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ネノンの童話  作者: 鈴代なずな
ネノンはそのまま転がって、壁にぼふんっとぶつかった。
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ネノン帰ってきた

「ボクはハスラットっていうんだ」

 男の子は凛とした声で、そう名乗った。

 子供っぽいけど大人っぽい顔をしている。目は大きいけど吊り上がって、キリッとしていて、茶色くて短い髪がどことなく頼もしい。フードの付いた黒いジャケットの背中も頼もしく見える。ネノンはそう思った。

 そう思ったのは、ネノンが彼に手を引かれているせいもあったかもしれない。泣きたいのを堪えながら事情を話すと、ハスラットが家まで送ってあげると言ってくれたのだ。

 そうしてネノンは、彼の少しだけ後ろを、彼の手を握りながら歩いていた。ずるずる這う音は、もうすっかり聞こえなくなっている。代わりにぴちゃぴちゃと、水を叩くような音が聞こえるけど、ハスラットは聞こえないように気にしていないし、ネノンも気にしなかった。

 それにそんなことより、自分と同じくらいの子と話すのが初めてで、ネノンは緊張していた。話しかける時も、少しだけ声が震えてしまう。

「え、えっと。ハスラットは、迷子じゃないの?」

「違うよ。森で山菜を取っていて、今から帰るところだったんだ」

 よく見れば、繋いでいるのとは別の方の手に籠が下げられていた。中に詰まっているのが山菜なんだろう。今は冬だけど、冬にしか取れないものもいくつかある。

「隣に住んでるお爺さんの身体が悪くて、これでお粥を作ってあげようと思ってるんだ」

「はへー……」

 ネノンは尊敬するばかりで、間抜けな息を発していた。ぽかんと口を開けて、ハスラットを見上げてしまう。

 すると彼は振り返って、少し笑った。ネノンは慌てて口を隠したけど、遅かったらしい。恥ずかしくって目を逸らしてしまう。

「必要だったら、少し分けようか」

「う、ううん。平気だから」

 肩を縮こまらせて、ぶんぶんと首を横に振る。

 そうしてからも少し話をしたけれど、どんなことだったかは恥ずかしさと緊張でほとんど覚えていなかった。ひょっとしたら、また変な顔をしたか、変な返事でもしてしまったかもしれないけど。

 とにかくすっかり空が夜になって、綺麗な星が見えるようになった頃。ネノンはやっと自分の家に辿り着くことができた。手を離して、玄関のところまで行くと、振り返る。

 ハスラットは優しく笑っていた。

「今度からは、森に入る時は気を付けないとね」

「う、うん。気を付ける」

 ネノンは頷いて。

 頷きながら、もっと何か言わなくちゃ、と思った。思ったけれど、ただでさえ恥ずかしいのに、もっと恥ずかしくなって、頭が真っ白になってしまう。

 だからネノンは、「おやすみ」と言ってくるハスラットに何も答えられずに、急いで玄関の扉を閉じて家の中に駆け込んでしまった。

 ばふっと閉じた布の扉の音を聞きながら、ふかふかのベッドに頭から突っ込む。おかげで、ぼふんっと扉よりも大きな音が鳴った。

 そのあとで、ぽんぽんたちの声が聞こえてきた。ネノンがもそもそ顔を出すと、まるで「おかえり」と言うように、ぽんぽんたちが自分の周りで飛び跳ねている。

「うん……ただいま」

 はふ、と息を吐きながら答える。そうしてから、ネノンは何かに気付いたようにベッドから飛び降りた。そしてそーっとそーっと、玄関の方に歩いていく。ぽんぽんたちも一緒になって、そーっとそーっとついてくる。

 ネノンはそのまま、ゆっくりと玄関の扉を開けた。そこからすっかり暗くなった外を覗くと……そこには遠くに猛獣のような唸り声と、大きな鳥の影があるだけで、ハスラットはいなかった。きっと自分の家に帰ったんだろう。

「いない、よね。やっぱり」

 残念なような、安心したような気持ちで扉を閉じる。ぽんぽんたちがまた声を上げ始めるのを聞きながら、ネノンはゆっくりため息をついた。

「どうしよう。やっぱり、ちゃんとお礼を言わなくちゃダメだよね」

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