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ネノンの童話  作者: 鈴代なずな
ネノンはそのまま転がって、壁にぼふんっとぶつかった。
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ネノンまた探した

 次の日も、ネノンは街へ出た。三日連続ともなればもう前代未聞のことで、家の周りではそれに相応しいくらいの地響きや唸り声が響いて、天変地異っぽさが満載だった。

 もちろん街では何も起きていなかったから、何事もなく歩いていけたけれど。

「今日こそちゃんと言おう!」

 決意して、ネノンはまたハスラットの家に向かっていた。昨日と同じ道順で、昨日と同じ噴水を曲がり、昨日と同じ店の前に着いて、昨日と同じ細道を通る。

 けれど公園まで来ると、そこは少しだけ昨日と違っていた。

 公園にはいくつか遊具があって、それは昨日と変わっていない。ネノンと同じくらいの子たちがいて、走り回っているのも変わっていない。

 違っているのは地面だった。芝生の中の一部分にだけ砂場作られていたはずなのに、今日は砂場の中の一部分にだけ芝生がある。子供たちは気にしていないようだけど。

 ただ、砂が何かを引きずったように少し凹んでいて、どんなに踏まれても形を崩さない。それも全く気にされていなかったけれど、みんなが走り回っている最中、子供のひとりがそれに躓いてしまった。

 ずさっと砂の上に倒れ込んで、泣き出したのは小さな男の子。ネノンよりも一つか二つくらいは年下に見える。他の子たちが近寄ってきて、「大丈夫?」と声をかけているのが聞こえた。

 ネノンはずっと公園の入り口でそれを見ていたけど、自分も一緒に声をかけようか、でも知らない子だし変に思われないか、それにちょっと恥ずかしいし、と思って考え込んでしまう。

 すると、公園の奥から泣き声を聞いて、誰かが走ってきた。黒いジャケットのハスラットだ。

「どうしたんだ? 擦りむいたのか?」

 転んだまま泣き続ける子を抱き起こして、肘や膝の具合を見る。その子は冬なのに半ズボンだったせいで、膝から少し血が出ていた。

 ハスラットはその子を奥の水飲み場につれていくと、傷口を軽く洗ってから絆創膏を貼ってあげたらしい。まだすんすんと涙をしゃくり上げる男の子の頭を撫でながら、優しく笑いかけている。声は聞こえないけど、「もう大丈夫だ」とか「次からは気を付けるんだぞ」と話しているように見える。

 男の子は頷くと、心配そうに見ていた他の子たちと一緒に、また元気に走り始めた。

 ネノンはまたその光景を、魚が自分の後ろを歩いていくような、べちゃべちゃという音を聞きながら、はへーっと眺めるだけになってしまったけど。

「あれ? キミはこの前の」

 と、そんな時。ハスラットの方が、ぼーっとしているネノンのことに気が付いた。覚えてくれていたみたいで、軽く手をあげながら歩いてくる。

 ネノンはドキリとしながら、けれど急いで逃げ出すわけにはいかずに、緊張して背筋を伸ばした。「どうしよう」と「今なら言える」という気持ちがごちゃごちゃになって、目が回ってしまいそうになる。

「こんにちは。キミも遊びに?」

「あ、えと、こ、こんにちは」

 質問されてまた驚きながら、とにかく必死に挨拶だけ返して、頭を下げる。そのまますーはーと大きく深呼吸して、ネノンは頭を上げながら首を横に振った。

「ううん。そういうんじゃないんだけど」

「そう? みんな仲良くしてくれると思うから、遊びたくなったら気軽に声をかけたらいいよ」

「う、うん」

 どうにかこうにか頷いたり、頷かなかったりする。

 そうしながらネノンは、ハスラットがこの前のことを何も言わないことに気が付いた。気にしていないからなのか、それとも怒っているからなのか。

 わからないけど、それでもやっぱりちゃんとお礼は言わなくちゃ、という気がする。

 そのために精一杯、自分から話しかける。

「あ、あのっ」

「どうしたの?」

 ただ、いざ言おうとするとどうしても、恥ずかしくなってしまった。胸がドキドキして、ぐるぐると目が回ってきて、空の雲まで大きく渦を巻いて、赤黒く変色していくような気がして、その奥から何かが睨んで、涎のたくさん含んだ唸り声を上げているような気までしてしまう。

 ぎゅっと目を瞑ると、冠をかぶった顔のない像が地面から這い出してくるように思えてしまって、ネノンはすぐに目を開けた。

 そこに見えた子供たちの人数がさっきより減っていたのは、他の遊具へ遊びに行ったからだろう。それよりもネノンの目の前には今までと変わらずにハスラットがいて、きょとんと首を傾げている。

 それを見てネノンはまた恥ずかしくなって、思わずまた走り出してしまった。

「な、なんでもない~っ」

 ばたばたと慌てて、来た道を引き返していく。

 ネノンはまた、恥ずかしくってお礼を言えなかった。

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