バレンタインデー
バレンタインデー。俺にとっては憂鬱な日だ。何故かって?
──チョコが欲しいからである。
わかっている。皆まで言うな。俺みたいなやつがチョコを貰えるはずがない。……わかっている。
──でもどうしてもチョコが欲しい!
男としてのプライドを捨てた連中は、一週間前から「俺って実はこんなに優しいんだぜ〜」アピールをして、女子に媚を売れるだけ売っている。だが、それは俺のプライドが許さない。一度クラスメイトに「そんな事して悲しくないのか?」と聞いたら「プライドでチョコが貰えるか貰える訳ねェだろ!!」と食い気味に返された。全くもってその通りなので、俺は何も言い返せなかった。
──でもチョコが欲しい!!
義理チョコでも構わないし、なんなら買ったままの板チョコでもいい。
──俺は! 女の子から渡される!! チョコが欲しい!!!
心の内で望みを叫びながら、 下駄箱を開けた。自分のロッカーを開けた。机の中を見た。何も入っていなかった。
──そう、何も入っていなかったのである。
〇〇
「はあぁぁぁぁぁ……」
俺は盛大にため息をついた。まぁ分かってはいたけど、改めて現実を突きつけられるとかなり堪えるものがある。それでも求めてしまうのは、男子の性だろうか……。
「嗚呼、憂鬱だ……」
俺が朝っぱらから黄昏ていると──
「おっはよー!」
「いで!?」
脳天に衝撃が走った。
「何朝っぱらから辛気臭ぇ顔してんだ? ため息つくと幸せ逃げるぞ〜」
「だからって他人に馬場チョップキメるか普通!?」
「それは辛気臭ぇ顔してる翔太が悪い」
「理不尽!!」
「痛かったでちゅね〜。ほ〜ら痛いの痛いの飛んで行け〜」
「子供扱いするな!?」
一通り俺を弄り倒した晶良は、前の席を占領して、こっち向きに座って背もたれに肘をかけた。
「にしても珍しいな、お前が朝っぱらから沈んでるなんて。何かあったか?」
一転真面目な顔になって、俺を心配する素振りを見せる晶良。こういう時の晶良は、ちゃんと話を聞いてくれる。俺は訳を話す事にした。
「無いんだよ」
「何が?」
「チョコが」
「…………は?」
「どこを探しても無いんだよ……。バレンタインチョコ」
はぁ……と、俺はまたもやため息をつく。そんな俺を見て晶良は
「あははははっ!!」
腹を抱えて笑い出した。間違えても年頃の乙女がする笑い方じゃない。
「小せぇ! 悩みが小せぇ!! あははっ! 腹痛てぇ!!」
「うるせぇ! こちとら真剣に悩んでんだよ」
「わかったわかった。悪かったって」
晶良は、ハァハァと肩で息をしながらも、息を整えていく。
「はぁ~、笑った笑った。いやぁ、可笑しくてしゃーない」
「……ケッ」
「むくれるなって。チョコやるから」
「マジで!?」
「……お前、チョロいな」
はいよ。と手渡されたのは、バレンタイン限定のデザインが印刷された買ったままのガーナチョコだった。
「マジだ! ありがてぇ~。後で美味しくいただくわ」
「おうよ」
やべっ、時間だ。と、晶良はそそくさ自分の教室に戻る素振りを見せた。時計の針は始業二分前をさしていた。
「あっそうだ。今日一緒に帰んね? ちょっと付き合って欲しいトコがあるんだけど」
「いいぜ。じゃあ、校門で待ち合わせな?」
「オーケー。そしたらその時に返事を聞かせてくれ」
じゃ。と、晶良は教室に戻っていった。
俺は晶良に貰った板チョコを早速食べようと、ラベルを剥がしながらふと気づく。
「そういや、返事って何の返事だ?」
まぁいいか。と、板チョコのラベルを剥がし終えると、ひらりと、一枚の紙が落ちた。
「ん? なんだこれ?」
俺はそれを拾い上げて、中身を確認した。
『翔太へ
好きです。
恋人になって下さい。
晶良より』
狸塚さんのバレンタイン企画に参加させて頂きました。
この場を借りて狸塚さんに御礼申し上げます。
(*´∇`)ノ ではでは~