部内改革
「でも、今回の提案は、あの【三皇】直々の依頼だから」
「【三皇】? なんだそれ?」
古代中国の三皇五帝に肖った称号か何かだろうか?
「まぁ弦楽合奏部の四天王的な存在だよ。最近できたの。特に傑出した実力の3人の3年生のこと」
「へぇ、カースト制度だけではなく、そんな大仰な称号まであるのか。つくづく弦楽合奏部には呆れるな」
ちなみに、カースト制度というのは、弦楽合奏部のメンバーを三層に分ける決まりのことだ。
弦楽合奏コンテストに参加できる一軍。
学内コンサートに参加できる二軍。
人前で演奏させてもらえず、全体練習の見学と基礎練習をひたすらやらされる三軍、
の三つがある。
120人あまりの部員のうち、半数は三軍だ。それほどに高いレベルを要求される。
まぁもちろん、俺は1年生にして一軍入りしたがな。間違いなく実力は部内トップだったが、指導力不足でコンマスやパートリーダーにはなれなかった。
「いや、呆れるとか言わないでよ。これでも私、一応弦楽合奏部の部員なんだからね!」
「知るか。俺は素直な感想を述べたまでだ。そんなに呆れたと言われるのが嫌なら、自分の手で部を改革してみたらどうだ?」
俺の提案に、エレナは心底失望したという風に肩をすくめた。
「三軍の私にそんなことができるわけないでしょー?」
そう。エレナは弦楽合奏部の三軍だ。ヴァイオリンの腕は控えめに言ってド下手。基礎的な音階すら怪しい状態だ。
「ま、確かにお前の奏でるヴァイオリンの音は実にひどいものだ。だが、なにも楽器の上手い下手だけが上に行くための条件というわけではない。事務処理能力でのし上がり、改革を主導するという手もある」
「そんな。会社じゃないんだから無理だよー」
「いや、俺はできると思う。そもそもお前は会計担当になったんだろう? 部の予算をしっかり管理できていれば、それだけでも評価に値すると思うがな」
弦楽合奏部の今年度予算は50億円なんだしな。
「いやでも、部長にならなきゃカースト制はそもそも廃止できないと思うし……部長には一軍のメンバーしかなれないって決まりもあるし……」
エレナは下を向いてしまう。なんとも女々しい奴だな。まぁ女だから当然なのだが。
「だったら俺が指導してやろうか?」
「え?」
「そんなに楽器の実力が大事なら、俺が一軍レベルにまでお前の実力を上げてやる」
俺は、自分でも驚くべきことを口にしていた。
「いいよそんなの。私、中学の部活でヴァイオリン始めて、それから先輩に教わりながら独学でやってきたから、基礎が全然出来てないんだよね。何度も指摘された。だから、数年かそこらでそれを矯正するなんて無理だよ……」