ウソがロールケーキで女の子
地元にはアウトレットモールがある。
屋外型で小さな街を思わせる造りになっており、すべてのお店を回りきるには一日では足りないほどの広さがある。
アウトレット向けに商品を作るという本末転倒なお店はなく、B級品や季節外れの商品、訳あり品、流行遅れ、過剰生産分、など本来の意味でアウトレットの商品を扱っているお店だけで構成されている。
なかなかな評判の場所なため、休日になると、近隣住人だけでなく遠くからのバスツアーなどでヒトがごった返すことになる。
そんなアウトレットモールに男女十数名のグループで来ていた。
だがグループと呼べたのも入場から数分だけだ。
適当な理由を付けてひとりふたりと離れていき、グループは小規模なモノになってしまった。
ころあいを見計らいボクもひとりでグループから離れた。
みんなそれぞれに目的があるのだからしかたがない、もちろんボクにはボクの目的がある。
フードコートで販売されている、『ホットコーヒー』と『フルーツロールケーキ』だ。
ホットコーヒーは、珈琲豆の中堅卸商が独占契約で入荷しているコスタリカのとある希少な豆を使っている。直営店舗以外には卸さない豆だったが、最近になり試験的にここでの販売を始めたのだ。
フルーツロールケーキは、老舗の和菓子屋が洋菓子販売のために立ち上げた別ブランドが期間限定で出したお店のモノだ。多くのヒトに食べてもらいたい、という店側の理念により出店の事前情報は明かされないが、ボクは偶然に今日ここへの出店を知っていた。
片方ずつならば、時間とお金をかければどちらも手にいれることができる。
だが、そのふたつを同時に食べることができるのは、いまここのフードコートだけなのだ。
そして、それが目の前に並んでいる。
直径十センチ、厚さ四センチ程度の一切れのフルーツロールケーキをちいさなフォークですこしずつクチへ運ぶ。
スポンジとクリームのしっとりとした控えめの甘さが、果物独特の甘みと酸味を最高に引き立てている。
余韻をクチに残したまま、緑のニオイを感じさせる香りを持ったブラックコーヒーを含む。
コーヒーのすっきりとした酸味とフルーツロールケーキの酸味が絡み合い混ざり合う
ふたたびフルーツロールケーキをクチへ運ぶと、ひと口目では感じられなかった心地よい新鮮さを甘さがもたらしてくれる。
いや、味の理由などどうでもいい、ただ単純に『美味しい』の一言でいいのだ。
今日ここでこれを食べられたことが、人生における幸せのピークのひとつなのではないかと思う。
皿に、スポンジのひとかけらも、生クリームの一筋も残さずたいらげ満足の吐息とともにちいさなフォークを置いた。
「まさか食べ終えるまで気が付いてもらえないとは思わなかった」
顔を上げると、目の前の、すこしだけ離れたイスに女の子が座っていた。
癖のあるふんわりとしたショートカット、編み込まれた前髪が耳の上あたりで可愛らしくまとめられている。
全体的に、見てわかるほどの明るい雰囲気とほんのりとした丸みを感じさせる印象があった。
見覚えはある。
同じ学校の…………ダレだ?
同じ教室にいたという記憶はあるが名前が出てこない。
すくなくとも一緒に来たグループ内にはいなかったはずだ。
いぶかしむ様子で言葉を発さないボクに彼女は戸惑いを見せ始めた。
「もしかして、私がわかんない、とか?」
「それはないよ、一緒のクラスなんだから」
「だよねー」
『一緒のクラス』と言ってしまったのは不用意だったかもしれない。
もし違うクラスだったらそこでアウトだった。
勢いに任せたクチから出まかせだったが問題はなさそうだ。
それよりも、なぜ話しかけてきたのだろう。
自分にとっては、名前を思い出せない程度のクラスメイトだ。
彼女には、ボクに対して親しげに話しかける理由でもあるのだろうか。
なんにせよ、適当にあしらってさっさと話を打ち切ろう。
ボクは、目的を果たしたらグループのダレとも合流せずにそのまま帰ろうと思っていたのだ。
「じゃあ行こうか」
――は?
顔で疑問符を表すボクを、今度は気にもせずに言い放つ。
「私の友だちでありキミの友だちでもある友だちに荷物持ちを頼んだけど断られちゃって、代わりにキミが荷物持ちをしてくれるって話になってるんだけど」
その友だちの名前を聞くと、一緒のグループで来ていたボクの友だちだった。
友だちがボクに言い忘れていた、ということだろうか。
確かに友だちはそういうところをウッカリすることがたまにある。
「お昼前にフードコートのイートインスペースで待ち合わせって。話は通しておくって言われてたんだけど……もしかして聞いてない、とか?」
両手の指を組んで親指同士をクルクルさせながら、こちらをうかがうように不安そうな残念そうな視線を向けてくる。
「大丈夫、話は聞いてるよ」
友だちの名誉のために話に乗っておこう。
ボク自身の目的はすでに果たしている。
どうせ、あとは帰るだけだったのだから荷物持ちぐらいしてあげてもいいだろう。
「よかったぁ。そんな話聞いてない、なんて言われたらどうしようかと思った」
彼女が立ちあがるのに合わせてボクも立ちあがった。
彼女は荷物をなにももっていない。
これから一緒に買い回るということだろう。
歩幅の小さい彼女に合わせてゆっくりと並んで歩く。
「でもほんとよかった。『私の友だちであり』ってところから全部ウソだったんだもん」
すこしのあいだ、言葉の意味が理解できなかった。
解けたはずの疑問がまた一気にこんがらがった気がする。
「キミもウソついたんだからいいよね」
こちらを顔をのぞき込みクチの端を持ち上げて満面の笑みを浮かべている。
親しい友だちだったなら、対面状態でのぞき込んでくるこの頭を脇に抱えて後ろに倒れ込んでやるところだ。
「とりあえず、私がキミに荷物持ちを頼みたいってところだけが本当だよ」
彼女は、立ち尽くすボクを置いてゆっくりと歩きだす。
――ついてこないならそれでもいい。
そんなふうにも見えた。
なんにせよ、荷物持ちをすると決めてしまったのだ、付き合うのも悪くないだろう。