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10/22:昨晩はお楽しみで

一応大丈夫なラインは維持してると思います。

 回復魔法を何度も掛けた後、【焔神威】によって迷宮脱出が格段に楽になることが分かり、今日は部屋で休んでから外を探索することにした二人。

 幸いにして二人のブレザーにはスマフォがほぼ無傷で残っていたので、朝昼はともかく時間間隔は容易に分かる。

 幻台高校では学校のコンセントを使って充電することを禁止していたため、お互いにソーラー充電機を持っていた事も僥倖ぎょうこうだったと言えよう。


 その夜。



「やっぱ風呂は良いなぁ……」


 近衛カルマは肩まで風呂に浸かると、浴槽の縁に頭を載せて目を閉じ、その口からため息を漏らす。


 彼がいるのは、地下部屋にあったバスルーム。

 そこで浴室の半分を占める4メートル四方の巨大な銀色の浴槽(というよりは風呂桶のような丸い形状)にお湯をため、隅にあった籠に服を脱ぐと、浴槽に入って身体を休めていた。

 同じく銀のタイルが貼られた浴室には、どこからか浴槽の真上までホースが伸びており、壁にあるレバーを引くことによって温水が降ってくる仕組みになっている。


 ちなみに、こころは当然バスルームの外。

 彼女はバスタオル1枚で中途半端にお湯に浸かっていたし、何よりもレディーファーストでこころを先に入浴させた方が良いかとカルマは考えていたが、例のニコニコ笑顔なのに能面の如き形相という意味不明な表情で「お先にどうぞ」だけを繰り返されたため、薄ら寒さを感じながらも一番風呂にあずかることになった。


「やっぱ日本人は風呂だよ風呂」


 女性を置いて一番風呂に入ることに少々罪悪感を感じつつも、目を閉じてお湯の感触を楽しむカルマはついつい独り言が漏れる。


「この世界にも温泉ってあるのかな?」

「どうだろう。火山があれば温泉が湧く可能性もあるし、山岳地帯があれば不思議じゃないよな」

「火山温泉と言えば、やっぱり醍醐味は露天風呂だよねぇ」

「分かる分かる。あの肩から上が涼しい中で四十三度くらいの湯に浸かるのが最高だよな」

「うんうん。わたしとしては雪見温泉ができる冬がいいな。寒い中を我慢してあったかい湯に入るのが最高だよ」

「秋もいいぞ。そこそこ寒いし、お湯に浮かぶ紅葉は風情があって和む」

「あー。温泉入りたくなってきたぁ……」

「だな……」

「……」

「……」

「……どうしたの?」

「……いつ入ってきた?」

「近衛君が入った直後」


 この子には忍者のスキルでもあるのだろうか。

 扉を開く音もさせず、バスタオル1枚だったとはいえ脱ぐ音もさせず、浴槽に入る水音すら立てずにカルマの隣にいる。

 その事実に、風呂の熱さで出た汗とは別の性質のものが、目を閉じたままのカルマの額で流れ落ちた。


「そ、それじゃ、俺はそろそろ上がるからこれで……」

「だ・め」


 そのまま風呂から出ようとしたカルマの片腕を、ガシッと音がなりそうなくらいの勢いで掴まれる。

 ステータスでは百以上もある二人の腕力差だったが、何故か彼の方が力負けし、ずりずりと浴槽まで引き戻された。


(な、何て力だ……)


 腕をつかまれたままでは逃げようもなく、仕方ないのでもう少し居座ることにしたカルマ。

 当然、目は閉じたままだ。

 その光景は、こころにとって面白くないものらしい。


「……なんで目を閉じたままなの?」

「いや、だって樫咲も裸だろ」

「そうだけど。それがどうかしたの?」


 目を閉じているのでカルマにはわからないが、きっと彼女の頭上には?マークが踊っているに違いない。

 

 カルマがこころの反対方向にジャブッと音を立てて体を逃がすと、こころも波紋を追うかのようにちゃぷんと追従してくる。

 ジャブッ。ちゃぷん。ジャブッ。ちゃぷん。ジャブッ。ちゃぷん。

 円形の浴槽を一周して元の位置に戻るまでそれを続けると、ついに痺れを切らしたのか、こころが次の行動に出た。


「むぅ~。近衛君はわたしと一緒に入りたくないの?」

「別にいやってわけじゃないけど……」

「けど?」

「俺も男だし、いろいろとマズイわけで……」


 今は手だけが触れているからいいものの、どこがとは言わないが、触れた部分によってはカルマの俺タワーが増築されていくことになるだろう。

 それを聞いたこころは、ニヤリと妖艶な笑みを浮かべる。


「襲いたくなっちゃう?」

「いぃっ!?」


 女を感じさせる艶やかな声に、カルマの動きが止まった。

 彼の体が硬直したことに気づくと、こころがその女体を動かし、仰向けになった彼の上へ体を重ね合わせる。

 そうなれば当然、

 

 彼の首筋には熱い吐息が、

 彼の胸板には柔らかな塊と小さくコリコリした蕾が、

 彼の腰には華奢なくびれが、

 彼のへそには絹糸のようにさらさらしたナニかが、

 

 まるで悪魔の誘惑のようにまとわりついてくる。

 その感触に、半分以上回復したはずだったカルマの体力がごりごり削られていった。


「ちょ、は、離れて……」

「近衛君。わたしじゃだめ?」

「だめとかそういうんじゃなくて、何でいきなり……」


 完全に硬直し、もはや動くのは口だけとなったカルマが理由を問う。

 ここまでやっても気づかない彼に、こころは小さく「鈍感」と呟いた。


「はぁ……じゃあ、今日はここまでにしとくね」


 ザバァっと風呂から上がる音がして、カルマの体が動くようになった。

 その後、脱衣所の籠をゴソゴソと探る音も聞こえる。

 

(な、なんだったんだ?)



 近衛カルマは、思わず引っ叩きたくなるような鈍感野郎だった。







 所変わって浴室の外。


「わ、わたしったら、なんて大胆なことを……」


 浴室の扉に背をつけた樫咲こころは、先ほどまでの自身の行動に湯気が出るほど赤面していた。

 その手には脱衣籠から盗って……取ってきた近衛カルマのカッターシャツが握られている。


「確かにお風呂はチャンスだと思ったけど……ううぅぅぅ」


 幸いながら、彼女はカルマの顔を終始見つめていたためこの程度で済んでいるが、それ以外の部位に目線がいっていたらどうなっていたかは分からない。

 抑え切れなかった恋心に、誰よりも彼女自身が一番動揺していた。

 衝動の根底には、カルマが生きていてくれたことによる安堵と、抑え込まれていた恋心の反動、そして隣にいるのに目を閉じられて半ば意地になったというのもある。

 しかし、少なくとも自分の想いはピュアな付き合いを望んでいると感じていた……はずだった。


「まさか、身体で迫るなんて……」


 自らのオンナをダシにした事実を再度口に出してみると、余計に恥ずかしくなったらしい。

 体を拭いただけで裸のまま、ベッドにダイブして転げまわる。

 完全にマイルーム感覚だった。

 ちなみに、様々な服が詰め込まれたクローゼットの存在も知っていたが、そんなことは脳内から吹き飛んでしまっていた。


「しかも、つい盗って、じゃない、取ってきちゃったし……」


 散々転げまわって仰向けに寝転がると、胸に抱きこまれたカッターシャツに視線を落とす。

 重力に逆らって上を向いた双乳に挟まれるシャツ。

 それを見て、ポンッ!と頭から湯気が噴き出した。


「い、今なら大丈夫……だよね……」


 ベッドから起き上がって、周囲をキョロキョロと見回す。

 当然人影は見えず、カルマ自身はまだ風呂の中だ。


「よしっ!」


 敵影なしと判断し、恐る恐るシャツの襟元に顔を近づける。

 ポリエチレン繊維に鼻を触れさせると、深く息を吐いてから、思い切り吸い込んだ。


「すぅっ……ほわぁぁぁぁ」


 途端、マタタビを嗅いだ猫の様に表情が崩れる。

 

「すううぅっ……はぁっ、はぁっ……すううぅぅ……んっ」


 その行為で何かが決壊したのか、一心不乱に呼気を荒げて匂いを嗅ぐ。

 くんくん、はぁはぁ、くんくん、はぁはぁ。

 もはや彼女の目にはシャツ以外何も映っていなかった。


「これ、すごい……しあわせぇ……はっ!?」


 こころの表情は完全に雌のソレで、いわゆるアヘ顔の一歩手前であった。

 

 だが、さすがにそれはマズイと判断したのだろう。

 女性としての尊厳が修復不能になる直前で、粉々に砕かれたはずの理性が戻った。

 ちなみに、「くんくん」と「はぁはぁ」に「ぺろぺろ」が追加される二秒前でもあった。


「だ、だめ……でも目の前の誘惑が……そうだ!」


 こころは直感する。

 一番匂いの濃い襟元が眼前にあるからダメなのだと。


「これをこうして……」


 何かに気づいたように立ち上がると、手に持ったシャツに袖を通す。


「これならなんとか!」


 なりませんでした。


「うぅぅ。余計に我慢できなくなっちゃう」


 一体何を考えてそうしたのか、彼シャツ状態になって自らを追い込むこころ。

 もしこの姿を写真に収めたのであれば、幻台高校の男子に一枚数万で売れるレベルだった。

 

 そんなことは露知らず、今度は無意識に鼻をくっつけてから、余り気味のそでをガッツリ吸い込む。


「すぅぅっ……はああぁぁ……うひひっ」


 美少女にあってはならない、完全にヤク中の笑みが迸った。


「ふううぅぅ……んぅっ……はぁ、はぁ」


 もうここまでくると理性なんてものは欠片も残っていない。

 無意識に左手が股の間に伸びて、




「風呂上がったから、次どうぞ」




「わひゃあああああああああ!!」


 想い人の声に硬直した。


「な、なにごと!?」


 こころが勢いよく振り向くと、そこにはカルマが風呂上りの姿で立っていた。

 上はTシャツ一枚で、下は普通に学生ズボンをはいている。


 万が一カルマが風呂から上がってもすぐにはバレないよう、浴室の扉に背を向けていたのがあだになった。

 扉を開ける音なら聞こえるだろうという慢心が生んだ悲劇である。

 当然、全神経を集中していた鼻とは違い、耳は役割を綺麗さっぱり捨て去り、雑音すべてをフリー通行させていた。


「あ、あのね、これは、ね、えっと、その……さ、寒かったの!」

「え?」


 カルマが疑問符を浮かべるのも仕方ないだろう。

 こころの荒れようを投影するかのように、陶磁器のように白かったはずの肌も真っ赤に染まっている。

 カルマはその慌てようにいぶかしんだが、彼女が自分のシャツを素肌にまとう姿に気付いて視線をそらした。

 

「ち、中途半端にお風呂入って寒かったから仕方なかったの!」

「いや、それじゃ自分のを着れば」

「わたしの着ると暑いの!」

「お、おう?」


 その鬼気迫る表情に何かを感じ取ったのか、よく分からないながらも無理やりするカルマ。

 何かの正体は羞恥に塗れた半泣きだったのだが、彼はそれを怒りととったらしい。


「そ、それじゃ、わたしもお風呂入るね。の、覗いちゃダメだよ」


 そのままカルマの横をすり抜けると、彼シャツ状態で浴室に逃げ込むこころ。

 覗くどころか混浴したのは一体どこの誰だったか。

 

 一方、残されたカルマは首を捻っていた。



(……よく分からんやつだな)



 やっぱコイツ引っ叩こう。





 その後、ベッドで寝ていたらいつの間にかこころが乗っていたり、朝起きたら使用済み枕が消えていたりもしていたが、彼にとっては些細な事。

 それよりも重大な案件。

 迷宮脱出が始まる。




~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


近衛カルマ (17歳)

種族:人間

職業:学生

レベル:3

経験値:5/102400

体力:149/180

気力:10/10

腕力:166

脚力:126

知力:92

スキル:【ザ・スキルセレクター】・焔神威・空きスロット・空きスロット


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


樫咲こころ (17歳)

種族:人間

職業:学生

レベル:4

経験値:0/190

体力:165/165

気力:327/395

腕力:69

脚力:79

知力:273

スキル:【初級水聖魔法師】・【初級風緑魔法師】・【初級治癒術師】・【オカン】・【女神の慈愛】・空きスロット・空きスロット・空きスロット

所持金:0ELC


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