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掲げられたデカい旗は、白字に黒の線文字が描かれたシンプルなもので、ミス国の旗ではないことは、すぐに分かった。
「どうやら、あれは数字の『9』のようですね」
と、ゾモ国海軍が認識するとすぐに、ガグ号からゾモ語での通信が発せられた。声は、人事部長のゼベバである。
「我々は、ミス国の民間団体『護憲国民連合』に協賛するものである。今回の渡航は、我が国領土ジャレメ島への観光を目的に挙行された。この行動は、我が国が世界から尊敬される憲法9条の精神を順守し、平和裏に行われるものであるので、上陸への妨害行為等は差し控えてもらいたい」
ザベバの声は続く。
「ミス国憲法9条。一、ミス国民は、正義と秩序を基調とする国際平和を誠実に希求し、国権の発動たる戦争と、武力による威嚇又は武力の行使は、国際紛争を解決する手段としては、永久にこれを放棄する」
言葉はすべてゾモ語に翻訳して発せられた。
「二、前項の目的を達するため、陸海空軍その他の戦力は、これを保持しない。国の交戦権は、これを認めない」
そこまで言うと、ザベバの声は最初に戻り、これを繰り返した。
「戦力は保持しない?だったら、さっきまでいたミズ国海軍の船団は何だ?武力による威嚇はしない?威嚇と抑止力、何が違うと言うのだ。あの国は一体、何を永久に放棄したのだ」
ゾモ国の海軍司令官プブは、そんな言葉をつぶやいた後、部下に3つの命令を出した。1つ目がゾモ国各船舶の甲板に集まった狙撃兵だ。集合した狙撃兵にプブは命令した。
「目標は、あの『9』の旗だ。あれを木端微塵にせよ!」
一斉射撃が始まると、弾は旗に命中し、ところどころに黒い穴が開き始めた。流れ弾が、ミス国の国旗も貫く。しかし、硬い装甲で守られたガグ号は、速度を緩めることなくジャレメ島へと進んでいく。
続いて、2つ目の命令、今度は、ジャレメ島の沿岸にも、十数人の狙撃兵が現れ、そちらからも旗への射撃は始まった。しかし、それにもガグ号は恐れることなく進んで行く。
ところが、3つ目の命令は、ガグ号の進行を完全に阻止することに成功した。何と、水中から太いリールがガグ号のスクリューに巻きつけられ、それがゾモ国の大型船舶に繋がれたのだ。さらに、別の船舶からは、ガグ号の船体に、モリ状のものも打ち込まれた。
やがてガグ号は、スピードを緩めたかと思ったら、ついには逆走を始めた。ジャレメ島から少しずつ離れて行く。リールで推進装置が破損すると、後退速度は一段と早くなった。
その間も、島から、そして船舶からの銃撃は続けられていて、もはや旗は大小含め、文字の片りんすら見えないほどボロボロになっている。
ガク号がミス国との国境近くまで来ると、銃声もやみ、静けさが訪れた。他の全員のメンバーに動くのを懸命に抑えつけられていたテトツが、這うようにして甲板に現れたのは、それからすぐの出来事だった。
テトツは遥か遠くのジャレメ島と、ボロ切れの舞う2本のポールを交互にゆっくりと眺め、甲板に1人立ち尽くしていた。
「おい、ミス国からの連絡はあるのか?」
ザベバが部下に尋ねると、
「ありません。処遇はこちらに任せる、ということでしょうか」
と答えた。サベバは最後の命令を下した。
「よし、なら、あのかわいそうなミス国人を丁重に保護してやれ」




