第2話 手合わせ
東北の田舎のとある小学校にやって来た転校生。その転校生を歓迎するべく開催されたVRMMO内での歓迎会で、圧倒的な力をもってクラスメイトを全滅させたのは、サーバー最強ギルド 『ブルート・エルケーニヒ』だった。
そのブルート・エルケーニヒこと、通称『ブルエルケ』の1人で個人ランキング3位のリリーと戦うことになった転校生のシャルは自らの愛刀・風斬刀を持って、前に出る。
リリーは己の身の丈も程ある杖をストレージに仕舞い、代わりに何の変哲もない長剣を取り出した。
「おーい、準備はいいか?」
ブルエルケのメンバーで個人ランキング4位のニートゥが尋ねた。リリーとシャルは頷き、互いに武器を構える。
「「うん」」
「んじゃ、始め‼︎」
合図と共に、シャルは駆け出した。
まずは腕を斬り落とすべく、肩を狙う。風斬刀を振るうも純白のローブに弾かれた。
リリーはシャルの腕を捩じり上げて、長剣を首に突きつけようとする……が。
「ーーッ⁉︎風よ‼︎【爆ぜろ】‼︎」
咄嗟にシャルがそう言うと、風が一点に集中し、爆発した。衝撃を使いシャルは上に跳んで、そこから落下する形でリリーに向かっていく。
「うわっ!びっくりした!」
対するリリーはシャルの攻撃を半歩退がって避ける。この際の衝撃で土埃が辺りを包んだ。シャルは嫌な予感がして、後方へ跳躍。次の瞬間、さっきまで居たはずの空間を炎が通り過ぎていった。
「あちゃー、あれが当たれば良かったのになぁ。ま、無理だよね〜。」
視界が塞がれた状態の中、リリーは微かに吹く風の先を目掛けて一直線に走って行く。
シャルがリリーの接近に気付き、風の刃を生み出す。土埃を散らし、敵の首を落とさんと迫った。
「うんうん、じゃ勝手に確かめちゃうよ?」
リリーの頭の右上から来た風の刃を、首を少し捻ることで回避しさらには剣で迎撃。
正面から来た風の刃に向かって手を突き出すと、手袋に刻まれた奇妙な赤い印が光った。それと同じようにシャルのリボンも僅かに光る。
何故か頷いたリリーは自らの緑色の目を細め小さく微笑んだ。
そして口元を微かに動いた。
シャルにはそれが一体何と言っていたのかは分からなかったが、ほんの少しだけ……しかし、確かな恐怖を感じる。
次の瞬間には迫っていた風の刃は霧散し、これでもう全て無くなっていた。
「そっかぁ、じゃあもういいや。終わりにしよ?ね?」
まるでじゃんけんをしよう、と誘う様な気軽さでリリーは言った。
シャルはそれを聞き、全力で防御を開始した。風を幾重にも束ねて分厚く頑丈な盾を創りあげる。
「シャルちゃんおつでした〜。……ってことで?【喰らえ】」
リリーの手から竜の頭の形をした炎が生み出された。シャルの盾を食い破らんと迫った。
火の粉を散らしつつ、派手に攻防が続く。
リリーはこの時、内心でため息をはいていた。シャルの髪を束ねている白のリボンにある赤い印に目をやる。それはとある人物が『ブルート・エルケーニヒ』のメンバーにだけ渡した物だった。
炎の竜が風の盾を食い破る。そしてシャルへと向かった炎はその寸前で、まるで何かに弾かれたように飛び散った。
シャルは炎に飲まれると思い、目を瞑っていたが何も起きないことで恐る恐る目を開く。
シャルの首にはリリーの剣が突きつけられていた。
「この勝負、リリーの勝ちっ!」
ニートゥがそう宣言し、この戦いは幕を閉じた。
◼︎ ◼︎ ◼︎
シャルはこの時、疑問に思っていた。
何故、リリーの炎は弾かれたのだろうか、と。
絶対に命中する筈だったのに。
……手加減?それとも技のキャンセル?
どれともエフェクトが違う。
「うーん…。なん……だ、ろ……?」
シャルは知らない。炎が弾かれる……しかもシステムによってそれが起きたという事が、一体何を表しているのかを…………………。
◼︎◼︎◼︎
同じ時、ブルート・エルケーニヒのギルドマスターであるアルネスタが、誰かとの電話を切った。
「そうか……。一応、招待はしないとなぁ………。」
この呟きを聞いた者はいなかった。