11 強くなる。
先ずは、私の試し撃ちに付き合ってもらう。
炎の弾丸・氷の弾丸・雷の弾丸・風の弾丸・土の弾丸を込めた。
岩に向かって、一発撃ち込む。命中すれば、炎が燃え上がった。岩は黒焦げになる。
「炎の弾丸。相手に火傷も負わせられるよ」
火傷を負うとHPが徐々に減る。なんてことはないのだろう。
続いて、二発目。命中すると、パキパキッと岩は凍り付いた。
「氷の弾丸。動きを封じたい時に役に立ちますね」
クロさんの言う通りだ。
動きを封じたい時に、氷の魔法石で弾丸を作ろう。
続いて撃ち込むのは、雷の弾丸。命中すれば、バチバチと発光した。
「雷の弾丸。命中すれば、怯ませることも出来るよ」
命中すれば、感電死しそうだ。
人には向けないようにしよう。
「風の弾丸。鎌鼬を起こします」
風の弾丸を命中すれば、岩が鋭い風で粉々になった。
恐ろしい風だ。
「土の弾丸。岩をも砕く」
弾丸が命中すると、岩は砕けた。
パワーが必要な時はこれだ。昨日の巨人にも、これくらいのパワーがあれば、倒せたのだろう。
「基本どれを使おうかな……」
「オレは雷を基本使ってるー」
「援護射撃なら、動きを封じるものがいいね」
「アリスは炎の方が合ってる気がする」
ディールに相談していたら、ヨールが言った。
じゃあ炎にしようかな!? なんて!
好きな人に言われちゃ、そっちに頷きたくなる。
「アリスは見た目が炎属性って感じだもんな。炎がいいんじゃないか?」
「目くらましにもなりますし、炎でもいいと思います」
ノウスさんとクロさんも、賛同した。
私が赤みかかった髪をしているからだろうか。
多数決で、炎に決定だ。
「うん、じゃあ炎にする。でも氷の魔法石も持ってていいかな?」
「いいよー」
炎と氷の魔法石を、ディールから受け取った。
ポーチは、弾丸で一杯だったけれど詰める。
試し撃ちもしたから、次は狩りに向かう。
初めは、巣を作った蜘蛛退治。蜘蛛型の魔獣。勿論、小さな蜘蛛なんかじゃない。人並みに大きなものだった。炎の弾丸は、効果覿面。
顔に命中させれば、じたばたと悶えた。そこをヨールが叩くように斬る。
ドンドンドン、とディールが次々と撃ち抜く。
「うわぁこわっ! 気持ち悪いっ!」
連続して仕留めたディールがかっこよかったのに、コロッと嫌がる表情になる。確かに、人並みに大きな蜘蛛がうじゃうじゃいたら怖いものだ。
「弱音を吐くなよな」
ノウスさんは、大剣で薙ぎ払う。まだ動く蜘蛛を、私が撃った。
背後に回って襲い掛かろうとした蜘蛛を、クロさんがダガーで切り裂く。
そっちも息の根を止めるために、撃った。
「アリスは、虫大丈夫なの?」
「んー、魔獣だから平気かな」
蜘蛛の子散らして腕を這われては悲鳴ものだけれど、撃ち抜けやすいサイズなら対処しやすくていい。そんな考えだ。
「そうなの」とむくれたように唇を尖らせたディールは、蜘蛛退治に集中した。
退治した証拠に、蜘蛛の牙を抜く。
「次、行くぞ」
次の狩りは、ここから東南に進んだ先の荒地に、蔓延る犬型の魔獣。
こちらも数が多かった。見たところザッと三十はいる。
だから岩山に登って、私とディールが撃ち抜いて数を減らす作戦にした。
ポーチの中の弾丸全てを使い切るために、ドンドンッと撃ち抜く。
凍り付いたり、感電したり、裂かれたり、砕けたり、焦げたり。
仲間を削っていく私とディールを狙って岩山をよじ登ろうとする魔獣は、クロさんが投擲ナイフで仕留めた。七色に光ったナイフは再び、クロさんの手に現れる。どうやら戻してまた召喚したようだ。そういう使い方もあるのかと感心つつ、引き金を絞る。
十を下回る数になったところで、ヨールとノウスさんが飛び込む。
私達は援護をしつつ、ヨール達が倒していく光景を見ていた。
あっという間に、犬型の魔獣を狩り尽くす。
「よし、ちょっと休憩するか」
「うん」
かなりの数を狩ったので、そうヨールが決断する。
私はそのまま、その岩山に座った。すると、カメラを差し出された。
クロさんだ。キャンピングカーに置いてきたのに、持ってきてくれたみたい。
「ヨール、ノウスさん、ディール。こっち向いて」
私はカメラ越しに、下にいる三人を見る。
カメラに気が付いた三人は、ニッと笑みを浮かべる。ディールはピースもくれた。
カシャリ。うん、三人のことも撮れた。
「クロさんも下に行ってくれない?」
「それなら、アリスも一緒に映りましょう」
「え? 私も?」
その発想はなかったな。
ちょっと迷って、頬を掻く。
私は楽しそうにしているヨール達が撮れれば、満足なのだけれど。
でもクロさんが私の手を取って、飛び降りるように促す。
私はカメラを一度ポーチにしまって、飛び降りた。
スタン、と着地。ちょっぴり痛い。現実味があっていい。
「よし! じゃあ集まって!」
ディールが、早く早くと手招く。収まるようにそれぞれ顔を近付けた。
カメラを持ってくれたのは、私の右隣のクロさん。左隣はヨール。顔が近くて、照れてしまう。上はノウスさん、顎を乗せてくる。ヨールの左隣のディールがグイグイ押してきた。
きゃあ逆ハーレム!
私は内心で黄色い悲鳴を上げつつも、和気あいあいとした空気が心地良くて笑みを零す。ずっとこの雰囲気が続けばいいと願う。
カシャリ。シャッター音を聞いてから、カメラを受け取り確認する。
うん、笑顔の五人がよく撮れていた。
こうして見ると不思議だ。だって、憧れの四人と一緒だもの。
全員が覗き込むから、また顔が近くて、ドキドキしてしまう。もちろん、ヨールの顔が近いせいだ。手が震えてしまいそうだった。
「よく撮れてるじゃん! 現像してキャンピングカーに貼り付けようよ!」
「それはいい考えですね」
「うん。街に戻ったら現像しよう」
ディールの提案に賛成して、私は空の写真を一枚撮る。まるで翼を広げた鳥みたいに、雲が広がっていたからだ。雄大な空。
「へー、すげえ空だ」
「ね」
ヨールが感心の声を漏らす。私は相槌を打つ。
トクン、と胸の中で心地良いものを感じた。
「アリス。次は接近戦で挑まないか?」
ノウスさんが笑みを寄越す。
「ヨル達と同じく剣で戦うってこと?」
「いや銃でいい。ほら、昨日は近付きながら撃って仕留めただろ?」
「あれみたいに近距離の戦いに慣れろってこと?」
「そういうことだ」
ノウスさんの特訓か。受けて立つ。
「そんなことさせなくてもいいではないですか」
クロさんが、心配している。
「大丈夫、行けるよ」
私はグッと親指を立てて見せた。
けれども、次の狩る相手は大蛇だ。それも人を丸呑みに出来そうなほど大きな口をしている巨大な黒い蛇が、三匹目視。
クルリ、と私は踵を返す。
「やっぱりやめておく」
「だーいじょうぶだ。自信持て。この前の度胸を発揮しろ」
ガッと頭を鷲掴みにされたかと思えば、クルリと方向転換された。
わーノウスさん、手が大きいなぁ。
度胸を発揮しなくちゃ。やる時はやれるって示さないと。
ふっと息を吐いて、緊張を振り払う。
「うん。行く」
リボルバーを構えて、足を踏み出す。
バン、と撃つ。頭に命中して、炎がボッと灯る。それでも倒せなかった。
シャーッと怒った大蛇が向かって来ようとしたから、私も走り出して撃ち込んだ。仕留めた。
でも残る二匹の大蛇も、私に向かって来ようとする。前方に飛び込んで避けようとしたけれども、先にヨールとノウスさんが現れて防いでくれた。
「上出来だ。あとは残る敵に注意もしとけ」
「うん!」
ノウスさんは噛み付こうと大きく口を開けた大蛇を、押し退ける。
その大蛇に、私は弾丸を撃ち込む。ボンッと炎が弾けて、顔に火傷を負った大蛇は暴れた。その首を大剣で切り落とすところを見ずに、私はヨールが押し合っている大蛇に向かって発砲する。ヨールに当たることを危惧して、狙いは身体の方。怯んで身を引いた大蛇を、ヨールは切り裂いた。
「次は一人で挑んでみるか」
なんてノウスさんが半分冗談を言うと「だめですよ」とクロさんの叱り口調が飛んだ。
「最後は強敵です。力を合わせて戦わなくてはいけません」
最後の魔獣は、大きく陥没した場所にいた。
見た目はサイのようで、でも大きさは象よりもある。
上から私は狙いを定めた。バン、と撃つ。顔に命中して炎に包まれた。
だが、ビクリともしない。こちらに気が付き、「ガオー」と声を上げた。
私は残りの五発も撃ちまくる。それでも怯んだ様子はない。中々硬い身体をしている。
「土!」
「ほれ!」
ディールがすぐに土の魔法石を投げ渡してくれた。
シリンダーを出して、指を鳴らすように作り上げた弾丸を滑らせて込める。
その間、ディールは射撃。ヨールとノウスさんは降りて向かって行った。
ディールの雷の弾丸も、怯まない。
風の魔法石を装備したヨールが、風で素早く後ろに回り斬り付けるが、やはり硬くて弾かれた。
パワーのある土でいくしかない。
リロードが完了した私は、先ずは足元を崩そうと太い足を狙い撃ち。
ドン、と前足を負った魔獣が倒れた。
そこでノウスさんが大剣を振り上げる。殴り付けたように、その巨体を飛ばす。ノウスさんの怪力も、すごいものだ。
ドシンと横たわる魔獣の顔に飛び乗ったクロさんが、目にダガーを突き刺して仕留めた。
その日の狩りは、それで終了する。
街に戻る頃には陽も暮れて、お腹はペコペコ。
報酬はたくさんもらえたので、夕食はレストランでとった。
今日カメラで撮ったものも現像をして、キャンピングカーの壁に貼り付ける。翼を広げるような雲の写真に、ヨールとノウスさんとディールのスリーショットに、全員の集合写真。私はニコニコしてそれを眺めたあとは、ノウスさんのベッドを借りて眠った。
それから三日は、同じように私を訓練するように狩りをしたのだった。