復縁はお断り
「群れるばかりが人間関係じゃないからな。浮いてるとか、沈んでるとか気にするようなことでもないだろ?」
「そ、そうだよね! てか、沈んでるってなに?」
「知らん。まぁ、話し相手くらいにはなってやるよ。じゃ、俺はこれから用があるから、またな」
「うん、じゃあね」
エレナがクラスに友達がいないというのは、少し意外だったな。
まぁどうでもいい。そんなことよりソロ活動部の方だ。
ソロ活動ということは、音楽に限らず個人で活躍している逸材の揃った部活と推測される。部活動紹介一覧に載っていなかったりと謎が多いが、他分野のトップを走る人間との交流は確実に俺の芸術センスを高めてくれるはず。
そう思い、部室棟の一室を訪ねようと、校舎の外に出た。
すると突然、5人の女子生徒たちに囲まれた。雰囲気からして、新入生だろうか。
「あ、あの西条睦月先輩……ですよね?」
右端の気弱そうな眼鏡女子が問いかける。
「そうだが。……お前たちは、弦楽合奏部の一年か」
楽器ケースを背負っていたので分かった。
「はい。先週の入学式コンサートでの先輩の演奏、感動しました! ぜひとも我が部に……」
「戻らん」
「え?」
きっぱりと断ると、女子生徒は聞き違えをしたのではないかという風に、呆然としていた。
「弦楽合奏部には戻らないと言っているのだ。お前たちは知らないだろうが、去年の三年生と揉めたことがあってな。嫌な思い出しかないんだよ」
「そうですか……」
眼鏡はシュンとしてしまった。
「でも、私たち、先輩のファンクラブには入っているんで! これからも陰ながら、応援させていただきます!」
真ん中の活発そうな女子が言い切る。
「いや応援って……具体的に何が出来るというんだ?」
「私たち、それなりに楽器もできます。アンサンブルの練習相手くらいにはなれます!」
「なるほど、アンサンブルの練習か……」
地味に痛いところを突いてくる。いや、痒いところに手が届くと言うべきか?
なんでもいいが、俺はアンサンブル力がないとかつての師匠に言われ続けてきた。ヴァイオリン協奏曲は得意だ。だが、ヴァイオリンソナタ、弦楽四重奏、弦楽合奏、オーケストラとなると、途端に浮いてしまう。
プロとして活躍していく以上、無伴奏曲や協奏曲しか弾けないようではダメだ。
すると、良い提案なのかもしれない。
「じゃ、いまここで何か合わせてみるか」
「えっ!」
真ん中の女子は相当面食らったようで、近くの女子生徒の陰に隠れてしまった。なんだ威勢がいいのは口だけか。
「えっと、ちょっと今は心の準備が……」
「練習期間をください」
「すみません、私、こういう場面でちょうどいい曲を知らなくて……」
他の三人も困り果てている。
すると不意に、一番左の女子がヴィオラを取り出し、弾き始めた。
この旋律は……ドヴォルザーク作曲、弦楽四重奏曲第十二番『アメリカ』の冒頭の旋律か。確かに、これはヴィオラのメロディから始まる曲だったな。
面白い。
合わせてやる。
俺は素早くヴァイオリンをケースから取り出した。