1話 全ての始まり
薄暗くなっていく教室で僕は委員会の仕事をこなしていた。
「リツ~、全然終わんないよ~」
そう言ってため息をついているこの女は僕の幼なじみの小鳥遊 凜、僕と同じく委員会メンバーで、顔も良く、頭もいいから結構モテているらしい。
「もう遅いし今日はこの辺にしとくか」
「うん!そうしよー」
凜は“疲れた~”と言う顔をしているが、仕事をしたのはほとんど僕だ。
「凜がちゃんと仕事しててくれたらもうちょっと進んだのに」
「ん~、私はちゃんと仕事したよ~」
「いやいや、してなかったよ」
ここまで来ると流石に呆れる。
「ずっと、ちゃんとリツの顔見てたもん」
「なっ…」
(いきなり何を言い出すんだこの女は!)
「あー、リツ顔赤くなってる~」
「う、うるさい、さっさと帰るぞ」
「はーい」
時計の短針は既に7時を越えている。のにも関わらず凜はコンビニ、近所のたい焼き屋に寄り道する。
「凜もう勘弁してくれ今何時だと思ってる?8:30だぞ!」
「えー、もうそんな時間かー」
「おい、コラ、めちゃくちゃ棒読みだぞ」
「だって、もっとリツと一緒に居たかったんだもん」
こいつ、ホントに言ってて恥ずかしくないのか!?冗談でも恥ずかしいだろ普通。そんな事を考えていると、
「キャァァ」
悲鳴が聞こえてきた。
「リツ今のって」
「ああ、急ごう」
僕たちは悲鳴のした方向に急いだ。
「確かこの辺だったよね?」
「ああ、その筈だけど」
その時
ードゴォォン
正体不明の轟音が鳴り響いた。
(一体なにが起きたんだ…)
「リツ、私なんか怖くなってきたんだけど」
凜が僕の服の袖を掴む。
「大丈夫、僕がいるから、こう見えても総合格闘技で全国一位なのしってるだろ?」
そう、実は僕、総合格闘技の日本一なんだ。だからその気になれば不良の3人や4人など朝飯前だと自負している。
(来たっ…)
だんだんと足音が近づいてくるのが分かる。同時に凜の袖を握る手が強くなる。
足音の正体の形がうっすらと見えてきた。
「凜下がってて」
凜が不安そうにしながら2、3歩下がる。僕も臨戦体勢になる。
「お前、うまそうだな」
「はっ…」
足音の正体が呟いた直後、左腕に激痛が走る。何が起きたか分からないまま左腕を見ると、腕の肩辺りが噛み千切られていた。
「いっ…」
「リツっ!」
凜が叫ぶ。
「モグモグ、お前の肉、旨い、でも、女の肉、もっと、旨い」
姿を現した足音の正体は30台ぐらいの男で、瞳孔は開ききっており、服はボロボロで髪もぐしゃぐしゃだ、そして、なにより口の周りと手に持ったナイフにべっとりと血がついている。
その姿を見た凜は完全に腰を抜かしている。
「女、発見」
男が凜に気づき、襲いかかる。
「お前の相手は僕だ!」
僕は正拳突きを放ったが避けられる。
「邪魔者、先に、食べる」
そう言って男が襲いかかってくる。
(くそっ、早急もそうだけど、動きが速すぎる)
何とか避けても、男は人間離れした速さで追撃してくる。
(これじゃあ、長くは持たない、攻撃しようにも生半可な攻撃じゃ避けられるし、本気で攻撃したら最悪殺してしまうかもしれない)
「お前、すばしっこい、面倒、だから、先に、女、食べる」
男が急激に標的を変える。
(マズイッ、)
避ける体勢に入っていたため反応が遅れた。
「やめっ、来ないでっ…」
「いただきま…」
僕はギリギリで男の足を掴んだ。
「うおぉぉぉりゃぁぁ」
男を全力で上空に投げる。しかし、その勢いで僕は体勢を崩してしまった。
男は凜を目掛けて落ちてくる。
「いただきまーす」
男は大きく口を開く。
「いや、いやぁ」
「くっそぉ、させるかぁぁぁ!」
僕は崩れた体勢から、無理やり足で地面を蹴り、その勢いで渾身の回し蹴りを男の頭部に放った。
バギッと音を立てて弾けるように男の体が吹き飛び、地面で気絶したようだった。
「ハァハァ…凜、大丈夫か?」
「う、うん、私は大丈夫、でも、リツの左腕が…」
「あ、あぁ、僕なら平気だよ、痛みには馴れてるから…」
ピーポーピーポー
パトカーの音が聞こえてくる、おそらく誰かがさっきの悲鳴を聞いて警察を呼んだのだろう。
「あれっ、何か、あの人蒸気みたいなの出てるよ」
凜の言葉で男の方向を見ると、男はぐったりして動かず、体から黒い蒸気の様なものを出している。
しかし、僕にはぐったりして動かない男しか目に入らなかった。
「も、もしかして僕、人を殺してしまったのか」
僕は我にかえった。すると、急激に罪悪感が込み上げてくる。
「リ、リツ正がないよ、私達殺されそうだったもん、せ、正当防衛だよ」
「ハァハァ…」
呼吸がままならなくなってくる。
男の方を見ると宝石のようなものが落ちていた。
「ハァハァ…」
無意識にその石に手を伸ばす。
「リ、リツ触らない方がいいよ、な、なんか怖いよ」
「ハァハァ…」
「リツ!」
僕は石に触れた。
ーすると、石は光だし、腕輪のようになって腕にはまったかと思うと、腕に溶け込むようにしてタトゥーのようになった。
そして、次の瞬間、僕は知らない場所にいた。