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右近の橘、龍を得る。  作者: 北海
右近衛府の少将、龍を得ること
3/7

その後

「やあねえ。あの子はちょーっと綺麗な恰好が好きなだけで、生まれた時から雄生体よお」

 きゃらきゃらと笑うのは、当代天龍殿。龍族雌雄同体、もしくは雌雄変異体疑惑をうっかりぽろりと零した私に、腹を抱えて大笑いした後の御言葉である。

 あの適当な相槌を承諾の言葉だったと強引に言質を取られ、ついでに嬉々として既成事実を作ろうと覆い被さってきた天龍殿はひとまず拳で黙らせてきた。命の危機以外で龍族に刃を向ければ重罪となってしまうのが辛いところだ。それさえなければ腕の一本や二本斬り落としているところである。無理矢理女の体を暴こうとは、万死に値する所業。腕どころか一物斬り落としても良いくらいだと常々思っている。

 多少、三白眼で女にしては上背があり声も低いが、これでも一応私は女だ。龍族の雄、それも成体を拳ひとつで沈められる時点で女とは認めないと兵部尚書には喚かれたが、実に失礼な話である。

「ですが、ならば何故『婿選び』などなさったのです」

「そりゃあ、あの子が『綺麗なお嫁さん』になりたかったからじゃないの」

 意味がわからない。あっけらかんとした返答に、最早頭痛を感じる。

 当代天龍殿と言葉を交わせば交わすほど、今上陛下の苦労が身に沁みる。なるほど、龍族は確かに人外の者であろう。この価値観の違いから来る話の噛み合わなさが特に。

「龍族にとって、愛の前では相手の性別なんて些末なことよ?」

「つまり、もし彼の君が真実雌生体であっても、私の断り文句が『女だから』では到底納得しなかった、と」

「当たり前じゃないのお」

 こめかみを揉む。さて、困ったことになった。

 他国の留学生程度が龍の伴侶とは、すわ内乱再びかと身構えた私に、今上陛下と当代殿は「しょうがないからもうちょっと頑張ろうか」と譲位を見送る考えを示してくれた。この国に骨を埋める覚悟どころか、とっとと故郷に戻って故郷の発展に尽力したい私には有難い話である。

 もちろん、今すぐの帰国というわけにはいかない。まだ本当の意味では伴侶となっていないものの――本当のとは、まあ、契りを結ぶというか……つまりは既成事実の有無である――仮契約のような状態であるらしい。そうである以上、また新たな龍が伴侶を求めて霊峰から下りて来るまで、いざという時の補欠としてこの国に留まることが条件だ。私に否やが言えようはずもない。

「つまり、妾はそれまで全力で橘を押し倒……口説き落とせば良いのじゃな!」

「隠すつもりがないのなら最後まで言い切れ。単純に口が滑ったのならその軽すぎる口をどうにかしろ」

「はあん……冷たい橘もまた良い……痺れるのじゃ……」

 こいつ、やっぱり斬っちゃ駄目だろうか。

 幼女姿の時ならば残念な気持ちで受け流せたかもしれないが、いくら見目麗しいとはいえ図体のでかい男が悶える様は、率直に言って気色が悪い。

 ついでに、既成事実目的で押し倒してきた一件以来コレには敬語を使うことを止めている。虫けらを見るような目で見ても頬を染めるような変態に払う敬意など、生憎持ち合わせていないもので。

 この際、コレが女言葉を頑なに使い続けることなどどうでも良い。そんなことよりも遙かにこの変態性の方が目に余る。

「わかるわあ。私も伴侶を得たばかりの頃は、何をされても悦びに感じていたもの」

 喜びの漢字が違う気がするが、深く突っ込んではいけないのだろう。主に私と、今上陛下の精神安定のために。

 隣に座るだけでは飽き足らず、腰に手を回してぎゅっぎゅと抱き付いてくるのを押しのけるのももう億劫で、鳩尾に肘が当たるよう腕の位置を調節するだけで止めておく。

 図体だけはでかくなって、中身は丸きりあの美幼女姿の時のままなのか知らないが、コレは力加減というものを知らない。私だから良いものの、これを同朋の細君のようなたおやかな女性相手にやれば、肋骨のひとつも折れていたことだろう。

 当代殿曰く、まだ成体の体に慣れていないのでしょうとのこと。よく体を動かせば早く慣れるわよという助言がやたらと意味深に言われた気がしたが、きっと気のせいなので記憶の彼方に放り投げておく。きっと疲れているからだ、そうに違いない。

「橘、橘。今宵は良い月夜になるそうなのじゃ。ともに月見でもせぬか? の?」

「目的がわかり易すぎるので却下だ」

 誰が出会って三日の超不良物件と夜明けの茶など飲むものか。





夜明けの茶=夜明けのコーヒー。意味がわからない純粋な方はスルーしましょう。間違っても身近な大人に意味を尋ねてはいけません。

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