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ネノンの童話  作者: 鈴代なずな
ネノンはそのまま転がって、壁にぼふんっとぶつかった。
3/40

ネノン迷った

 森の中に、男の子たちはいなかった。すっかりどこかへ行ってしまっていたようだ。

「あれ?」

 キョロキョロと見回して見ると、なおさら森の中だ。

 周りにはネノンより何倍も何十倍も背が高い木ばかりで、地面は落ち葉と土でぐにゅぐにゅしている。臭いを嗅ぐとむせてしまい、耳を澄ますとざわざわと鳴る森の音と、ずるずると何かが地中を這うような音しか聞こえなかった。

「夢中になって、入っちゃったんだ。どうしよう!」

 真っ直ぐ後ろに戻ろうと思ったけれど、町から真っ直ぐ走ってきたとは限らない。もしも方向が違っていたら、もっと奥へと入り込んでしまう。

 森の奥には何があって、どんなことになってしまうか。ネノンはわからなかったけど、きっとすごく怖いことなんだろうとは想像できた。心優しいお婆さんが出てきて、林檎をくれたりはしないだろう。それにそれはきっと毒林檎だから食べちゃダメだろうし、そうなると心優しくもない。ひょっとしたらお婆さんでもないかもしれないから、もう八方塞だ。きっと気味の悪い怪物だろう。

「どうしよう」

 混乱しながら、ネノンはまた呟いた。

 どうしようもなく空を見上げて……そこでまた気付く。木の枝の間から見える空が、少し赤くなってきていた。

 太陽が昇ると朝がきて、沈むと夜になってしまうのはネノンでも知っていた。そして夜の前には夕方になるのも、夕方の空が赤いのも知っていたから、ネノンは余計に慌てた。

「どうしよう、夜になっちゃう!」

 夜になったら真っ暗で、真っ暗になったら見えないのだから、家にもきっと帰れない。それは一時大事だった。なにしろふかふかのベッドで寝られないし、朝になってもぽんぽんたちと遊べない。

「でも、どこに行けばいいんだろう……?」

 男の子たちを追いかけるのに夢中で、どこをどう走ってきたのかはわからない。周りの木はみんな同じ形をしているし、もちろん道なんてない。足跡はすっかり消えていた。もっと大きな、ネノンの身体と同じくらいの足跡に潰されてしまっている。その足跡も、途中で急になくなっていた。

「ひょっとしてわたし、迷子?」

 自分を指差して、いまさら呟く。

 けれど呟いてしまうと、途端にすごく寂しくなってしまった。ひょっとしたら、もう二度と家には帰れないんじゃないか。気持ちのいいベッドで寝ることも、愉快なぽんぽんたちと遊ぶことも、原っぱでごろんと転がることも、家の中でごろんと転がることも、二度とできなくなってしまうんじゃないか。

 そんな気がして、心細くて、ネノンは泣きたくなってきた。

 でも、泣いたらそれが本当になってしまう気がして、必死に堪えた。泣かないように、ぎゅっと顔に力を入れて、どこに入れるかわからないけど、とにかく力んで必死に周りを見回した。

「帰らなきゃ!」

 どこから来たかわからない。だけどどこかに行かないと町には帰れないから、ネノンは仕方なく、その場でぐるぐる回った。

 ぐるぐる回って、目が回って足が止まる。するとその方向に向かって走り出した。短い手足を精一杯に振り回して、そっちに町があることを祈って走る。

 けれどそんないい加減な御呪いが当たるはずもなくて、いつまで走っても町は見えてこなかった。涙は堪えて、ずずずっと鼻をすする。それと一緒にまた地面の奥の遠くから、ずるずると這いずる音が聞こえてきたけど、それは別にどうでもいい。

 とにかくネノンは必死に走った。声を出しても泣いてしまうから、ぎゅっと口を結んで落ち葉の地面を蹴り続けた。代わりのように空高くから、唸るような声が聞こえてくる。

 その空もだんだんと赤から黒に変わっていって、そのせいで森もどんどん暗くなってしまうから、それを見ないように、いっそ目も閉じて走ることにした。

 けれどもちろん見ないと見えないから、ちゃんと走れるはずがない。目を閉じてから少しすると、ごつんっと額に何かがぶつかって、ネノンは「みぎゃあ」と叫びながら転んだ。

 ただ、それは木でもなければ石でもなかったらしい。頭をぶつけたけど、そんなには痛くなかった。もう少し柔らかいものにぶつかったらしい。それがなんなのか、ネノンは目を開けないでもわかったけれど、目を開けた。

 なにしろ声が聞こえてきたから。

「キミ、大丈夫?」

 そう言って、暗い赤色の空の下で、手を差し出してくる。

 ネノンは驚いたし、きょとんとしたし、安心した。

 それは自分より少し年上に見える、男の子だった。

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