10/27:シャムズワークスで
さすがに最後のステータスが行数とるようになってきたので、変更なし項目は省略です。
異世界において、風呂とは贅沢品である。
科学が発達していないのでボイラーや上水道などは当然ないが、その代わり魔法が発達している。
よって、炎熱魔法と水聖魔法を使うことができれば風呂を沸かすのは簡単だ。
ただ、魔法師が重要な職につくなかで特定の二種類を持った魔法師一人か二人を雇うには、それなりの金銭を必要とする。
身体を洗うだけなら水でいいため、高い金を出しても割に合わないのだ。
さらに、この世界ではシャンプーや石鹸といった利器も存在していない。
庶民にとっての贅沢とは、井戸水で洗体する時の小麦粉にハーブを混ぜる程度が関の山だった。
なので、風呂に入ることができるのは城に住む重要人物か屋敷に住む貴族、または高級宿屋に泊まる者だけということになる。
まだ太陽すら出ていない早朝。
「いやぁ。やっぱ日本人は風呂……って、このパターン、前もやったような……」
カルマが宿泊しているルネライトハウスには大浴場があった。
男女共用で、公共良俗を守るために麻でできた透けない湯浴着を着用する必要性はあるが、それ以外は日本の銭湯と変わらない。
地下の浴場は、優に二十人以上は同時に入れるだろう大きさのレンガでできた浴槽が床に埋め込まれていて、壁際にはレバーを引くとお湯が出るホースが数本伸びている。
カルマが異世界に来た直後に見つけた迷宮浴室の数十人バージョンであった。
つまり、
「ふううぅ。いいお湯だねぇ……」
「晴香、風見鶏にいた時はお風呂に入れなかったから久々。すごく気持ちいいよ。オセロさんは、お湯って大丈夫なの? 確か猫って水が嫌いだった様な……」
「あたしは猫人族の中でも特別なの。同族はみんな揃ってカナヅチなんだけど、あたしは昔から水泳が得意で漁もしていたわ」
カルマの傍には三つの花が咲いていた。
花たちは胸元から膝上までをタオルのような湯浴着で覆い、温水にゆったりと身を任せている。
「近衛君はお湯加減どうかな? 熱かったら、わたしの水聖魔法で近衛君の周りだけ薄めるよ?」
「い、いや、いいよ。俺は熱いくらいの方が好きだから」
左側にいるのはこころ。
湯浴着の上からでも分かる豊満な胸にカルマの左腕を挟み込み、抱きつきながらお湯とカルマの身体を堪能している。
頬にぴったりと張り付いた髪と深い谷間が、普段のほわほわした彼女からは想像もできないほどの妖艶な魅力を生み出していた。
「近衛君、ありがとう。このお風呂って、高いんだよね? なのに……」
「気にするなって言ったろ。今はリラックスしとけ」
カルマの膝の上で背を預けているのは晴香。
彼があぐらをかいて湯を堪能していると見るや否や小さな体躯を生かして上に乗り、そのポジションを獲得したのだった。
しかしカルマにとって問題なのはその未成熟な印象を残す身体であり、彼女がクラスメイトであることも相まって背徳的な雰囲気を放っている。
「あたしも最近お風呂入ってなかったけど……今日からは毎日入れるのね」
「いや、それはどうか分からないがな……」
カルマの右にいるのはオセロ。
手足の毛皮も湯浴着で包んでいる彼女は、カルマの肩に頭を乗せてお湯の感触に目を瞑っている。
出るところが出ている肢体もそうだが、特に流麗な脚線美へと目が吸い寄せられない様にするにはかなり強靭な精神力を必要としていた。
(な、なんでコイツら、こんなに俺にくっついて入っているんだ? 湯浴着あるからまだ大丈夫だが……)
鈍感な主人公は気付きません。
ちなみに、当然のように四人の周りには男が数人集まってこようとしていたが、オセロが高く掲げた右手に紫電を纏わせたのを見て隅の方に退避していた。
彼らもお金を払って入浴しているというのに、さすがにこの仕打ちは可哀想だった。
「こんばんは、コノエ様」
男を遠ざけて湯を堪能している所に、一人の女性が近づいてくる。
四人の部屋を担当している赤髪の美人給仕で、股下ギリギリまでの白い湯浴着を着崩し、見る者に扇情的な印象を与えていた。
その仕事は、日本の江戸時代では湯女と呼ばれていた職業のソレであった。
「もしよろしければ、金貨一枚でお背中流しましょうか?」
「「結構です!」」
その誘いは、こころと晴香によって反応する前に蹴散らされた。
このとき、カルマ自身は「背中流す程度にしては高いけど、向こうも仕事なら別にいいじゃないか……」と郷に入りては郷に従えで試しに受けてみようとしていた。
鈍い彼とは逆に、二人は彼女が意図している【仕事】が何か分かったので、威嚇しながら拒否したのだった。
オセロは「青春ね」などと言いながら足をチャプチャプと鳴らしていた。
と、そんなことがあった風呂から帰って来た一行。
さらにグレードアップした(のに相変わらず安くなる宿泊代金だった)四人部屋の中央で、カルマが口を開く。
「今日の行動目的は戦力の増強。そのためには色々と買うものがある」
ほかほかと温水の熱が冷めないまま、真剣な顔で会議する四人。
朝日が出た直後ではあったが、各々が必要なものを揃えるべく知恵を交わし合っていた。
最終的な決定はカルマにかかっているものの、この世界の常識を知っているオセロの方が実質的な影響力は大きい。
「じゃあ、まずはシャムズワークスに行きましょ。あの人なら、それにもきっと伝手があるわ」
「それが確保できたら、次は拠点か」
「そうね。宿屋に置いておくわけにもいかないし、そのアカシって人に会うまで滞在することや防衛の面から見ても借家が妥当でしょうね」
「ごめんなさい。晴香って、お金のかかる女だったんだね……」
「だ、大丈夫だよ、晴香ちゃん。最初にお金が必要ってことは、見返りも大きいってことだよ」
晴香が済まなそうに項垂れる。
だが、彼女のレアスキルは魅力的だ。
晴香以外の三人、特にオセロは、大金を投じるだけの価値はあるだろうと見込んでいた。
「後は生活用品とか、そんなところね」
「そうだな」
「ではでは、行ってみましょうか~」
「うん。晴香も、やっと役に立てる!」
今日行く場所は迷宮ではなく街中だ。
一応最低限の武装だけして、あとは全員が旅行用のフード付きマントを被っている。
マントは、大通りを挟んで宿の反対側にある服屋から適当に見繕ってきたもの。
学生服という共通点がある現代世界組が、クラスメイトから見つからないための服装だ。
この世界の衣服に着替えるという案もあったが、美少女三人は非常に目立つため意味は無いとしてカルマが却下していた。
四人は宿屋のルームサービスで朝食をとってから、朝日が降り注ぐ外に出る。
宿屋の入り口から前を見ると衛兵が道端を掃除していたので朝の挨拶。
裕福層が住む中央区ならではの光景である。
「ん~。朝日がまぶしいねぇ」
「うん。清々しい空気」
こころと晴香にとっては一日ぶりの外なので、二人は嬉しそうだ。
まだ晴香は男性恐怖症が治っていないため、右手はカルマと手を繋いでいる(ちなみに左は当然のようにこころでオセロは先導役)。
このまま観光して寄り道をしたい一行ではあったが、まず目指すべきはギルドだ。
「そういえば、ヤツらの相場はどの辺りを考えていればいいんだ?」
「愛玩用としてなら五万エレク。戦闘用とするなら十万エレク程度を見積もっていれば無難なのが買えるらしいわ」
「オセロちゃんは買ったことあるの?」
「あたしは買ったこと無いわね。必要もないし、使いこなせる気がしないのよ」
そんな会話をしながら冒険者ギルドへ。
マントを被った正体不明の四人が手を繋いで入って来たからか、イチャモンをつけようと荒くれの冒険者たちが近寄ってくる。
その光景を見た晴香が固まった。
が、
ドンッ!
先頭が踏みしめたブーツに紫電が奔った瞬間、冷や汗をかきながら引き下がっていった。
相手が【命知らず】であっても、彼らは命知らずではないのだ。
「おはようございます、コノエさん。両手に花とは羨ましい限りです」
「レベッカさん、よく俺だって分かって……というか、あんたっていつ寝ているんだ?」
「こう見えて眠いので、できれば要件を早く済ませてください」
フランクになってきたからか、それともただ単に朝早くで気が立っているからか。
どちらかといえば少々気が立っていそうな無表情のレベッカに頼み、ギルド銀行から五十万エレクの貯金を引き落とす。
「ずいぶんと要り様で」
「今からでかい買い物をするんでな」
アイテムボックスへ大量の金札を仕舞い込みながら、カルマは苦笑する。
アイテムボックスにはレベル×3種類の品物が無限に入るので、種類でパンパンだった昨日と違って余裕だ。
手数料兼酒代の金貨一枚をレベッカに渡しておくことも忘れない。
「はぁ……私に貢いでも何も出ませんが」
「レベッカさんにはいつも世話になってるからな。その礼だよ」
レベッカは「では、朝食代としていただいておきます」と言って、少しだけメガネの奥の眼光を和らげた。
その光景を能面笑顔と氷結視線の二人が睨んでいたのは想像に難くない。
オセロは終始ニヤニヤしていましたとさ。
さて、次が本命。
シャムズワークスだ。
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西一般区の中央通り。
「すげぇな……」
「シャムちゃん、お金持ちだったんだね……」
周囲の家の二倍はあるだろう巨大な三階建ての商店。
その建物の前で、猫耳小学生商人に会ったことのある二人は感嘆の声をあげていた。
大きな赤い入口の扉から少し目線を上げると、そこには巨大な看板。
シャムズワークスと書かれている木の看板は光煌魔法でも掛かっているのか、真昼でもネオンの如く赤に青に黄色で文字が光り輝いていた。
少し気後れしながら入っても、目の前に見えるは商品の山、山、山。
食料と日用品から武器や防具に至るまでが、数本の細い通路を残して雑貨店の如く棚で山積みにされている。
異世界版ドン○ホーテという表現が一番近いかも知れない。
「なんか、あの洗脳ソングが聞こえてきそうだよね……」
「うん。晴香も、すごくデジャヴ」
これほど大量の物が置いてあると防犯も一苦労だろうが、店内には客が少なく、一人一人に店員が付く徹底っぷりだ。
値段が高いだけでなく、身なりによっては入店を拒否しているのかもしれない。
「いらっしゃいませ~。どのような御用件でしょうか~」
店内に見とれていると、すぐに店員の一人が近寄ってくる。
青い髪に青い猫耳で、少し抜けていそうな可愛らしい従業員だ。
リンゴのように紅いメイド服を着ている。
ギルドの黒いメイド服といいシャムズワークスといい、この世界はメイドに特別な思い入れでもあるのだろうか。
「ここの従業員にシャムってやつはいるか?」
「従業員どころか店長ですけど、どちらさまで~?」
店名から予想はできたが、やはり彼女はお偉い所だったらしい。
さすが悪徳商人。
「カルマが借金返済と買い物に来たって伝えれば分かる」
「カルマ様ですね~。少々お待ちを~」
彼女がシャムを呼びに行ってから十分。
メイド付きで店の中を見て周っていると、奥の従業員用の木製ドアから同じメイド服のシャムが出てきた。
カルマの後ろでは女性陣三人が大量のお菓子を持って来ていたが、それは置いてこさせた。
「よう。三日ぶりだな」
「いらっしゃいませにゃ。ミアちゃんから聞いたけど、今日は借金を返しに来たのかにゃ? 随分と稼ぐのが早いのにゃ」
「まぁ、いろいろと臨時収入があったもんでな」
そんな会話をしながら、従業員用の扉から奥の応接室に通される一行。
暖炉の火がぱちぱちと燃える応接室は商談に使われているためか、かなり内装が豪華だ。
華美な装飾がされた大きなソファーに一行が座って、出された紅茶を飲みながら借金分の十万エレクをシャムに渡すカルマ。
金札を数え終わった瞬間、対面に座ったシャムが「チッ」と舌打ちしたことは聞こえなかったことにする。
「確かに返済されたにゃ。それで、あと必要な品は何なのにゃ?」
借用書を暖炉へと放り込みつつ、シャムが商人の顔で問いかける。
先ほどよりも真面目な顔で、カルマが自身の思惑を話した。
「なめるにゃよ。バンコック商会で扱っていないモノは無いにゃ。ついてくるにゃ」
彼女は対面のソファーから立ち上がって、応接室を出ていこうとする。
慌てて残った紅茶を一気飲みするオセロが「あちゅいっ!」などと可愛らしい悲鳴を上げていた。
シャムは店の裏口を出ると、日差しが差す外に一行を促した。
その場所は四方を家に囲まれ、磯野と野球ができそうな空き地。
芝生の地面には運動会で使うようなバザー用大型テントが設営されていて、隅の方にはシャムの運搬用甲車が置いてある。
「今はここにいる奴の中から選ぶにゃ。別で注文があれば、躾も行うにゃ」
テントの中にあるものは、鈍色に輝く大きな檻の数々。
その中では黒光りする兜が檻を揺らし、鮮やかな色の蝶が退屈そうに羽を休め、大きな蜘蛛が八本の足で胴を掻いている。
そう。
カルマが所望したのは、戦闘に使える益虫だった。
その理由は、晴香が持つレアスキルにある。
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【インセクトテイマー】
RARE:プリンセスレア
BONUS:知力+200
多種多様な生物に慈愛の心を持って接した者へ与えられるスキル。友好関係にあるモンスターを完全に使役することができる。使役したモンスターの基本能力を大幅に向上させる。使役したモンスターが経験値を得た場合はその半分の値を獲得する。
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晴香のスキル【インセクトテイマー】を活用するためには彼らの力が必要だった。
「それで……どいつを選べばいいんだ?」
「さぁ? あたしはペット選んだことなんてないし」
「わ、わたしはお家に犬がいたけど……」
テントに下に入り、ここから出して!とばかりに騒ぐ昆虫達を見るが、どれが強くてどれが愛玩用なのか分からない。
そんな三人をよそに、晴香だけは真剣に選んでいく。
晴香にとっては初めて見る巨大な昆虫だっただろうが、男と違ってその目に恐れの光は無い。
これから命を預ける戦友を買うのだから、彼女に失敗は許されないのだ。
「戦闘用なら、お薦めはビートルかレピドプテラにゃ。ビートル系のオオカブトは攻撃力も防御力も高いものが多いにゃ。短時間にゃら飛行できるし、甲車を引かせて荷物も運搬できるにゃ。クワガタもいいけど、攻撃力がさらに高い代わりで足腰が弱いから、荷物の運搬はできないにゃ」
ビートルはカブト虫やクワガタ虫で、レピドプテラは蝶や蛾を示すらしい。
プゲラではない。
「じゃあ、一つはオオカブトとして……レピドプテラはどんな利点があるんだ?」
「常に飛んで攻撃できるから、敵によっては一方的な展開になり易いにゃ」
「おお。それはいいな! じゃあ、大園はレピドプテラから選んでくれるか? 俺はオオカブトを見てみるから」
「うん、分かった」
晴香はその言葉を聞くと、色鮮やかな蝶の檻が集まっているテントへ率先して足を運んで行く。
同じくして、カルマも甲虫の檻が集まるテントへ向かう。
齢いくつになっても、甲虫は日本男児のロマンであった。
ちなみに、こころとオセロは晴香について行っている。
女性にとっては甲虫よりも蝶々ということだろうか。
「この角やっぱカッコいいなぁ。…………ん?」
と、晴香にも劣らずキラキラしていたカルマの目が一匹の甲虫に留まる。
テントの隙間から差す光で七色に輝く甲冑。
中ほどに十字傷の入った長大な槍。
重厚でどっしりとした体躯。
ヘラクレスオオカブトだ。
(おぉ……コーカサスと並んで有名なだけあるな)
ルビーにもエメラルドにもゴールドにも光る工芸品のような鎧。
シャムが使っていた甲虫に比べるとまだ若いのか小型だが、それでもカルマと同じ背丈ほどある。
その姿を見ていても怖いという感情は不思議となく、ただただ雄大さに感嘆の声を漏らしていた。
「さすがにこの角で刺されたら、普通にお陀仏だろうな」
『だろ? オレっちの角で貫けないもんなんてねぇのさ』
「しかも、この鎧。でかいから迫力満点だ」
『ドリルスズメバチに囲まれた時はやばかったけどな。今はこうしてピンピンしてらぁ』
「そうそう、ドリルスズメ…………え?」
頭の中で響いていた江戸っ子口調に疑問符を浮かべると、真顔のカルマはスタスタと戻る。
目標は、選定待ちで裏口前にいたシャムだ。
「なぁ、シャム。オオカブトって喋れるのか?」
「そんなバカなことあるわけないにゃ。日射病にでもなったのかにゃ?」
シャムに憐れみの目を向けられたカルマ。
そりゃそうだよな!と納得して頷きながら、カルマが再度檻の前まで歩いて行く。
『旦那、どうしたんでぃ?』
その様子を、ヘラクレスオオカブトがつぶらな(?)瞳で見ていた。
「シャムー! ここにオオカブトの振りした人間がいるぞー!!」
「い、いきなりどうしたにゃ!? ……ああ、そいつかにゃ」
慌ててカルマの傍へとやって来た猫耳小学生が、ヘラクレスオオカブトを見て顔をしかめた。
彼女の表情は、まるで在庫品の処分に困っている店長のようだった。
あ、店長か。
「商人が言うのもなんにゃけど、そいつはやめたほうがいいにゃ」
「……原因に心当たりはあるが、一応聞く。何故?」
「戦闘用ってことは、頭の上に騎乗して戦うのが基本にゃ。そいつは二歳と若いわりに、この商店でも最高クラスの単体戦闘能力にゃ。だけど、上に乗ったやつを全員振り落としてしまっているのにゃ。男の騎士が耐えられないほど気性が荒いジャジャ虫らしいにゃ」
その言葉を聞いて、カルマが無言でヘラクレスオオカブトを見やる。
『オレっちが尻に敷かれるのはメスだけでぃ』
「お前、捕らわれの身でいい度胸してんな」
要するに、今まで乗ったのが全員男だったから拒否したという話だった。
どうみても人間の男の所業だが、シャムが言うからには甲虫なのだろう。
「カルマ、誰に向かって話しているのにゃ?」
「え。いや、普通にオオカブトと……」
ヘラクレスオオカブトを指さすカルマ。
それを見たシャムの顔には「こいつ何言ってるんだにゃ? 治癒術師が必要かにゃ?」がありありと書かれていた。
「……この会話って、もしかしてシャムには聞こえてない?」
『何言ってんだ。当たり前に決まってんだろ、旦那。太陽の熱にでもやられたかい?』
ヘラクレスオオカブトの声は先ほどと変わらず、頭の中に響くようにして聞こえている。
甲虫にまで心配されるカルマは口をへの字に曲げていたが、ヘラクレスオオカブトの方は気にせず続ける。
『旦那、あんた【ザ・オリジナル】だろ?』
「オリジナル?」
『ああ。旦那が持ってるスキルの中に、頭に【ザ】がつくもんがあるはずだ。その能力を持つヤツは0を1に変える者、いわば現象の創造主。だから、オレっちの言葉を感覚的に感じ取ることができるのさ』
「……よく分からんが、俺は他の昆虫の言葉なんて今まで聞いたこと無いぞ」
『オレっちが話せるのは英雄の名を冠する虫だからでぃ。他のヤツらは食う寝る交尾するくらいの行動原理しかねぇからな』
いつの間にか木の枝を口(のような部分にあたるブラシ)で器用に咥える江戸っ子なヘラクレスオオカブト。
ちなみに、カルマがオオカブトに話しかけている様子を傍で見ていたシャムは、上級治癒術師を呼んで来るべきかどうかを本気で考えていた。
「近衛君、晴香は見繕ったけど……どうしたの?」
「なんていうんだっけこのポーズ。orzだっけ?」
「シャム、あんた何したのよ?」
「知らないにゃ! カルマがいきなり昆虫に独り言を喋り出して、むしろこっちが聞きたいにゃ!」
数分後、女性陣が選定を終えてカルマの近くにまで戻ってきた。
その直前、自分が傍から見てどういう行動をとっていたかに気付いた彼は、少し落ち込んでいた。
「気にするな……で、決まったか?」
「うん。あの子を買ってもらってもいいかな?」
晴香が指さした檻には、彼女どころかカルマの身長をも超える巨大な蝶。
宝石のような金属光沢に輝く美麗な青い翅と、その中にある文様が太陽光を透いて輝いている。
甲虫がどうのこうの言っていたカルマが見惚れるほどの綺麗さで、その蝶は檻の止まり木に悠々と佇んでいた。
『やるじゃねぇか、あのお嬢ちゃん。あいつぁ【ヘレナモルフォ】だ。美しさで右に出る蝶はいねぇが、ヤワな箱入りじゃねぇ。風緑魔法が使えるし、お嬢ちゃんを乗っけて戦闘することもできる逞しい女だぜぃ。人間風に表現するなら、女騎士ってやつよ』
「……オーク相手に戦えるのか不安だな、それ」
ヘラクレスオオカブトが、あごのブラシを足で撫でながら高評価を出していた。
彼の御眼鏡にもかなっているらしい。
特に問題は無いだろう。
「ん。じゃあそいつと……こいつをもらう」
『旦那……!』
晴香が決めたのなら文句もない。
カルマはヘラクレスオオカブトの方に視線を向けて、
隣のコーカサスを指さした。
『ちょっ!? 旦那! ここまで引っ張っておいてオレっちじゃねぇのかよ!?』
「いや、強いのはいいけど、お前の発言さっきから唯のスケベ野郎だし……」
『女三人侍らせてる旦那にだけは言われたくねぇな』
「人聞きの悪いこと言うな!」
ガッシャンガッシャンと檻を掴みながらヘラクレスオオカブト(ただし周囲には聞こえていない声)と口論を交わすカルマ。
当然、それを見ていた女性陣はドン引きである。
「誰か早く上級治癒術師呼びなさいよ。王級でもいいわ」
「嫌にゃ。シャムは何も見てないにゃ」
「ど、どうしちゃったんだろ、近衛君……」
「さすがに晴香もこれは……」
日射病どころか狂人と心配されるような所業であるのは言うまでもない。
ちなみに、最終的にはヘラクレスオオカブトを選んだカルマであった。
ブラシと翅を震わせて『旦那はメスをとっかえひっかえ侍らす最低のオスだって昆虫界に広めてやらぁ!』などと言われては立つ瀬もない。
昆虫達には当然感情など無いが、これからモンスターと対峙するたびに「もしかしてコイツ俺の事避けてない?」と杞憂するのは御免らしい。
「ありがとう、近衛君。これで、晴香もお金稼ぎができる」
「いいって。自衛のためには何か必要だっただろ。これくらい安いもんだ」
「うん……これからも、一生……付いて行くから……」
『へぇ。お嬢ちゃんってそういう……へええぇぇ、ほおぉぉぉ』
「やめろその目を俺に向けんな気持ち悪い」
『ネクラの旦那に言われたかないねぇ』
「んだとコラ!」
((((またモンスター相手に独り言喋ってる……))))
何はともあれ第一目標達成であった。
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近衛カルマ (17歳)
所持金:430000ELC[+260000ELC]
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樫咲こころ (17歳)
変更点なし
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大園晴香 (17歳)
スキル:【インセクトテイマー】・【初級召喚師】・【戦力眼】・【脆弱の枷】・空きスロット・空きスロット・空きスロット
使役虫:ヘラクレスオオカブト・ヘレナモルフォ
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オセロット・キャットボルト (16歳)
変更点なし
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