1.2 深夜のコンビニ
4番出口を目指して二人は歩く。
出口までの距離はおよそ直線で300mくらい。
周囲の物音を警戒しながら歩くが隣を歩く少女の吐息以外聞こえない。
「意外と平気そうだな」
「そうね、もっとも地上は今どうなっているか分からないわよ」
十中八九何もないと思っているが、こんなに気配を押し殺した声で言われると緊迫感がある。
そう言えば、上で車の走る音が聞こえない。
そこまで栄えている駅ではないとはいえ、地下通路が巡らされている程度には都会なので、この時間にはひっきりなしに車が走っているはず。それが1台も聞こえない。これは…
「もしかしてマズいんかね?」
「何のために手に鉄パイプを持ってるのよ」
「少なくとも好戦的に戦うためではないぞ。何かあったら俺は逃げるぞ」
「向こうが逃がしてくれるならね」
そうこう話していると4番出口についた。
改めて周囲を警戒する。気配はない。
周りに警戒しながら地上へと向かう4番出口の階段を上る。
地上に出た僕は改めて違和感に気付いた。おかしい…音がしなすぎる。
車が1台も走っていないどころか、人の1人もいない。
ただただ、車のいない車道で信号機の色が変わる様子だけが唯一の動きだった。
ビルの電気もついていない。
コンビニの電気もついていない。
静かすぎる。
「これって…」
「警戒したほうがいいわね。電気が消えているということは電線が切られたか、何かあったんだわ」
「でも信号はついているよ」
「分からないけど、警戒するにこしたことはないわ」
それもそうだと鉄パイプをより強く握りしめる。
彼女も再度鉄パイプを握り直したようだ。気配でなんとなく分かる。
そのまま周囲を警戒しつつ、コンビニの外から中の様子を覗く。
誰もいない。誰もいない真っ暗なコンビニがここまで不気味だとは思わなかったが、
ひとまず荒れている様子もなく、無事に食糧が手に入りそうだ。
二人はゆっくりとドアを開ける。自動ドアも電気が切れた状態では、手動で開けられるようになるということを初めて知った。何の物音もしない。が、それが僕らの不安感を高めた。
とにかく早く店を出たかったので、手近なオニギリを数個取ると、レジにお金を置く為に月明かりで財布の中身を照らそうとする。
「ちょっと、何してんの?」
「いや、お金が分からなくて…」
「こんな場合に殊勝なことで…」
呆れたように彼女は話すが、僕と同じように財布を取り出すと諭吉をレジに置いた。
「多い分には問題ないでしょ」
二人は食糧を調達するとコンビニの外に出た。
静かすぎる街にオニギリの海苔が乾いた音を立てた。