夏を王女へ警戒心
お店が立ち並んでいる道をふたりで歩いている。
さきほどのパピヨンの話を彼女へすると、
「なーるほど、たしかに動物と話せるのは童話っぽいよね」
言葉のうえでは同意をしめしているが、納得はできていない様子だった。
たしかにボクも、それだけでは童話としての決め手に欠けると思う。
しばらくふたりで、しゃべる動物の出てくる物語を列挙しながら歩いていると、彼女の足がとまった。
そこが今回の彼女の目的地であるお店だ。
ショーウィンドウにはアロハシャツや薄手のシャツなどが展示されており、ヤシの樹のような観葉植物やソテツが一緒に並べられていた。
外からのぞき込むことのできる店内にもサーフボードやイルカの飾りなど夏や海を思わせるものが沢山有る。
全体的に、常夏というのか南国というのか、あたたかいリゾート地の雰囲気を醸し出していた。
「ここは中までついてこなくてもいいよ」
彼女はボクを置いて足早に店内へはいった。
前のお店でのことで警戒された、とは思いたくない。しかし、置いていったということは付いてきて欲しくないということは確かだと思う。
近くで時間をつぶせる場所を探したが、付近には時間つぶしではいれるようなお店はなかった。
離れた場所には座って休める所もあったが、お店から出てきた彼女がすぐに見つけることのできる場所がいい。
そうして結局、向かいのお店のショーウィンドウに飾られたテレビを見ることにした。
レトロな雰囲気を出すために飾られた古そうなテレビ、そこには白黒の古い外国の映画が流されていた。
男性と女性が真実の口やトレビの泉をぶらぶらと歩いたりバイクに乗ったりしている。
ローマの観光案内的なモノだろうか。
ミュートにされているため音は聞こえず、画面には字幕が表示されていた。
見るともなしに顔だけを向けながら、さきほどからの『童話』について考えていると、画面の中の女性と目が合った。
「しゃべる動物なんていうのは、童話のひとつの要素でしかありませんわ」
そんな字幕が表示されたと思うと、白黒の女性の顔がこちらへ近づき語り続ける。
「『ロイヤルファミリー』、すなわち王様や女王様、お姫様や王子様が出てくるお話こそ童話ではないかしら」
口元で上品な笑みを浮かべながらテレビに映る女性が画面上に表示されている字幕を両手で指差しながら言う。
白雪姫、人魚姫、シンデレラ、たしかにお姫様や王子様がでているモノのほうが有名どころが多い気がする。
老いも若いも女性はそれらのモノに対するあこがれがあるのも確かだと思う。
考えているうちに、いつのまにかテレビはすでに別の映像に切り替わっていた
さきほど話しかけてきた女性が窓に座ってアコースティックギターを弾いている。
映像はカラーになったが、今度は字幕がないためなにを歌っているかはわからない。
ふいに、ボクの手が優しく包まれた。
ふりかえるとお店にはいっていったはずの彼女がボクの手を握ってこちらへ笑顔を向けていた。
両手でボクの手を握っており、彼女は手ぶらだった。気にいるものがなかったのだろうか。
「やっぱりキミに選んでもらおうと思って」
警戒されていたわけではなかったようだ。
ボクは少しだけ心のつっかえが取れた気がした。
そんなこちらの様子をうかがう彼女の笑顔の口元がすこしだけゆるんだように見える。
それはイタズラを仕向ける子供のような笑みだった。
「水着を――」
「え」
言葉の意味を理解するまもなく、ボクはお店へ引っ張り込まれた。