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27.泣いて、笑って、それでも好き

挿絵(By みてみん)

【秘密の恋、知られて……(1/2)】

(バレた……知られてしまった……!)


 桜子は蒼白になった。絶対に知られてはいけない秘密が、よりによって親友の二人に……



 わかってはいるんだ、自分でも。桜子にとって、それがどれだけ真剣で悲痛な思いであっても、人から見れば、どれだけ異常で気持ちの悪いことなのかは。覚えていないから、知らないから、だからって赦される感情ではないことは。


「でも……仕方ないじゃないか……!」


 サナとチーの目が、非難と軽蔑をしているように、桜子には見えた。それが悔しくて、悲しくて、両手を握り締めてボロボロと涙を零す桜子に、サナとチーがギクッとする。

「桜子……」

「だって、知らないんだよっ! 会ったことない人なんだよっ! だから、一緒にいると、ドキドキしたって仕方ないじゃないかっ!」

「桜子、アタシらそんな……」

「わかってるよ! 自分でも気持ち悪いと思うよ! 自分でもどうしようもないんだよ! だから、胸にしまって、言わないんじゃないか……お兄ちゃんにだって言えないんじゃないか……なのに……それなのに……」


「ヒドいよ、二人とも……」



 桜子が顔をグシャグシャにしていると、サナとチーが、両側からガバッとしがみついてきた。

「ゴメンっ……ゴメンね、桜子……っ!」

「アタシら、そんなつもりじゃなかったんだよ……!」

「うええええん……うわああああん……」

もう、サナもチーも顔を真っ赤にして泣いていた。


 三人は抱き合って、人目も気にせずわあわあと泣いている。誰もいない中庭で、本当に良かった……



 こうして、桜子達の“学校裁判”は閉廷したのだった――……




 **********


 しばらくして、三人はベンチに座って、夏の気配の近づく青空を見ていた。



 外聞もなく泣くだけ泣いて、少しだけ気分がすっきりしていた。サナはまだ目を真っ赤にして、申し訳なさそうに、桜子のやっぱり赤い目を覗き込んだ。

「ゴメンな、桜子。アタシら、桜子を傷つけるつもりはなかったんだよ」

桜子は悲しそうに微笑んで、首を振った。

「ううん。自分でもわかってるんだ、兄妹でさ、オカシイってことは」


 するとチーが桜子以上に激しく首を振って、

「そんなことないよ、だって考えてみなよ」

桜子とサナに向かって言った。

「全然覚えてないならさ、それって知らない高校生のお兄さんと、ある日突然一緒に暮らし始めるってことじゃん。しかも、相手はあの桜子兄ちゃんだよ?」

二人の知っている桜子兄ちゃんは、せいぜい中学生の頃までだが、ショッピングモールで久しぶりに見た遼太郎は、すっかり背も伸び、ルックスも良くて、完全にオトナのお兄さんだった。

「あー……そりゃ心臓ドキバクだわ」

しかも桜子の言うようにめちゃくちゃ優しいとくれば、


「そりゃあ確かに“どうしようもない”なあ」


 自分の身に置き換えてみれば……そんなのサナだって、たぶん好きになる。



 三人で泣いて笑って、桜子にもほんの少し元気が戻ったようだった。

「あのね、お兄ちゃんと“初めて”会った時にね……」

桜子は二人に、病院での出来事を告白した。その時お兄ちゃんにひと目惚れをしてしまったこと、一緒に暮らしてますます募っていく思いを。


 これを聞いたサナが顔をしかめて、

「うわ、初対面からそれかあ。桜子兄(さくらこにい)、やり方が汚えよな」

「うん、そりゃ桜子兄ちゃんが悪いわ」

欠席裁判で、どうやら遼太郎に有罪判決が下ったらしい。

「でも、出会った瞬間からかあ……そりゃ切ないよなあ」

サナが腕組みして言う。

 と、チーが立ち上がってぱっと手を挙げた。

「はいはいっ! 私、桜子を全力で応援することに決めましたっ!」

「待て、小型肉食獣(ラーテル)。お前が全力で応援すると、それはそれで不安だ」

「ラーテル?」

不思議そうにする桜子に曖昧に笑って、

「いっこ訊くけどさ、その桜子の“好き”ってどんくらいのもんなの?」

サナはそう問い掛けた。



 桜子は一瞬困ったが、

「うーん……自分でも、よくわからないんだ。一緒にいると、ことあるごとにドキドキさせられるんだけどねー」

とぼけてサナとは目を合わせずに、

「もしかしたら、記憶が戻ったらハッと我に返るかもしれないし」

そんなふうに言葉をつなげた。


 もちろん、本当は自分でも手に負えないくらい、桜子の思いは強い。でもサナとチーがわかってくれたと言っても、自分の本当の気持ちを打ち明ける勇気は、桜子にはまだなかった。

(それに……)

自分でもよくわからない、記憶が戻れば遼太郎への思いが消えるかもしれないというのは、あながち嘘でもない。桜子自身にさえ、自分の気持ちの在り処がわかっていないのだから。



 桜子の言葉に、サナは納得したように、心なしかホッとしたように頷いた。

「そっか、そうだよな。いつかは桜子の記憶だって戻るはずだし、その時はまたその時だよな」

「うふぅ、私は戻ってからがむしろ本番だと思うけどなあ?」

チーが茶化したが、桜子本人も、もしかしてそうだったどうしよう、という懸念はないでもない。


 失くすはイヤだけど、残っても困る、そんな複雑な気持ちに……


 けれど、いつ訪れるかも知れない先の不安より、桜子は、自分のどうしようもない今を、サナとチーがそっと受け入れてくれたことが嬉しかった。

「ゴメンね、サナ、チー。ビックリさせたよね」

「何言ってんだよ。そりゃあ、驚いたは驚いたけどさ」

「カワイイは正義! 桜子なら、お兄ちゃんだってお父さんだって、行け行けGOGOでオトしちゃえばいいんだよ」

「お、おとーさんはちょっと……」

確かにおとーさんも、お兄ちゃんに似てイケオジだけどさあ。



 そこで桜子は、二人に向かってモジモジと口ごもりながら言った。

「あの、それでね? このことは、他の人には……」

サナとチーは顔を見合わせ、開けっぴろげな笑顔を見せてくれた。

「わかってるよ、当たり前だ。このことは、三人だけの秘密だよ」

「まあ、桜子兄ちゃんには、私から言ってあげてもいいけどお?」

チーがそう言って、プッと吹き出した。桜子とサナもつられる。

「あははは……それは、いつか自分で言うよう……」

「頑張れ、桜子―」


 サナはそう言って、笑いながら、ちょっと真剣な目をした。

「けど、覚えとけよ。アタシとチーは、何があっても桜子の味方だからな」

チーもニヤニヤしながら、それでもしっかりと頷いた。

「応援するぜー」

「あはは……応援されちゃっていいことなのかなあ……」

桜子は、笑って、笑ったからだけじゃなく、また涙が滲んで……


 二人に打ち明けて良かった、心からそう思えた。


 三人がそうやって笑い合っていると、予鈴のチャイムが鳴った。

「って、弁当―!」

「マジか、昼飯食い損ねてるじゃねーか!」

恋に恋する中学二年(オトシゴロ)、まだまだやっぱり色気より食い気。



「ところでさ……」


 結局手付けずの弁当箱を下げて教室へ戻る途中、サナが口を開いた。

「アタシらが教室出る時、アズマの奴、全く事情知らないクセにカットインしてきたよな……?」

「だねー。私達がドア閉めた後、何かガンッて机叩いてたよねー、アズマ……」


 あの空気、あの小芝居に、アドリブで飛び入りするか、フツウ……?


「何て言うか、タダモノじゃないよねー、アズマ君」

「ああ……ちょっとスゲえよな、あいつ……」

「私、結構キライじゃないわー、アズマー」



 こんだけのことがあって、泣いて笑って、まさか本日の結論“東小橋君はタダモノじゃない”。何だか納得いかない三人であった。




挿絵(By みてみん)

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