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ネノンの童話  作者: 鈴代なずな
ネノンはそのまま転がって、壁にぼふんっとぶつかった。
8/40

ネノン見つけた

 町の西側は、どちらかと言えば店が少ない。だから人通りもそんなに多くはないけれど、ハスラットは一所懸命に声を出して、ルルの母親を探していた。

 ネノンもルルのもう片方の手を引きながら、そんなハスラットと一緒に歩く。

 声を出すのは恥ずかしくてできなかった。その分だけ、寂しくないようにルルと話をしようと決めていた。知らない子だから、それも少し恥ずかしい気がしたけど、ネノンも一所懸命に頑張った。

「わたし、今日はお母さんとお買い物に来たの」

 するとルルはそう話してくれた。

「ここは神様の置き物がいっぱいあるって、お母さんが言ってたよ。それで、わたしの服も一緒に買ってくれるって言って……」

 最初は少しだけ、その時のことを思い出して楽しそうだった。けれどそのあと、母親とはぐれてしまったという話になって、ルルはまた泣き出してしまう。

「だ、大丈夫っ、きっと大丈夫だから」

 慰めながら、ネノンは自分よりも小さなこの女の子に、少し前の自分の姿を重ねていた。迷子になって、心細くて、ハスラットに助けてもらった。

「お母さんもちゃんと見つかるから。おうちにも帰れるから。ね?」

「……うん」

 すんすんと涙をしゃくり上げながら、潤んだ大きな瞳で頷く女の子。

(わたしもこんな顔してたのかな?)

 ふと、そんなことを思ってしまう。そして、そんな時に手を繋いでもらえたことが、どんなに嬉しくて、安心できたか、どんどん思い出してくる。忘れていたわけじゃないけれど、ルルの手を繋ぎながら、ハスラットに手を繋いでもらっているような気がしていた。

「ルルちゃんは、新しい服を買ってもらうんだよね? どんな服が好きなの?」

「んっと……わたし、鳥さんが好き。おっきい鳥さん」

「おっきい鳥かぁ。どこかで見たの?」

「うんっ。えっとね、えっとね」

 恥ずかしいけど、一所懸命に話をすると、ルルも少しずつ元気になって、夢中で話をしてくれた。ルルが住む町の空には、時々大きな鳥が飛んでいること。夜になると降りてくることがあって、町の人がそれに乗ってどこかへ飛んでいくこと。自分もいつかその鳥に乗ってみたいと思っていること。

 ルルはそれを話している間、寂しいことなんかすっかり忘れているみたいだった。

(わたしもこうやって、元気にしてもらったんだから)

 きっとハスラットも同じように、寂しくないようにと思って話してくれていたに違いない。ネノンはそれを思い出して、今度は自分がそうしてあげたいと思っていた。

 おかげでルルはすっかり涙もなくなって、きゃっきゃと笑いながら、お気に入りの歌まで歌うくらい元気になっていた。

 そしてその歌のおかげかもしれない。町の西の一番端に着いてしまう頃、彼女のお母さんは見つかった。

「ルル! よかった……ごめんね、お母さん、買い物に夢中になっちゃって」

「ううん。お兄ちゃんとお姉ちゃんが一緒にいてくれたから、寂しくなかったよ」

 駆け寄ってきた母親が、ぎゅっと女の子を抱き締める。ルルは笑顔で、ネノンたちを指差した。それで母親が顔を上げて、安心して涙まで浮かべながら、深く深く頭を下げる。

「ありがとうございます! 私、ルルが見つからなかったらどうしようかと……」

「いいえ。それよりも見つかってよかった。ルルちゃんも、よかったね」

「うん! ありがとう、お兄ちゃん、お姉ちゃん」

 元気いっぱいに笑いながら、お礼を言う女の子。母親に促されて、ふたりで頭を下げてくる。何度も何度もそうして、ハスラットが何度も何度も「気にしないでください」と言っていた。

 そのうち、親子はようやくお礼をやめて、去っていく。母親はまた何度か頭を下げて、ルルは元気に手を振って、街の中に消えていった。

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