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ネノンの童話  作者: 鈴代なずな
ネノンはそのまま転がって、壁にぼふんっとぶつかった。
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ネノン探した

 次の日の朝。ネノンはふかふかベッドからもそもそ抜け出すと、広間でごろんと横になった。

 木と同じ色をした布の床で、今日もぽんぽんたちが跳ねている。気付けばネノンの周りを取り囲んで、ゆっくりぐるぐる回っていた。

「遊びたいけど、今は遊んでちゃダメな気もするなぁ」

 ぼんやりと呟く。その上を、今度は跳び箱のようにぽんぽんたちが跳ねていく。時々ジャンプに失敗して、ネノンの口に落ちてきたけど。

 とりあえずその子をそっと床に戻しながら、ネノンはのそっと起き上がった。

 目に入ったのは、昨日いきなり現れて、今日になっても消えないままの管。金色の管は綺麗だけど、相変わらずなんなのかわからない。天井に続いているはずなのに、煙突もない。何かが落ちてくるかと思ったけど、そんなこともないまま、管は今日もピカピカ輝いている。

「とにかく、外に行ってみよ」

 家の周りからは地中を少しずつ掘り進むような音や、大きな鳥の羽ばたく音が聞こえていた。けれどそれを怖がったりはしないで、ネノンは着替えて外へ出た。そのまま原っぱを通り過ぎて、街へ向かう。

 二日連続で街に行くなんて、滅多にないことだった。嫌っているわけじゃないけれど、どうしても緊張してしまうのだ。

「昨日もわたしを見かけた人が、今日もわたしを見かけて、昨日も見たねなんて言ってきたらどうしよう」

 どうもこうもないけれど。無闇に心配しながら、街に到着する。

 目的はもちろん、ハスラットを探すためだった。そのためには、どこに住んでいるのかを知らないといけないけれど、実は彼の方から教えてくれていた。

「町の真ん中にある噴水から、右に五十歩くらい進むと服屋さんがあって……」

 思い出しながら、その通りに進んでいく。ネノンの短い足では五十歩でも足りなくて、服屋の看板はあと二十歩くらい先にあったけれど、気にしない。

 その看板の下でくるっと左を向くと、ほんの少しの階段の先に細い道が伸びている。そこを進むと小さな公園があって、自分と同じか、もっと小さな子供たちが、芝生の上を元気に走り回っていた。

 何人かはこっちを向いて、「誰だろう?」という顔をしたから、ネノンは慌てて顔を隠しながら走って通り過ぎた。

 それでもまた迷子にならないように、すぐ止まる。砂の上で何かを引きずるような音が聞こえて、誰かがついてきたのかなと振り向いたけど、そこには誰もいなかった。公園からも十歩くらいしか離れていないけど、顔を覗かせている子もいない。

 安心に息をついて、またゆっくりと歩き出す。ハスラットの家はもうすぐそこだった。

 だけどその途中。なんとなく顔を向けた脇道の先に、ひとりの男の子がいるのを見つけた。

「あれ?」

 と思って行ってみると、それはやっぱりハスラットだった。

 白いセーターに、フードの付いた黒いジャケットとズボン。ちょっとだけ大人っぽい声で、ずっと大人のお年寄りと話している。近付いたから、その声も聞こえた。

「御呪い屋は、一番東のオザール通りにあります。ここから二つ南の通りを、真っ直ぐ進めば見えてきますよ」

 お年寄りのメモ帳にペンを走らせながら、地図を描いているのかもしれない。昨日、ネノンにしてくれたのと同じように、道案内をしているようだった。

「なるほどのう。しかしやっぱり、少し遠いんじゃな」

「それなら、南にある石材屋でも見つかるかもしれません」

 ふたりの話を聞きながら、ネノンはまた、はへーっとそれを眺めた。ハスラットは町のことをなんでも知っているかもしれない。そんな気持ちになってくる。そしてそれはネノンにとって羨ましくて、尊敬できることだった。

 ネノンはしばらく、口を開けたままぼーっとしてしまった。

 そして、上から何かが圧し掛かってきたような重さと、ずしんと地面を叩く音を聞いて、ハッとなる。周りは何も変わっていないし、ふたりは音なんか聞いてもいない様子だったけど、とにかくぶんぶんと首を振る。

 ただ、「話しかけなくちゃ!」と思ったところで、少し止まって考え込むと。

「やっぱり……忙しそうだから、あとで!」

 なんだか自信がなくなって、ネノンは慌てて引き返した。風もないのに突風が吹き荒れるような音が聞こえた気がしたけど、それは気のせいだろうから気にしなかったし、逃げ出すのを妨害したりもしなかった。

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