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10/24:朝の街道で

 

 朝露が新緑を彩る早朝。



 カルマとこころ、そしてオルレスが関所の門前に立つと、大きな門が左右に開いた。

 関所の先にも木々が生い茂る山道が続いていて、遠くには1台の馬車らしき何かが走ってくるのが見える。


「あれが【こうしゃ】か?」

「そうだ。比較的大人しいオオカブトを躾けて荷台を引かせんだ。やつらは力も強いから、多少の重いものであれば問題なく運ぶことができる」

「へぇ~。わたしたちの世界で言う馬車があれなんだね~」


 近づいてくるのは高さ2メートル、全長3メートルにもなろうかという巨大な一匹のカブトムシ。

 黒い艶のある胴体と立派な角に縄を巻き付け、ほろが貼られた木の車を引いている。

 

「まぁ、日本でも子どもたちが甲虫かぶとむしで相撲をさせてたり五円玉を引かせてたりするし、異世界でもその辺のパワーは変わらないんだろうな」

「大きさは全然違うけどね。ちょっと可愛いかも」


 巨大カブトムシが引っ張ってきているのはキャラバンと呼ばれるタイプの、日本語で言うなら大型馬車。

 優に十人は寝ころべるほどのスペースに荷物をこれでもかと積んでいるためか、テントのように屋根を形成している幌がところどころ角ばっていた。

 

 馬車改め甲車こうしゃが三人の眼前まで来る。

 キャラバンの前面に付けられた御者席ぎょしゃせきから、茶色いフードマントを着た小さい人影がピョンッと飛んで、オオカブトの傍に着地した。


「よしよし。いい子にしてるにゃ~」


((にゃ~?))


 背伸びをしてオオカブトの頭部を撫でている人物。

 その聞きなれない口調に固まっていると、オルレスが腰を折って会話を始めた。


「お待ちしていました、シャム殿。今回はこちらの甲車に積んである商品の護衛依頼と聞いておりますが……」

「そうにゃ。よろしく頼むのにゃ」


 そう言って、マントを着た人物がフードを下げる。


「ねこ?」

「みみ?」


 フードの下に隠れていたのは、小学生と見紛うような小さい背丈に、真っ白な髪の少女。

 整った顔立ちと金色の瞳、チャームポイントらしい八重歯も可愛いが、何より目立っているのはその頭部についた黒い猫耳だった。


「ん? こいつらは何なのにゃ?」


 怪訝な顔をした少女は、猫耳をぴこぴこさせながら、カルマとこころを指さした。

 無礼な仕草だったが、小学生くらいの女の子にそんなことをされても微笑ましいだけである。


「この者たちは私の連れです。ステルゲンブルグで用事があるとのことなので同行させていただきます。一応戦闘の心得はあるので護衛部隊として追従しますが、特別追加の料金などは致しませんのでご安心ください」


 二人の役割は、通常戦闘の補佐と強敵の撃退。

 強さでいえば当然トップなのだが、今回の依頼はオルレスの名声を守るための保険だ。

 しゃしゃり出て物理で解決するのは簡単だろうがそれでは意味がない。


「ふぅん……本当にコイツら戦えるのかにゃ?」


 別段筋肉などは目立たない中背中肉のカルマと、武器も持ったことなさそうな細っこい指を持つこころ。

 確かに一見しただけでは貧弱な二人である。

 外見幼女のお前に言われたくはないと思うカルマだったが、当然口には出さない。


「主力部隊は私達傭兵が護衛を務めます。この者たちは戦闘補助が主なので問題ありません」

「……ま、商品を守ってくれればどうでもいいにゃ。そこはしっかりと頼むにゃ」


 茶色のマントから出した腕を組んで、無い胸を張る猫耳少女。


「それでは、他の護衛部隊を呼んできますので少々お待ちを」

「分かったにゃ。早めに頼むにゃ」


 オルレスは武骨な外見に似合わないほど丁寧な礼をすると、出立の命を伝えるために警備小屋へと走って行った。

 残された猫耳少女は、二人に振り返る。


「バンコック商会のシャムにゃ。ステルゲンブルグで猫人族びょうじんぞくの店を開いてるから、必要な物があったら買いに来るといいにゃ。言ってくれたら何でも揃えるにゃ」


 ふっふーん!と鼻息を荒げて天狗になる、猫耳少女改め猫人族のシャム。

 よほど品揃えに自信があるらしい。


「ああ。俺は近衛カルマ。カルマって呼んでくれ。ステルゲンブルグで何かあったら、よろしく頼むよ」


 シャムが手を伸ばしてきたので、カルマも手を伸ばして握手する。

 彼よりも二回りほど小さい手だったが、しっかりと握り返す掌からは力強さを感じる。


「カルマ。期待してないけど、こちらこそよろしく頼むにゃ」

「ははは……」


 むしろカルマの戦力が期待されることなどあってはならないので、彼も苦笑い。


「女の方は何て言うのにゃ?」

「あっ、えっ! な、何のこ……わ、わたし!?」


 シャムに声を掛けられるまで、こころは凍りついていたように動きを止めていた。

 その瞳はシャムの猫耳に吸い寄せられている。


「お前以外に誰がいるのにゃ」


 むんっ!と効果音が出てきそうな顔をして可愛らしく怒るシャム。

 話を聞いていなかったことにご立腹だったらしい。

 マントから出した両手も腰に添えられて怒りを表現している。

 ピンと立った猫耳にこころの視線が再度吸い寄せられたが、今度は誘惑に抗えたのかシャムに返事を返す。


「わたしは樫咲こころ。こころでいいよ、シャムちゃん。よろしくね」

「ちゃん付けはやめるにゃ。シャムはこう見えても18歳にゃ」


 あら意外。


(こういうのって何て言うんだったかな……ああ、合法ロリか)


 異世界なので合法もクソもあったものではない。


「あっ、ごめんなさい! わたしよりも年上だったなんて……てっきり年下かと……」

「し、シャムはちょっと成長が遅いだけなのにゃ! あと三年もすればバインバインのボインボインになるのにゃ!」


 こころの発言が気に触ったのか、茶色のマントをばっさばっさと振るわせてシャムが地団太を踏む。

 そのマントの下は顔から足まで直通ラインで、空洞が大部分を占めていた。



「お前もバンコック商会のヤツらと同じで全然見る目が無いにゃ! あいつら、いつの間にかシャムの名前が彫られたまな板を販売して、シャムが問い詰めたら『お前はまな板の凄さを全然分かってない』とか言い出すのにゃ! わけが分からないにゃ! そんなにシャムをいじめて楽しいのかにゃ!!」



((やだ……この子不憫))


 涙目シャムの地団太は、オルレスが一回り小さい護衛待機用のキャラバンを引いて戻ってくるまで続いた。

 当然「お前ら何初っ端から依頼主を怒らせるんだやめてくれよ」という視線に射抜かれたのは言うまでもない。




-------------------------------------------------------------



 荷台をガタガタと揺らして街道を走る甲車。

 歩きとは比べ物にならない速度へ景色が後方へと流れていき、いかにオオカブトが速くて力強いのかを物語っていた。

 しかも、1匹のオオカブトの後ろにはシャムのキャラバンともう一つ。

 まるで列車を連結させるようにして護衛隊の小型キャラバンも繋いでいるというのに、速度は衰える気配を見せない。


「速い速ーい! わたし馬車に乗るのって初めてなんだ~。昔、遊園地で造り物に乗ったことあるけど、比べ物にならないね。あの東京ディズn」

「それ以上はいけない」


 こころとカルマは、商人側のキャラバンに乗って外を流れる景色を見ていた。

 商品がこれでもかと詰め込まれて、スペースにはほぼ空きがなく狭かったが、それもまぁヒッチハイクの醍醐味だと考えて抑える。

 当然、後ろのキャラバンに乗るという選択肢もあった。

 しかし、他の護衛兵士がこころに下卑た視線を向けてくるので遠慮しているのだった。


「すまない。荒くれ者のあいつらも、守衛としてはそこそこ役に立つのでな」


 小さいキャラバンの御者台にはオルレスが座り、こころが感じていた不快感に詫びた。

 寝るためだけの狭いスペースはキャラバンの後ろ側に小さく確保しているので、連結された御者台が必然的に近くなる。

 その言葉に、幌から顔を出して外を見ている彼女ではなく、カルマのほうが口を開いた。


「いえ。部外者は本来こちらの方ですから、気にしないでください」

「そう言ってもらえると助かる」


 後ろの馬車には荒くれ者の護衛兵士が三人ほど。

 モブABCが乗っていた。

 当然ながらそれぞれ本当の名前はあったが、こころへ向けた視線がイラッときたので、カルマの中では全部まとめてモブキャラ扱いとなっていた。


 御者台の背もたれからガラス戸を覗きこんだオルレスは、中から見える酒盛りの様子に顔をしかめる。

 奴等は護衛する気があるのだろうか。


(この人、良い人だけど苦労人だな……)


 視線を前方に向けると、オオカブトのすぐ後ろで手綱を握っているシャムが、木箱の隙間から見える。

 ガタゴトと荷物がうるさいが、声が届かないほどではない。


「それで、どれくらいでステルゲンブルグに着くんだ?」

「この速度なら今日の夕方には街に着くにゃ。途中で何回かオカちゃんを休ませないといけないから、ちょっと時間がかかるにゃ」

「オカちゃん? ……ああ、オオカブトのことか」

 

 カルマは、こっそりとスマフォを起動して現在時刻を確かめる。

 午前8時だ。


(……なかなかに速いな)


 休憩を挟んで十時間ほど。

 山道だから登り降りだってあるだろうし、それで百キロ弱を走破と考えれば悪くない速度だ。


「カルマはステルゲンブルグまで何しに行くのにゃ?」


 酒盛りと同じようなテンションではしゃぐこころを一瞥して、前を見たままシャムが問いかける。


「大迷宮で仲間とはぐれてしまってな。今はステルゲンブルグにいるらしいから、とりあえず合流しようかと考えている」

「にゃに? お前冒険者だったのかにゃ?」

「うん、まぁ、その類だ」

「にゃるほど。そういえば、数日前にお前みたいな変な服を着たやつらが王都を歩いていたらしいにゃ。バンコック商会の情報網でも噂になってたにゃ。珍しい素材を使った衣服だから売れるとかにゃんとか」

「は、ははは……」


 クラスメイト達もいろいろと探しまわっているのだろう。

 RPGで定番の「珍しい服着てんな、金出せやオラ」的なパターンになっていないだろうかと、カルマは冷や汗を流した。


「シャムはどこから来たんだ?」

「フォルダンの街からにゃ。大迷宮を挟んで反対側にあるにゃ。護衛は前の村までの契約だったから、朝一番でお前らを新しく雇ったんだにゃ」

「フォルダンの街って大きいのか?」

「大きくはにゃいけど、海産物が豊富に獲れるにゃ。近くに坑道もあるから、発展が期待できる町にゃ」


 カルマは感心したようにうなずく。

 外見は小学生だったが、商人だけあって何ともたくましいようだ。


「この辺には来たばかりなのかにゃ?」

「まぁ、いろいろと訳ありで……」

「そうかにゃ。見知らぬ土地に地図も無しで踏み込むとか、お前は馬鹿かにゃ?」

「ぐっ……」


 何とも正論である。


「地図が必要なら売るにゃ。安い地図で二百エレク、詳細な地図なら五百エレク、迷宮情報も載ってるガイドブックなら一万エレクでどうかにゃ?」

「い、いや、遠慮しとくよ。お金持ってないし……」


 エレクはお金の単位だろうことは予想がつくが、生憎この世界に来てから金なんてものは一回も見たことはない。

 食料も迷宮の地下部屋から持ってきたものがあるし、ステルゲンブルグに着くまでは食事が出ると言うので心配する必要もなかったのだ。


 金を持っていないと知ってシャムは興味を失ったが、「見るだけならサービスにゃ」と言ってから虫食いだらけのボロい地図を放り投げる。

 それは荷物の間をかいくぐって、カルマの手に収まった。


挿絵(By みてみん)


 青い丸が街、黄色い六角形が迷宮を示しているようだった。


「茶色い三角は……山?」

「農村にゃ。戦略的にはともかく、山が密集しているところに街や道作るアホがいるかにゃ。一番安い地図だから、地形が書かれていにゃいだけ」


 言われてみれば、農村を示す三角は沿岸部や都市、街道付近に多くあるようだった。

 礼を言ってからボロ地図を投げ返す。


「ステルゲンブルグまで行けば冒険者ギルドもあるから、せいぜい稼いでウチの店に還元してくれにゃ」

「そうさせてもらうよ。ありがとな、シャム」

「礼なら金で受け取るにゃ……いや、今すぐ槍働きで返してもらうにゃ」


 シャムのトーンが急に低くなった。

 甲車の速度も少しずつ落ちていくと、外を見ていたこころも真剣な顔をして前を向く。

 カルマたちは荷物で見えないが、御者台で前を見つめるシャムが何かを発見したのだ。

 


 後ろで話を聞いていたオルレスが、手に持った槍を握りしめる。

 ついに甲車が止まると、飛び降りた彼は前方へと走り出した。

 後ろにいたモブキャラも異変を感じたのか、鉄の剣を持って後をついて行く。


「おぃおぃ、なんだなんだ敵か!」

「ひひひ。一番活躍した奴が、勝手に付いてきたガキの女を一人占めできるってのはどうだい?」

「おっ、それいいな。最近出してないから溜まってんだよ。あんな美人だったらいくらでも腰振れるぜ」


 モブが馬車のすぐ横を通った時に聞こえた会話に、こころがビクッと震える。

 彼らより格段に強いと分かっていても、女性にとって自身を景品の如く扱われるのは恐怖以外の何物でもない。


「気にすんな。いざとなったら焔神状態になってでも樫咲を守る」

「……うん」


 背に隠れたこころを気遣うように、サラサラの髪を撫でつける。

 そのまま二人でキャラバンから飛び出すと、衛兵たちの向こうを見据える。


 先ほどまでとは変わらない森に囲まれた街道。

 御者台で手綱を握っているシャムが、道を塞ぐ影を見て声を張り上げた。


「あ、あいつはキーンカマキリにゃ! 両手の鎌から風緑魔法を飛ばしてくる強敵にゃ!」


 十メートルほど前に立ち塞がっていたのは、緑色のモンスター。

 外見は、その名の通り巨大なカマキリ。

 キャラバンもそれなりに大きかったが、怪物はそれを一回り上回るサイズをしていた。

 

 その姿の中でも特に恐ろしいのが両の腕にある巨大な鎌。

 光沢を放っているソレからは、時折キイイィィンと耳障りな音がしている。

 おそらく風緑魔法だろう。

 斬られたら皮の防具程度なら貫通してしまいそうだ。


 先ほどまでへらへら笑っていたモブキャラ達は、そのモンスターを視認すると一斉に後ろへ下がった。


「お、おいガキ! お前は盾になれ!」


 モブの一人である金髪モヒカンが、後ろにいたカルマの腕を掴んで前に押し出す。


「おっとっと」


 さすがに衛兵をやっているだけあって腕力はそこそこあるらしい。

 焔神状態でもないカルマは、勢いに押されて先頭に立つオルレスの傍まで押し出された。

 ついでに、男が傍にいなくなったこころを奪おうと思ったのか彼らは手を伸ばすものの、カルマの後を追ってこころも正面に出たため、欲望にまみれた手は空を切ることとなった。


 モブキャラの悔しそうな顔を受け流してから、二人はオルレスに並び立つ。

 キーンカマキリの方はこちらの様子を窺うようにして立っており、幸いにもまだ攻撃を仕掛けてきていない。

 二人も時折カマキリと目が合うが、敵の赤い目はひどく無機質で感情が無く、それがまた一層恐怖をあおる。


「オルレスさん、倒せそうですか?」

「かなり厳しいな……まさかこんな道端でコイツレベルのが出てくるとは普通思わん……」

「わ、わたしなら!」


 苦々しげなオルレスと、心配そうなこころ。

 風緑魔法師であるこころには分かるが、確かに相手は強い。

 緑色の鎌に備わった魔法は、こころ自身も使う“ウィングブレイド”。

 迷宮内で数多のモンスターを切り裂いた風の刃が、今度は自分たちを襲うのだ。

 

 オルレスはこころの瞳を見てから頷くと後ろに下がる。

 こころも、それを受けて掌をキーンカマキリへと向けた。

 

 しかし、そこに待ったの一言が掛かる。


「いや。ここはオルレスさんに任せよう」


 隣で見ていたカルマだ。


「……俺に死ねって言っているのか?」


 その怒りを受けても、カルマは涼しげに流す。


「俺達が受けた依頼はオルレスさんの名声を守ること。これじゃ依頼に違える形になるからな」


 槍を持った褐色の武人に、カルマは小さく耳打ちした。


「俺が攻撃を、樫咲が防御をサポートする。あいつを倒すのは、あんただ」


 そう言うと、カルマは槍の先に触れてニヤリと笑う。

 オルレスは少しの間呆けていたようだったが、その表情に何かを察したのか、鼻で笑い返した。


「はっ。礼は言わねえぞ、兄ちゃん!」


 槍を構える表情に、さっきまでの悲観した面影はない。

 闘志に満ち溢れる武人を一瞥して、カルマはこころへと向き直る。


「樫咲。何発まで耐えられる?」

「……に、いや、三発かな」

「オーケー。二発だな。……そんな悲しそうな顔するなって。充分だ」


 万が一にも防壁が突破されないように、出来る限り全気力を注ぎ込む必要がある。

 自分と同じレベルの攻撃にどれだけ耐えられるかシミュレーションした彼女は見栄を張ったが、カルマに止められた。

 むぅと膨れるこころにウィンクしてやる。

 カルマは最後に二人の肩を叩くと、わざとらしそうに声を上げた。


「う、うわあああああぁぁ! 俺はまだ死にたくないいいいぃぃ!!」


 そのままキャラバンの中まで走って逃げると、残された全員の時間が止まった。

 オルレスがぽつりと呟く。


「……変な奴だな」

「近衛君は最初から変ですよ」


 彼のため息に、くすくすと笑い声で返答する。


 そして、遂にキーンカマキリも動き出した。



「キェアアアアアアアアアァ!!」



 辺り一面にカマキリの咆哮が響く。

 森林の葉が落ち、びりびりと木々が震えて一斉に鳥たちが飛び立つ。

 後ろのモブキャラどもに至っては、声の圧力に尻もちをついて座りこんでしまった。


 オルレスも表情をこわばらせるが、少しでも尻ごみをしてしまえば鎌に斬られてあの世行きだろう。

 もう後には引けない。


「オルレスさん、行ってください!」

「おう!」


 彼女の言葉を合図に、オルレスは疾走して十メートルの距離を詰めようとする。

 年下の少女に守られているというのに、屈辱感は無い。

 

 キュインッ!


 疾走するオルレスの正面で風切り音が響いたかと思うと、目の前に見えない刃が飛んでくる。

 どこに当たっても致命傷となりうる風の殺意。


「“ブリーズカーテン”」


 それを、こころが風の防御魔法を使って軌道を変える。

 風圧に押し流された刃は見当違いな方向へ逸れ、森の木々をまとめて数本薙ぎ払った。

 【トリプルピアノ】の守護は伊達ではないのだ。


「隙ありッ!」


 魔法攻撃の硬直を利用し、オルレスはカマキリの懐へと潜り込む。

 カマキリは風魔法で十分だと思ったのか、無機質な目に驚愕の色が浮かんでいるように見えた。

 小さな捕食対象として侮っていたのだろう。

 機械的だった目に、敵を念入りに潰す殺意が宿る。


 懐へ潜り込んだオルレスへ、二本の鎌を振りおろした。


「“ブリーズカーテンっ!”」


 咄嗟に、こころが風の障壁を二つ生みだす。

 だが、彼女は当初に言ったとおり、万一にも突破されないように全力の気力を込めたブリーズカーテンは現状二発しか撃てない。

 案の定、パキャンッ!と音を立てて一枚が破壊される。


「お、おおおおおおぉぉッ!!」


 褐色の武人が慌てて武器の軌道を変えようとするが、もう間に合わない。

 このままだと風の刃によってオルレスの頭蓋は割られ、その肉体もろとも臓物を散らして真っ二つになる。



 そこに、どこからか一本の火矢が飛翔する。



 赤く燃える矢はカマキリの腕部を正確に撃ち抜くと、それは鋭利なナイフであったかのように悪魔の鎌を切断した。


「ナイスアシストだ、兄ちゃん!」


 攻撃の手段を失ったカマキリへ、彼の一太刀が喉を貫く。


「この、クソ虫野郎おおおおおぉ!!」


 刃に触れる部位が『まるで高温で溶けるかのように』易々と通り抜け、カマキリの喉から頭部までを貫通する。

 それでも緑色の巨大生物は鎌を持ちあげようとするが、すぐに身体を痙攣けいれんさせて動かなくなった。


「ッ……おっしゃあああああああぁぁ!!」

「や、やったぁ!」


 オルレスが槍を抜き、黄色の血がついたそれを高々と掲げる。

 こころもスカートを翻らせ、その場で跳びはねて喜ぶ。

 これ以上ないほど明確な、彼らの勝利だった。


「か、勝ったのか?」

「隊長スゲぇ……あの女も、なんて奴だ……」

「あんな強くて綺麗所の女が、なんで逃げたクソ弱いネクラ男になんか付いて行ってんだ……くそっ」


 モブキャラ達が称賛と嫉妬。

 そして、自分達のことを棚に上げてカルマへの侮蔑ぶべつを露わにし、キャラバンへとあざけりの視線を向ける。





 勝利に喜ぶ隅で、御者台にいるシャムもキャラバンへと視線を向けた。

 その目にはモブキャラと違って嘲りなどは一切ない。

 気配に敏感な猫人族びょうじんぞくである彼女は、室内で突然現れた大きな存在に気付いていたのだった。





~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


近衛カルマ (17歳)

種族:焔神

職業:学生

レベル:3

経験値:648/102400

体力:1/1

気力:9999993/9999999

腕力:1

脚力:1

知力:9999999

スキル:【ザ・スキルセレクター】・【焔神威】・空きスキルスロット

装備品:学生服・ブラックレインコート・アテムの指輪・サバイバルナイフ・リュックサック

所持金:0ELC


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


樫咲こころ (17歳)

種族:人間

職業:学生

レベル:5

経験値:110/240

体力:170/170

気力:51/400

腕力:72

脚力:82

知力:274

スキル:【初級水聖魔法師】・【初級風緑魔法師】・【初級治癒術師】・【オカン】・【女神の慈愛】・空きスロット・空きスロット・空きスロット

装備品:学生服・皮のコルセット・ステートのネックレス・サバイバルナイフ・リュックサック

所持金:0ELC


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



挿絵は五分ペイントクオリティなんで勘弁して下さい。

「そういえばコレどうなってんの?」って質問があればレビューや感想に書いていただけると助かります。意図的に描写していないものもありますが、この調子だと単に忘れているだけなのも多そうです。


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