、あの人達はリフテスまでは追ってこないはずだから」

「どうしてですか?」

「リフテス王国へは、獣人はまだ入れないの。リフテス人は申請書があれば、マフガルド王国へ入る事が出来るんだけど」

「えっ、私そんな物出した記憶がありません」

「……リラはお嫁に来たんだから要らなかったのよ」


 なるほど、と頷いた私に一つの疑問が浮かんだ。 獣人はリフテス王国へは入れない、ならばラビー姉様達はどうやって行くの? 秘密の道があるのかな?


 そう考えていた私の答えは、その夜泊まった町の宿屋で判明した。



 出発前にシリル様は言っていた。

『ルシファが行かないと変化出来ないから……』

 ルシファ様は魔法で、見た目を変えることが出来たのだ。



 椅子に座ったシリル様の頭に、ルシファ様が手をかざす。


「力を抜いて、少し気分が悪くなるけどすぐに治るからね」

「ああ、分かった」


 説明が終わると、ルシファ様は小さな声で呪文を唱えた。シリル様の体を金色の光が包み込む。

 光が消えると、シリル様の耳と尻尾は消えていた。


「シリル兄さん、気分はどう?」


「あ、ああ……少し聞き取り辛いな……」


 その横には、シリル様より先に変化を済ませたメイナード様と、ラビー姉様が座っている。


 ルシファ様はベッドに横になり、自分にも魔法をかけた。

「僕はどうってことないんだけど、もしも倒れたりしたら危ないからね」



 耳と尻尾がなくなった皆は、何だか輝いて見えた。


 獣人は私の知る限り皆、美形だ。そんな彼等が人の姿になっている。

 獣耳と尻尾を毛嫌いしているだけのリフテス人が、今の彼等を見たらどうなるんだろう。


 ラビー姉様は、ルシファ様の獣耳の無くなった頭を撫でている。


「人の姿をしたルシファも素敵だわ」

「ラビーも綺麗だよ」


 ルシファ様に褒められて喜び笑っていたラビー姉様に、シリル様が声をかけた。


「ラビー、ちょっと話がある」

「あら、何かしら」


 ここでは話しにくい、とシリル様がチラリと私を見る。


 私に聞かれたくない話なのかな……。


「じゃあ、隣の部屋で話しましょ」


 ラビー姉様はそう言うと、シリル様と部屋を出て行った。




 私とルシファ様、メイナード様の三人を部屋に残しパタンと閉まる扉。



「あれ~? シリル、僕がいる事忘れてるのかな?」


 妖艶な笑みを浮かべたメイナード様が、輝きを放つ赤い目で私を見ていた。

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