百聞は一見に如かず、まずは島内を見学しながら説明を受けよ(2)
下り道を喋りながら走っていると2,4キロはアッという間だった。
途中で見かけた建物は2軒だけ、どちらも廃墟というより、、、、、、跡地に近い。
一瞬(何故に?)と思うが気に留めるほどの事でもあるまいと素通りした。
そう、まず知るべきは未だ何も聞かされていないゲームに関する知識なのだ。
「なんだか走りながら話を聞いていると頭に入らない気がするしここからは歩くよ。」
と右折先でスピードを落とした時だった。
渋めのウエアーに身を包み重厚なステップで前方からゆっくりと近づく男性が目に入る。
30才超えだろう堂々たる雰囲気から察するにベテランか。
初めて住人とすれ違う。
そして、、、、ギョッとする。
「ねぇ~今の人、たぶん目の辺りに深い切り傷を負っているように見えたんだけど???」
「あれはわざと傷を付けて治さないファッション傷です。治療は基本的に無料ですが1週間を超えてなお治す意思を示さなければ別です。他部を治す目的であっても次回は給料1年分の有償となります。太っ腹という意味や健康が長いアピールとして流行っているようです。」
「金銭的な負担を受け入れさえすれば後回しにしても問題ないと、、、、つまりNJはどんな古傷でも他と同時に治せてしまう万能薬という理解でいい?」
「そうです。」
「だけど鍛えかけの筋肉や覚えたての記憶がリセットされてしまう等のデメリットを回避してる可能性もあるんじゃないの?」
「肉体を平常に戻すという効果が本人の希望と異なるリスクはあります。筋肉で例えるなら鍛えて変化する予定の状態が平常と見なされるか否かで結果が分かれます。記憶については曖昧な状態が無いのでリセットされる心配は不要です。また古傷のある状態が平常と見なされる場合に備えて整形用NJもあります。」
「ふ~ん、それじゃ大きな傷のある人はみんなファッション傷だって事なんだ。」
商業エリアへ繋がる通りだからか交差点を過ぎる度に人が増えてくる。
住民達の纏う色取り取りの服はデザインもカラフルで見ていて飽きない。
しかし言い方を変えると皆一様にトレーニングの最中を思わせるウエアーを羽織り、、、、目立つような傷がある。
男性に比べ少ないにしろ女性までも。
注目される為の傷なら見られても嫌じゃないだろうと思うとついつい視線を向けてしまう。
ファッション傷にも人それぞれの趣向というか個性があり(ほ~っ・なるほどね)などど頷きたくなる。それにしても朝から見るも聞くも全てが驚かせられるものばかり。
さすがに集中力の低下が気になってくる。
するとちょうど良いタイミングで前方に休憩用らしき木製のベンチ。
「ねぇ、そこのベンチで一休みしようよ。」
「分かりました」
よいせと呟き、切り株のような形状が連なるベンチへ腰を下ろす。
「ファッション傷って大流行だね、半分、いや6割以上の人がそうだよ。」
「この地区は永住権持ちの方がほとんどですから。他へ行くと滅多にいません。千人に一人居るかどうかというくらい希少な存在です。」
「えっ、そうなの。それに永住権て」
(ええい、いっこうに本題へ話が近づかねえ、ゲームに関係ない話はレジュメにでもまとめとけ、トリセツだろーが)
ハヤトは人間以外にさえ気を遣うが脳内では無双タイプ。
早い話、気遣いの災いするコミュ障気質だった。
「永住権持ちとは文字通りです。資格を手に入れる為には永住権持ちの方と結婚するか或いはゲーム内で大きな功績を上げる事が必要です。」
(おっ、初めてゲームという単語が出てきた)
「そ、その辺りの事を是非深く掘り下げて聞きたいなー」
早る気持ちにキラキラと目を輝かせながら尋ねる。
「外部者との結婚は野生種保護の観点から国策として推奨されています。野生種の保護とは人間の定義から遺伝子が退行し外れていくのを防ぐ意味で用いられる我が国の用語です。大きな功績について具体例など詳細情報はありません。」
「んんんと、それじゃゲームについて何か予備知識を教えれるだけでいいから知りたいんだけど」
「これから説明しようとしていたところです。明日、仮想空間に用意されたドリームランドへ意識のみ移動して頂きます。そこで繰り広げられるウオーゲームへの参加が任務となります。ウオーゲームとは生き残りを賭けた戦いであり人間系と魔物系に分かれて争われます。どちら側を選んでも希望のイメージに近い姿の仮想体が準備されます。違いは基本給。魔物の方が2割高となっており戦闘力も高く有利ですので人気もあるようです。人間側で有利となる点は相手を倒した際に得られる報酬。倒すことが難しい分、魔物が人間を倒す報酬に比べ2割高くなります。報酬はドリームランドとリアルの双方で支給されますが相互間の移動は出来ません。意識だけがドリームランドへ繋がる状態をゲームインと呼び、当面の間は人が睡眠時に見る夢と同じ理解で十分かと思われます、生体情報関係学の習得が無いようですし。」
「習得があれば違う説明なの?」
「分かりました。残りの説明に加え伝えます。今後三ヵ月間かけてインに対する慣熟、適性度の変化が測られます。三か月後の判定で基準をクリアすれば初めて本採用となります。またパートナーとリアルでの対面は本採用後となります。それまでアウト時にパートナーと会話は出来ますがドリームランド内で経験した事について聞ける内容は限定的です。人の記憶とは遭遇した事象が五感を通す事で認識されコピー情報を経験として脳へ蓄積、その一連の呼称です。ドリームランドでは準備された仮想体でリアルから持ち込まれた情報の塊である記憶が再生可能です。逆の流れ、イン中の経験もアウト時に情報として持ち出せますが現実脳への蓄積がありませんので記憶としての再生は物理的に不可能です。しかし生体情報関係学の範疇から言えば夢同様に断片的な経験を輪切りにしたような再生のみ短時間だけ可能です。五感を通していない情報ですので脳への定着率も低くすぐにパートナーであるウスコ様を通し記録されることをお勧めします。自身で記録しても良いのですがパートナーと状況の共有をする方が判定の合格率を高める事になります。インに対する適性を左右するのは共感覚(事象を通常以外の感覚でも同時に認識する特異な知覚現象)の発達具合です。ゲームインは共感覚の発達をより促す効果があります。これはゲーマー公務員制度の設立理由であり我が国最大の理念、科学技術と人間のより良い共存へと繋がります。」
「お話の途中すいません、さっぱり分からないんだけど」
「端的に言うと物理原則が違うため記憶情報は向こうへ持ち込み再生出来ますがこちらへ持ち込んでも僅かしか再生出来ないという事です。」
「あの~今度また同じ質問をして繰り返し説明を聞いても大丈夫ですか?」
「勿論です。私はそのための存、シッ」
言葉が突然途切れ強い口調で黙れという意思表示。
訳の分からぬハヤトの身体へ緊張だけが走った。




