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10/22:焔神状態で

説明回でござるよ

 衝撃的な新スキルを確認しつつ食事を終えると、カルマはキッチンの方へと移動する。

 

 新たに入手したスキル【焔神威ザ・ピュール】。

 

 その字面と内容からして、どう考えても火に関係した何かになるスキルらしい。

 そこで、木のログハウス内で床に金属が使用されているキッチンで試してみることにしたのだ。

 ここなら、多少の小火ぼやであっても水瓶で消化できる。

 風呂の床も金属だったが、まだ入浴していないとのことで、こころによって却下された。


「そういえば樫咲。魔法を発動する時ってどうやってたんだ?」

「んーと……スキル名を頭の中に浮かべると、そのスキルで使える魔法のキーワードが次々に浮かんでくるって感じかな。わたしは【初級風緑魔法師】だから、多分そんなに数は多くないけど」


 へぇ、とカルマは感心したような声を出す。


「ってことは、【初級治癒術師】って思い浮かべたら、体力回復魔法が使えるのか?」

「そうだねぇ…………あ、出てきた」


 こころが目を瞑ると、頭の中に浮かんできたのだろう。

 首をひねって先を促す。


「今のわたしに使える回復系は、体力回復と解毒の二種類だね。回復量もほんのちょっとだし、強い毒は解毒できないっぽいなぁ……」


 うんうん唸りながら、情報を引き出していくかのように体をゆすり、そのたびに彼女の周囲から温水が波打っている。

 もうこれ以上は出てこないところまでいくと、こころは二重瞼を開いた。

 

「なるほどな。サンキュー」

「お礼は良いから。早く焔神状態ってのが見てみたいな~」


 ちなみに、キッチンに置いてある二つの巨大な水瓶の内、片方には並々と水がそそがれ、もう一つは風呂場から調達してきた温水にこころが肩まで浸かっていた。

 近くで見るにしても危ないかもしれないので、その折衷案を取った形がコレだという。

 もっとやり方があったろうに、変身シーンを見たいといった彼女の強硬策を半ば押し切られた結果となった。

 一応、風呂場にあったタオルを巻いたまま浸かっているが、それでもカルマは視線を逸らして話をしている。


「よし……やるか……」


 カルマはキッチンの中央に立つと【焔神威ザ・ピュール】と頭に思い浮かべる。


「……ん……え? そんなことでいいのか?」


 浮かんできた内容に驚いたのか、カルマが独り言を漏らした。


「近衛君、どうかした?」

「う~ん……使い勝手は確かにいいけど、トリガーがこれだとちょっと厄介だなぁ……」


 カルマは目を瞑って、先ほどの彼女のようにうんうん唸っている。


「何か分かった?」

「ああ。どうやら焔神状態になるには二つの方法があるらしい」


 今回は簡単な方で良いかと考えると、カルマは彼女にも見えるように腕を上げる。

 その手の先は、いわゆる指パッチンの形になっていた。


「?」


 こころが頭に疑問符を浮かべていると、カルマが指を鳴らす。



 その瞬間、室内に暖かな空気が満ち溢れた。



 ただ暖かいと言うのであれば、室内の温度を上げればいい。

 それだけでなく、まるで自分の家であるかのような、安心できる空気も満ち溢れているものだった。

 室内に置いてあるベッドが乾燥し、太陽の匂いがするようにふかふかな布団へと変わる。

 ランタンの明かりしかなかった室内も、陽光の灯が差しているかのように明るくなっていく。

 人間が本能的に安らげる、そんな空間が形成されていた。


 そして、その中心には、


『これが……焔神状態……』



 人型の炎と化したカルマがいた。



「すごーい!」


 思わず、水瓶から飛び出たこころが彼に近づいて行く。

 一方、オレンジ色の火そのものになったカルマは傍にあった食器へ触れた。

 しかし溶けることはなく、まるで食器洗浄機で洗った直後のような丁度良い温度になるだけだった。


「ねぇねぇ、それって熱くないの?」

『いや、熱くはないな。何というか、頭まで温泉に入ってるって感じだ』


 発声器官など見当たらないカルマの声は炎の中から響いてくるようで、エコーが掛かったような独特なものになっていたが、こころにとってはそれすらも安心できる要因となっていた。

 一歩一歩近づくたび体表に張り付いた水が気化し、暖かい空気がまとわりついて行くのも心地よいらしい。

 彼のすぐ後ろまで近づいた彼女が、ウズウズと何かしたそうにしている。


『触っても大丈夫だよ。ちょっと暖かいだけだから』

「じゃ、じゃあ……失礼します……」


 メラメラと燃える炎に、恐る恐る右手を近づけていく。

 中に人間の肉体があるわけではなく単純に炎の塊のようで、華奢な指がずぶずぶと沈んでいった。

 

「お。ぅ……ああぁぁぁ」


 指どころか手の中ほどまでを胴体らしき部分に埋め込んだこころ。

 その可憐な容姿には似つかわしくない、まるで残業から帰ってビールを飲みながら風呂に浸かる中年オヤジのような声が漏れる。


「このえ、くん……ふぁっ、これ……すごっ……うひひひっ」


 それもそのはず。

 彼女の手全体が、まるで温水でマッサージするかのように揉みしだかれ、暖かな風でくすぐられ、適温の美肌ジェルを塗られ、再度温水に漬け込まれるといった不思議な感触を味わっていた。


「んにゃ……ふぁっ……んうぅ……」

『あのー。樫咲さん?』

「だめぇ……もっと……」


 無意識のうちに右腕全体がカルマの体内にあった。

 さらに、身体全体をぴったりと合わせるかのように沈ませていく。


『ちょっ!?』


 これで色々とマズイのが焔神状態になった本人だ。

 彼の身体は、内部にあるものを隅から隅まで手で触れているかのように感じ取ることができる。

 細っこい腕を自分の手で揉みしだくかのように感じている現状が、彼にとってギリギリのラインだった。

 それが身体全体となると……


『や、やめっ! その辺にしとけ!』

「え~……」


 慌てて前方に飛び退くと後ろを振り返る。

 バスタオルで豊満な胸元から股下までを覆う姿ですら、身体を沈みこませることに比べれば大分マシのようだ。


(い、意外に大胆なのか……?)


 実際のところその兆候は今までもあったのだが、彼は気付いていない。

 今はどちらかというと、着やせするこころの身体に見とれていて意識が追いやられているだけだが。


「むぅ~。じゃあ、また今度お願いするね」

『お、おう……ん?』


 ある程度まともになった彼女と会話すると、カルマの頭に焔神状態時の注意事項が浮かんだ。


『そういえば、この身体って水が天敵なんだよな』

「スキル説明読んだ限りではそうらしいね。それがどうしたの?」

『水に浸かってた樫咲がこっちに近づいてくる間に乾いたってことは、少々なら大丈夫なのか……』

「多分そうなんじゃない? 水聖魔法の直撃だったり、雨に濡れるとピンチになるのかもね」


 ピンチどころか、体力が強制的に1になっているため即死である。


『あと、この身体になっている時に気をつけることがもう一つあるらしいんだ』


 そう言うと、カルマは焔神状態のままテーブルに近づいて椅子に腰かける。

 彼を覆う炎は見かけだけで、他の物を燃やすことがないと分かったからだろう。


「気をつけることって?」


 彼を追って、バスタオル姿のまま彼女も腰掛ける。

 タオル1枚でも焔神の傍にいればむしろ暖かいらしい。


『俺は焔神状態だと迂闊うかつに話せない言葉が結構ある』

「話せない?」


 カルマは炎を揺らめかせて頷く。

 目も鼻も口も見えず、メラメラと燃える火だけがあったが、こころには何となくわかった。 


 そして、カルマがテーブルにあった羊皮紙を引き寄せる。

 この部屋の主アネモスが書き残していた羊皮紙だ。

 彼は指先にオレンジより濃い赤色の火をともすと、羊皮紙を焦がして新たな文字を書いていく。


================

 大団円

 案山子

 絶縁体

================


「だいだんえん? それと……かかし、ぜつえんたい、だよね。これがどうかしたの?」

『俺はこの単語を喋ることができない』

「な、何で?」


 頭の上にたくさんの疑問符を浮かべるこころ。

 カルマは羊皮紙に追加の文字を書きこんだ。


================

 大団円 → 大断焔

 案山子 → 火華熾

 絶縁体 → 絶炎耐

================


「ん? どういう……あっ!」

『そう。俺にとってこの三つの単語は普通に使う言葉じゃない……技名だ』


 本来なら、魔法は気力を込めなければ例え口に出そうとも発動しない。

 それが魔法や魔術の大原則だ。

 

『でも、この焔神状態だと自動的に言霊を感知して発動してしまうらしい』

「そ、それは注意しないとね……」


 誰かと会話する際にも油断してはならない。

 うっかり口を滑らせると、その瞬間に相手が消し炭になる可能性だってあるのだ。


『かといって、迂闊うかつに解除すると、それはそれで危ないしなぁ』

「体力が1しかないもんね……」


 下手をすれば通り雨で死ぬ。

 何とも脆い神様だった。


『いや、でも……待てよ……』


 何か考えがあったのか、カルマは炎を消す。

 消え行く火の中から出てきた普通の肉体に戻り、数秒間目を瞑った。


「樫咲、今の俺のステータスを見てくれないか?」

「えっ? うん、いいよ。“カルマ・ステート”」

 

 こころが言霊を唱えると、カルマの前に青いウィンドウが立ちあがった。



======================================


近衛駆真 (17歳)

種族:人間

職業:学生

レベル:3

経験値:4/102400

体力:1/180

気力:10/10

腕力:166

脚力:126

知力:92

スキル:【ザ・スキルセレクター】・焔神威・空きスロット・空きスロット


======================================



「お。やった!」

「あれ? 戻ってる?」


 頭上にハテナマークを散らすこころ。

 それを見たカルマが、にやりと笑って続ける。


「俺が最初に持ってたスキルを忘れたか?」

「最初……【ザ・スキルセレクター】?」


 【ザ・スキルセレクター】は、スキルの効果の有効無効を切り替える能力を持つ。

 そして、順番を変えることもできる。


「これを使えばある程度何とかなるな。常用スキル外とみなされるからか、スロットもひとつ分空いたし」

「なるほどねぇ……【ザ・スキルセレクター】はこの為にあったってことなのかなぁ……っくしゅん!」

「まぁ、スキルスロットの実を食べてなきゃできなかったことだけどな。それと1つ頼みがあるんだが……」


 焔神状態が解けてくしゃみをしたこころに、カルマが苦笑いしながら頭を下げた。


「ど、どうしたの?」

「回復魔術掛けてください。このままだと箪笥に小指ぶつけて死にます」





 カルマの新スキルお披露目会は、何とも締まらない形で終わったのだった。





~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


近衛カルマ (17歳)

種族:人間

職業:学生

レベル:3

経験値:4/102400

体力:94/190

気力:10/10

腕力:166

脚力:126

知力:92

スキル:【ザ・スキルセレクター】・焔神威・空きスロット・空きスロット


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樫咲こころ (17歳)

種族:人間

職業:学生

レベル:4

経験値:0/190

体力:165/165

気力:162/395

腕力:69

脚力:79

知力:273

スキル:【初級水聖魔法師】・【初級風緑魔法師】・【初級治癒術師】・【オカン】・【女神の慈愛】・空きスロット・空きスロット・空きスロット

所持金:0ELC


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