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18 一緒に

 ラビー様とメイナード様の後ろから、衛兵が入って来た。

 デュオ様は、衛兵に倒れたままの監視の女を運ばせると「エリザベート様のことは嫌いじゃないけど、僕はリフテス王国には行きたくないんだ。……皆、気をつけて行ってきてね」と言い、厩舎を後にされた。


 デュオ様はハッキリと自分の意見を言われる方の様だ。

 

(本当はシリル様も行きたくないのでは……?)


 そう思い、シリル様を見ると

「純白の毛を持つデュオはどの国でも狙われる、元々この国から出ようとはしない。君が気にする事はない」と、優しく話してくれた。


 シリル様はどうしてこうも、私の考えがわかるのだろう……。


「デュオって老若男女問わず好かれるから、城からもあまり出ないのよ。昔はよく襲われてたのよね、私よりもモテるから嫌になっちゃうわ」とラビー様が言う。


 確かに、デュオ様は中性的な美しさがある。老若男女問わず好かれるのも分かる気がする。

(でも、襲われるのは怖かっただろうな……)



 その後、ラビー様が大好きな、第六王子ルシファ様が、たくさんの荷物を運んで来られた。

 ルシファ様は、クセのない綺麗な淡い金色の髪を顎の位置で綺麗に切り揃え、髪色よりも少し濃い色の獣耳と長くフサフサとした尻尾を持つ、氷の様な青い目の王子様だ。



「ルシファ!」


 ラビー様が喜んで抱きつくが、ルシファ様は顔色一つ変えず「少し待って」と言い、馬車へ持って来た荷物を運んでいく。



 そこに、私が部屋に置いてきた刺繍入りのハンカチを握ったモリーさんがやって来て、側にいたシリル様を押し退け私を抱きしめた。


「先ほど、デュオ様から話は聞きました。リフテス王国へ向かわれるのですね」




 モリーさんは王子様達から、今朝早くに計画を聞かされた。


『詳しくは分からないが、エリザベート様は理由があってリフテス王国へ帰りたがっている様だ、城に入り込んでいる数人のリフテス人から監視もされている。きっと私達には本当の事を言ってはくれないだろうから、ワザと隙を作り、行かせてやろうと思う』


 シリル様達から話を聞いたモリーさんは、帰すのは構わないが、監視まで付いているのはよっぽどの訳があるはずだ、一人でこの国から出すなんて危ない、そんな事なら協力出来ないと反対した。


 すると王子様達は、公には誰も付いて行かないが、彼女が国を出るまでは護衛を付けるから、それが彼女の為だ、だから協力して欲しいと言われ、渋々協力する事にした。


 シリル様に『暖かくて動きやすい服をエリザベート様の為に用意してやって欲しい』と頼まれて、獣人に見えるこの服をクローゼットの一番前に置き、手に取りたくなる魔法をかけておいたのだと話してくれた。

(そんな魔法があるのね)


「でも、よかった。シリル様とルシファ様がご一緒に行かれるなら安心です。それに……」


 モリーさんは私を見て目を細めた。


「思った通り、よくお似合いです! ね、シリル様!」

「……あ」

「『あ』とは何ですか? 女性はハッキリと褒められた方が嬉しいんです。何度もお教えしましたでしょう?」

「……ああ」


 モリーさんに注意されたシリル様の耳が、きゅうんと困った様に伏せられる。

(うっ……シリル様、かわいい……)


 そう思って見ていると、シリル様と目が合った。


 けれど、目が合った瞬間、シリル様は私から顔を逸らす。


 さっきから、どうして?

 抱きしめてくれたり、顔を逸らしたり……どういう事なの?


「…………? シリル様、私どこかおかしいですか?」

「いっ、いや、おかしくはない……ないが……」


 チラッと横目で私を見ては、すぐに逸らすシリル様。

 モリーさんのお見立てのこの服、シリル様の好みではなかったのかな……。



「シリルはね、エリザベート様が可愛いから照れているのよ」とラビー様が言う。


「かわいい? 私が?」


 シリル様を見て首を傾げて尋ねてみた。


「そっ、その……服が……」

「ああ、服が……服ですよね」


 ……ちょっと残念な気持ちがした。ううん、かなり残念だ。

 服か、そうだよね……シリル様はさっきも言ってた。……

 この服は、確かに可愛い。

 服は好みだったのね。



 モリーさんは、はぁとため息を吐き頭を横に振っている。

「ダメシリル」

 ボソリとラビー様が呟いた。




 腰に手を当て私達の会話を聞いているメイナード様を、ルシファ様が怪訝な顔で見ていた。


「もしかして、メイナードも行くの?」


 どうやらラビー様が来る事は想定内だった様だが、メイナード様まで来るとは思っていなかったらしい。


「うん、僕も行く」

「……あのさ、メイナード、一緒に行くなら君には御者をやって貰う事になるけど、それでもいい?」


 長い獣耳がピクピク動き、メイナード様はニッコリと笑った。


「僕は御者でいいよ、だから連れてって」

「ああ、それでいいなら」


 一緒に行くことを許されたメイナード様は、嬉々としてルシファ様を手伝い、荷物を荷台に乗せた。







 シリルは顔には出していなかったが、猛烈に照れていた。


 めちゃくちゃ可愛い。君が可愛い。本当は、そう言いたかった。


 だが、弟達の前では……言えない。


 デュオが投げ飛ばして来たエリザベート(リラなのかも)を受け止めて、余りの可愛さに思わず抱きしめてしまったが……。


 人前では、俺はどうも素直に出来ない。


 だいたい、モリーはどうして耳や尻尾のついた服を選んだんだ!


 ……見てしまう

 服は彼女の体の線をハッキリとさせているし、動く度に飾りの尻尾が、上下に揺れて……。


 無意識に彼女に目がいく、だが彼女がコチラを見れば、俺はすぐに顔を逸らしてしまう


 そんな態度をとるせいで、彼女に不快な思いをさせてしまった。



 ああ、どうしたらいいのか……わからない。

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