1.1 食欲
「よくもまぁ、大胆不敵というか拍子抜けというか…」
何やら呆れた少女の声が聞こえる。昨日は椅子に座ったまま寝たのか。我ながら器用な…とも思う。ぼやけていた視界がだんだんとはっきりとしてくる。地下通路なので外の様子はあまり分からない。腕時計を見たが、まだ0時を少し過ぎたところだ。当然か、こんな状況で長時間の睡眠なんて取れるわけがない。
いつまでもこんなところにいたくないので、彼女に提案する。
「さっきのテロリスト?はもういないだろうから、いったん外に出て様子を見てみないか?」
「あんた、本気?」
「何故?」
「あー、知らないのか。アレは何故か夜のほうが発生するのよ。それも基本は集団で発見される」
ん?ゲームとかのゾンビみたいじゃないか、そんなの。
「まぁ、ゾンビとかのほうが可愛いかもね。ゆっくり歩いているところをヘッドショットで一発よ♪」
銃を撃つ真似をする。
「ただ…」
彼女は言葉を濁す。
「アレは突然発生する。前触れもなく、さっきまで普通に歩いていたサラリーマンが突然、目の前の人を殴りだしたり、椅子に座っていたおばあちゃんが孫を杖で殴ったりする。性別、年齢の規則性はなし。凶暴になるだけだから、若い人が発症すれば身体能力はゾンビなんかの非じゃないわよ」
いやに深刻な顔で告げる。
言われればその通りか。夜に発生する理由や集団で発見される理由も分からないが、どうやら外には出ないほうがよさそうだ。ただ…
ぐぎゅぅうぅ…
自身のお腹の正直っぷりに感心する。こんな状況でもお腹は減るもんだ。
「なんにせよ、僕はお腹が空いた。地下通路を出てすぐにコンビニがある。一瞬で出て、購入して戻ってくれば大丈夫じゃないか?」
「呆れた…でも私もお腹が空いたわ。単独行動も危険だし、一緒に行きましょう。はい、コレ」
鉄パイプを渡される。
「え?」
「何かあったときに自分を守れるのは自分だけだからね」
そうして二人は地下通路の出口へ向かって慎重に歩き始めた。
手には体格に不釣り合いな大きい鉄パイプを持って。