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11 そしてまた、クジ引きははじまった。

 リラ(エリザベート)が部屋で食事をしている頃。


 城のダイニングでは王様、王妃様、八人の王子達が食事をしていた。


 マフガルド王国、国王ゼビオスはワイングラスを片手に、シリルに目を向ける。


 静かに食事をとるシリルの顔は、珍しくにやけたり、眉間にシワを寄せたりと忙しい。


「どうだシリル、姫とは仲良くやれそうか?」

「……」

「シリル」


 ゼビオス王が声を掛けると、シリルはハッと顔を上げた。どうやら心ここにあらずだったらしい。


「はい」


 たった一言答え、シリルはフォークの先へと目を落とした。


 先程側近から、シリルが姫と出掛けたと聞いていたゼビオス王は、その事を詳しく聞きたかったのだが、息子達の中でも一番の堅物であるシリルは話してくれそうもない。

 どうやって聞き出そうか、と考えていると第四王子ノルディが、食事の手を止めて話してきた。


「父上、その事についてお話があります」

「なんだ、ノルディ」

「もう一度クジ引きをやり直して下さい」


 碧瞳を真っ直ぐにゼビオス王に向け話すノルディ。それに続くように第八王子ハリアが言う。


「僕からもお願いします。あんなに人の姫が可愛いなんて思わなかった」


 すると、第五王子デュオが「クジ引きじゃなくて直接選んで貰えば?」と話す。


 第一王子カイザーは、そんな発言をする弟達に驚いていた。


「そんなに可愛いのか?」


「……俺はどちらでもいい」

 第二王子マルスは特に興味もないようだ。


「………………」

 第六王子ルシファは黙々と食事を続けている。


 すると突然、皆が集まるダイニングの扉がガチャリと開き、金髪の美男子が現れた。


「ずるいよー、僕も入れて!」


 ひたすらフォークの先端を見つめ、先程まで一緒にいたエリザベートの事を思っていたシリルは、この場で聞こえるはずのないその声に、驚き椅子から立ち上がった。


「メイナード! お前いつの間に入って来たんだ⁈ 」


 メイナードは大声を出すシリルの事をチラリと横目で見たが、特に気にもせず王と王妃に向けて、華麗にお辞儀をする。それから空いていた席に、当たり前のように腰掛けた。


 それまで王子達の会話を静観していた王妃様は、食事の手を止めナプキンで口を拭うとおもむろに口を開いた。


「あなた達、あんなに人の姫は嫌だと言っていたじゃない」


 面白くなさそうに、王妃は美しい白銀の尻尾を大きく一振りする。

 ゼビオス王は、感情を露わにする王妃を笑みを浮かべながら見ていた。


「それは、リフテス人の男しか知らなかったからだよ。まさか女性があんなに小さく可愛いなんて思わなかったから」


 デュオが黄金の目を細めながら王妃に話すと、同じようにハリアもその紺碧の瞳を輝かせた。


「エリザベート様、凄くかわいいんだ……」


 まだエリザベートを見たことのない第七王子ヨシュアが「そんなに可愛いの?」と羨ましげに、さっきから立っているシリルに聞いてくる。


「ダメだ、エリザベートは俺の……妻になるんだ」


 そう言って椅子に腰掛けたシリルは、さっきまで腕の中に抱えていたエリザベートを思い出し、顔を赤らめた。


 そんなシリルの様子を、ゼビオス王は愉しげに見ている。


「そうよ、クジ引きはやり直さないわ。アレには私が魔法を掛けていたんだから! 印の付いた棒を引いた者が、人の姫とどんな形であれ、運命を持っているの」王妃が言うと、「その時僕は居なかったんだから、そのクジ引きは無効です。やり直して下さい! それでもシリルが印を引いたら皆、諦めます」と、メイナードが当然の如く言った。


「……そう?」

 王妃は眉を顰める。


「ラビッツ家は元王族です。参加する権利なら僕にもある! 公爵だし! 身分的にも問題はありません」

 麗しい顔で赤い目を煌めかせ、メイナードは言い切った。


 王妃は、ほんの少し考えた後「そうね」と呟く。


「良いんですね、王妃様!」

 メイナードの言葉に王妃が頷けば「えっ!」とシリルが目を見開いた。


「なんでメイナードが勝手に決めるんだよ!」

「そうだな、それでいい」

「じゃあ、最初に二回引いた人にしない?」

 王子達はそれぞれに話を始める。


「……いや、待ってくれ」


 どんどん勝手に進む話を、シリルは止めようとした。まだエリザベートと出会ってたった一日しか過ごしていないが、今さら彼女と離れることは考えられなかったのだ。


 だが、

「分かりました、皆の意見を尊重してもう一度クジ引きを行う。いいですね父上、母上」


 黄金の尻尾をファサリと揺らし、長兄カイザーがゼビオス王に言った。


「いいだろう」

 ゼビオス王が言うと、王妃もコクリと頷いた。


「なっ! どうしてっ!」

「なんだシリル、まだたった一日、彼女もお前じゃなくても構わないはずだ」

「ぐっ……」


 その意見には何も言えない。

 シリルは仕方なくクジ引きに参加する事になった。



 メイナードの参加によって、一本増やされた棒のクジを引く。


 クジを選ぶ順番は長兄カイザーによって決められた。

年齢の順番で、と言ったカイザーだったが、シリルは一番最後に回された。


「なぜ、俺が最後なんだ」

「お前は一度当たりを引いているから、最後に決まっている」


「当たり……?」


 あの時はハズレだと言ったくせに……。


 しかし、シリルはそれ以上何も言わずクジを引いた。


「何で? 何でまたシリル兄上が当たるんだよっ!」


 最後に引いたシリルの棒に印があった。


 納得いかないと言う兄弟達とメイナードの為、もう一度クジ引きをしたのだが、またもシリルの引いた棒の先に印が付いていた。


 その後、メイナードの幼い兄弟達も押しかけて来た為に、仕方なく更に増やしたクジを引いたが、それでも印はシリルの引いた棒にあった。


「これで皆、納得したでしょう? シリルが姫の相手です。これは決定、そして彼女から結婚相手を選ぶことは許しません。いいですね」


 王妃の深い青い目が皆を見据える。


 そこにいた全員が、王妃に向け「分かりました」と礼をした。







 その後、シリルは部屋へと戻った。



 よかった……。


 その上、彼女からは選ぶ事は出来ないと母上に言われて、俺は安堵した。


 兄弟達の中から選ばれるのであったなら、たぶん俺は選んで貰えないだろう。


 兄弟達のなかでも一番黒い毛を持ち、体も大きい。良くも悪くも、父上に似た鋭い黄金の目は、会うものを震え上がらせる。


 

 初めて会った時、彼女も震えていた。(怖がらせたから仕方ないが)

 この見た目だ、きっと恐ろしかっただろう。




 それなのに……今朝は、俺を美形だと褒めてくれた。

 あんな事を言ってくれたのは彼女が初めてだ。


 それに、横に座っても、馬に乗る為に抱きしめた時も、震えずにいてくれた。


 ……俺は……。








 今、私は寝室にいる。


 寝るには少し邪魔なほど、フリルのたくさん着いた白い寝間着を着て、呆然と立っている私の前には、テキパキとベッドのシーツを取り替えるモリーさんの姿がある。


「シリル様と一緒に寝るんですか?」


「そうです。お二人は結婚されるのですから、何も問題ありません。それに、ベッドはここに一つしかございません。昨夜はシリル様はご自身の部屋にあるソファーでお休みになられた様ですが、それでは体が休まらなかったでしょう。

エリザベート様、一日も早くお二人が仲良くなる為にも是非ご一緒にお休み下さい」


 モリーさんはベッドのシーツを取り替え終えると「それでは、エリザベート様お休みなさい」と言って部屋を出て行った。



 寝室にポツンと取り残された私はベッドを見つめ呆然としていた。


 ……シリル様と一緒に寝る。一緒に寝るの⁈


 他人と寝るなんてした事ない。

 母さんと寝たのだって、ずいぶん幼い頃だ。


 だけど、結婚するんだから……。

 それに私は子供を産まないと……。


「うわぁ……どうしよう……」


 今まで、何となく子供を生んで帰ってメリーナを助けなければと思っていたけど……私、子供ができる様な事はした事ありません!


 キスもないよっ⁈


 キス……シリル様と……?


 ふとシリル様の唇を思い出してしまった。


 私よりも大きな口、薄い唇、少しだけ開かれると見える白い牙。

 牙……キスの時怪我はしないのかしら?

 でも、彼は怪我をしていないのだから、しないよね?


 どうなのかしら?


 ……はっ!


 カチャリ、と寝室の扉が開き、シリル様が黒い寝間着姿で入ってきた。


 ベッドの前で直立不動している私を見て、彼もまた固まった。


「………………」

「………………」


(な、何かを話さないと! 何を⁈ )


 きまずい……。

 キスの事を考えていたせいか、シリル様の唇に目が向いてしまう。


 すると、シリル様が先に口を開いた。


「エリザベートはそちら側で、俺は君に背を向けて寝る様にするから、気にせず寝てくれないか……このままこうしていては体が冷えるだろう?」

「はい……」



 シリル様の声は平静としていた。

 いろいろ考えて意識していたのは、私だけだったみたいだ。


 それに、よく考えたらシリル様はラビー様を好きだった。

 私は決められた結婚相手。


 すごく優しくされるから……好かれているのだと、勘違いする所だった。



 私達は互いに背を向けて、ベッドへと横になった。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 良かった.くじでまたシリルさまが当たって。安堵しました。頑張れシリル様。
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