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13/20

10/25:宿屋とギルドで

 

 夕刻の暖かな光が満ちる室内。


 

 

 大園晴香おおぞのはるかを連れて帰ったカルマは、宿屋の主人に頼んで、二人部屋から三人部屋に変えてもらっていた。

 相変わらず可愛いは正義だったため、一泊七千五百エレクから六千エレクに安くなるのも御愛嬌。


 新たに移された二階の一室は十二畳ほどの広さのもの。

 白い花模様の壁紙と真っ赤な絨毯、大通りに面した壁にはモダンな雰囲気の窓が設置されている。

 さらには大きな暖炉と絵画、丸テーブルと椅子にベッドが三つと、まさに至れり尽くせりな部屋になった。

 ちなみにトイレは男女別のものが二階の廊下に一つずつあり、この世界で裕福層に好まれる嗜好品の風呂は大浴場に行って入る形式になっている。




「そうか。つらかったな……」

「ごめんね、晴香ちゃん。わたし達がもう少し早く来てれば……」


 大きくてふかふかなベッドの一つへ横たえられた晴香は、カルマとこころにクラスメイト達の現状を話していた。

 

 ベッドの近くでこころが椅子に座って治癒魔術を施し、少し離れたところでカルマは壁に背を預けて立ったまま腕を組んでいる。

 カルマも瀕死状態だったので、こころのスキル【女神の慈愛】を使って一緒に回復中なのだ。


「ううん。助けてくれて、本当にありがとう……かなり休ませてもらったし大丈夫だよ」


 この中央区高級宿屋に寝かされた晴香は、夕方まで泥のように眠っていた。

 その後、目を覚ました当初は混乱して泣き喚いてた彼女だったが、「もう何も心配することはない」とカルマに言われ、こころに抱きしめられてやっと正気を取り戻していた。

 今は落ち着いて食事をとり、ベッドから上体を起こして話ができる程度には回復している。

 

 ルームサービスで運ばれて来た軽食のサンドイッチを「おいしいおいしい」と泣きながら食べる彼女を見ていると、カルマはクラスメイト達にやりきれない怒りを覚えていた。

 

「ったく、あいつら。俺達が何のためにここまで急いで来たと思って……」

「ね、ねぇ……本当に誰もまともな人は残って無いの?」


 彼女の話を聞いたカルマは頭を抱え、手から治癒の光を出しているこころは悲しそうな目で晴香へ確認する。

 しかし、その望みを晴香は首を振って容易く蹴散らした。


「ううん。もう誰も正気じゃない。晴香も、あともう少し近衛君が来てくれるのが遅かったら、あいつらに……あいつらに……あ、ああぁっ、ぅあああぁぁ……」


 何かを思い出してしまったのか、彼女の顔が再びこわばる。

 その表情に気付いたこころが晴香をそっと包み込み、カルマは痛々しい白髪を撫でた。

 きっと、自分達には想像もできないほどの恐怖を味わったのだろう。


「さっきも言っただろ、もう何も心配することはないって。俺達二人は大園を傷つけたりしない。安心してここにいろ」

「大丈夫。大丈夫だから、晴香ちゃん。怖かったね……もう怖いことなんてないから。安心して」

「あ、ぅ、ぁ……」


 二人が言葉を掛けてやると、徐々に震えが治まってくる晴香。

 彼女の傷を癒すには、まだまだ時間が必要そうだ。

 カルマは彼女を安心させる為、少しだけ補足をしてやる。


「今まで住んでいた貧困区にある【風見鶏】と違って、このルネライトハウスは中央区だ。外を歩いても滅多なことじゃあいつらには会わないだろうし、裕福層が住む場所だけあって治安もいい。何かあれば警備隊だっているから問題ないぞ」


 この街は中心から遠ざかるにつれ、中央区、一般区、貧困区に分けられている。

 冒険者ギルドは一般区と貧困区の間にあるので、ギルドに登録しているクラスメイトがいても会うことはほぼ無いだろう。


 そこまで言われると安心したのか、晴香の顔がゆるむ。


「じゃあ、晴香は助かったんだよね……もう、大丈夫なんだよね」

「ああ。ただ、身体を治すには少し時間がかかるらしいから、それまで観光はお預けだけどな」


 目を瞑って苦笑いするカルマに、晴香が自分の足を見つめる。

 

 彼女の怪我は、全身の打撲に左足と肋骨の骨折。

 こころによると、打撲程度の軽症なら初級治癒魔術で瞬時に回復するが、骨折となると中級以上が必要になってくるらしい。

 さらに、骨折などの重傷を負うと動きが鈍るだけでなく、完治するまで体力と気力の最大値が減るというハンデを負ってしまう。

 彼女の為にも、今は休養に徹させるのが一番だろう。


「ごめんなさい……近衛君、こころちゃん。こんな高級宿に泊まらせてもらって、歩くこともできないなんて……」

「今は金のことなんて気にするな。俺達ならこの程度は屁でもないさ」

「そうそう。それに晴香ちゃんだってレアスキル持ちなんだから、稼ごうと思ったら何とかなるよ。いや~、優姫ちゃん達もオ馬鹿チャンだよねぇ。こんなちっこっくてかわゆい晴香ちゃんを雑用係とか、ダイヤの原石って知ってて磨かないようなものだよ。ん~、もふもふ~」

「や、やめて、こころちゃん。くすぐったいよ」


(そういえば、樫咲は幻台高校でも大園によく絡んでたな。小動物を愛でる感覚だったが……)


 女同士の友情にもいろいろあるのだろう。

 カルマは頭を振ると、本題に戻る。




「それで、明石がステルゲンブルグの守護隊に入ったってのは本当なのか?」

 



 晴香から聞いた真実。

 こころの親友である明石雫は、警備門の前で侵入者の賊を倒した腕を買われ、ステルゲンブルグの守護隊に入隊したというのだ。

 彼女は賊を倒した際に通行証を買う金が足りないと気付くと、剣術の強さを売り込んで何十万エレクという金をクラスメイトに与え、自身は現在中央の城で訓練を受けているらしい。


「うん、それは本当。示現じげん君達は確かにギルドに行って稼いできてるけど、それだけじゃ全然足りない。豪遊に使ってるのは、ほとんど雫ちゃんのお金だよ」


 親友が身を売ってまで得た金が、男の快楽の為に使われる。

 傍で聞いていたこころは当然いい顔をしていない。

 が、何となくカルマには確信があった。


「……おそらく、明石はそこまで読んだ上で入隊したんだと思う。得る金は度外視してな」

「どういうこと?」

「晴香も、よく分からない」


 疑問符を浮かべる二人に、カルマは予想を述べる。


「もし幻台高校に帰還するすべがあるなら、それは異世界から異世界へ渡る術と同じ。ステルゲンブルグまで来た明石は道中の魔法のレベルを見て簡単にそれが手に入るわけがないと考えたんだ」

「……つまり、軍に入って、もっと偉いの人とコンタクトをとれば、帰る方法が見つかるかもしれないってこと?」


 カルマの言葉に、二人ともなるほどと頷いている。


「そういうことだ。ともかく、これでクラスメイト全員の所在が明らかになったな」


 先日カルマが尋ねた衛兵の「あの時入った制服の男女は二十九人」という発言は正しい。

 明石雫はクラスメイトとは別で、守護隊と一緒にステルゲンブルグへ入ったから衛兵に見つからなかっただけなのだ。


「街中を見たが、ステルゲンブルグの警備隊や守護隊には女性兵士もいる。明石の腕なら特にひどい扱いはされんだろうさ」

「……そうだね。雫ちゃん強いもんねぇ」


 クラスメイト達は男が明石雫の金を管理しているから女が従うという形だったが、魔法が使えるこの世界でそれはすべてに当てはまるものではない。

 男に有利な腕力や脚力だけでは決まらず、魔法を含む戦闘能力で決まる世界なのだ。


 ひとまずは安否が分かったので、一息入れるためにカルマが紅茶のルームサービスをとった。

 ほどなくしてルネライトハウスに従事する(ギルドの無表情メイドではない)メイドさんがカートを引いて現れる。

 彼女は慣れた手つきでダージリンティーを注ぎ、香り付けに薔薇の花弁を一つ浮かべてから退出した。


(いい匂い……)


 そのうちの一つをカルマが取って晴香の手の中に置いてやると、手の中の暖かさを感じながら彼女はぽつりと呟いた。


「近衛君は……これからどうするの? 二年三組のみんなと合流するの?」


 彼女の声は静かな室内に不思議なほど大きく響いた。

 カルマは紅茶に口をつけながら一瞬固まったが、スッと視線をずらしてこころの顔を見る。

 湯気で揺れたこころの瞳は「わたしは近衛君について行くよ」と語っていた。


「俺は……俺のやり方で何とかする」

「みんなとは一緒に行かないの?」


 晴香が放ったその言葉に、カルマとこころは苦々しげな表情を作った。


「正直な話、俺は大園を傷つけたあいつらに良い感情を抱いてない。おそらく、俺は向こうから同行してくれと頼まれても拒否するだろうな。あいつらはあいつらで勝手にやっているんだから、他人のこと言えないだろ」

「うん。わたしも同じ気持ちだよ。仲のいい友達は『いた』けど、晴香ちゃんがそんなになるまで放っておくくらいなら、わたしは縁を切るよ。そんな人を友達とは認めない……ううん違う、許せないの」

「で、でも、それじゃお金が……たった二人で……」


 晴香が金銭面を心配すると、二人は涼しげな顔で流す。


「大丈夫だよ、晴香ちゃん。わたし達には最弱で最強の王子様が付いていてくれるんだから!」

「ぐっ……言い返せない」

「えっ、えっ? どういうこと?」


 カルマが無言で晴香の近くに行くと、こころがステータス画面を呼び出した。


「晴香ちゃん、このスキルを読んでみて」

「あれ? 近衛君って、確かスキル一個しかなかったんじゃ……【焔神威ザ・ピュール】?」


 こころに促されて晴香が説明文を読み、そしてたっぷり一分は唖然とした。


「……ありなの?」

「知らん。習得できたんだから有効活用させてもらわないと損だろ」


 先ほどとは違って、唖然と言うよりはジト目で睨んでくる晴香。

 その視線をニヤリと笑ってからカルマがわす。


「近衛君、晴香ちゃんに変身見せてあげようよ!」

「そうだな。期待にこたえられるかは分からないが」


 そう言って、カルマがベッドに、晴香のすぐ横に肩を並べて腰掛ける。


「?」


 晴香が疑問符を浮かべていると、まるで催眠術をするかのように彼女の目の前で指を鳴らした。


 途端、目の前から紅茶と同じ暖かい空気が広がり、晴香の前髪をふわりと浮かせた。

 室内の明かりが幾分か増し、紅茶に浮かべた薔薇の花びらが赤から真紅に変わる。


『さて、お姫様方。ご期待に添えられておりますでしょうか』


 晴香の目の前から指を下げると、ベッド脇に立った人型の炎が慇懃に礼をした。


「う~ん。やっぱりいつ見ても安心するよねぇ、この空気。どう? 晴香ちゃん」

「……すごい、あったかい。やさしい感じ」

「でしょでしょ? ちなみに、焔神えんしん状態の近衛君には触らない方がいいよ。死ぬほどくすぐったいから」


 こころが恋人の自慢をするかのように見せつけている気もしたが、晴香にそれは聞こえていない。

 朱が差した頬は茫然と、揺れる炎を見つめている。

 一方、鼻高々になっていたカルマは、焔神化ついでにある魔法を二人に付けておくことにした。


『樫咲には今までに何度か掛けていたけど、今からは大園にも掛けといた方がいいだろ。行くあてもないし、俺達と一緒に行動するんだろ?』

「う、うん。晴香も近衛君と一緒にいるつもり。足手まといにならないように頑張るから……それで、何を掛けるの?」

「とりあえず、まずは“火華熾かかし”。怖いかもしれないけど、避けないでくれよ」


 言霊と共に、カルマの手に青白い炎が生まれる。

 それをピンッと指ではじき飛ばすと、揺れる火の玉は豊満な胸と少しだけ起伏のある胸、対照的な二つの膨らみへと吸い込まれていった。

 こころの柔肉を晴香がジトッとした目で見ているのは気のせいだと思いたい。


『今のは火華熾っていう固有魔法の一つでな。重症以上の傷を炎が一度だけ自動で防いでくれるんだよ』

「……もう何でもありだね」

『これが有ると無いとじゃ危険度が断然に違うからな。もう必需品だよ』


 炎の塊に表情など無いが、もしあったのなら確実に苦笑していただろう。


『それともう一つ。“狐火きつねび”』


 今度はカルマの手に黄色の炎が生まれ、同じようにして二人の胸の中へと消えた。


「これはどういう効果があるの?」

「一言で言えばマーキングだな。数十時間で効果が切れるけど、それまでは二人の位置と状況が俺には手に取るように分かる。周辺の可燃物を自動検知してワープもできるから、何かあった時にはすぐに駆け付けるよ」


 さすが、水濡れ即死なだけあって使い勝手のいい魔法が揃うようだ。

 その言葉を聞いて、こころがふと疑問を口にする。


「そういえば今まで特に気にしてなかったけど、狐火ってわたし達のことが何でも、どこにいても分かる固有魔法なんだよね?」

『ああ、そうだ。だから、モンスターに襲われた時とかに俺がすぐに撃退することができるってわけだ』




「それって、トイレとお風呂も?」




『…………』


「ねぇ、近衛君。何で黙るの?」

「答えて。晴香に何しようとしてたの?」

『い、いや、だってさ、必要だから仕方ないし……』


 こころが能面笑顔で、晴香が絶対零度の目で紅茶のティーカップを手に持つ。

 その中でちゃぷちゃぷと揺れている物質は彼にとって致死の猛毒、水分である。

 

『べ、別に他意は無かったんだって! それに、下着も俺が洗っているんだし、今さらじゃないか!』


 炎の塊が言い訳をしている。


 カルマの【焔神威】には、晴香を保護した時にも使った“火熨斗ひのし”という固有魔法があった。

 これは服に触れて使用すると汚れを取り除くだけでなく、まるで火熨斗アイロンを掛けたかのようにピカピカになる優れ物だ。

 なので、宿屋に備え付けられた寝巻とバスローブを除くと、二人は衣服を一切調達せずに今まで過ごすことができている。


 だが、その発言は非常に不味かったらしい。

 晴香の目が、これ以下にはならないはずの温度を軽々と限界突破した。


「変態」

『…………』

「それでも見たんだよね? わたしのお風呂シーンとか、おトイレシーンとか」

『…………』


 ちゃぷ


『……す、すみませんでしたあああああぁぁ!!』


 

 結局、別に他意はなかったということが認められ、狐火を掛けることを許してもらえたカルマだった。




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 その日の夜。



 プライバシーや乙女心について三時間もの説教をされたカルマは、二人の冷めた視線を尻目に宿屋を出ると、冒険者ギルドへとやってきた。

 固有覗き魔法……ではなく危険感知魔法の“狐火きつねび”があったが、今の状況で晴香を一人にするとまた恐慌状態に戻りかねない。

 こころは留守番だ。


(示現達に会う可能性もあるし、レインコートのフード被っとくか)


 雨でもないのにコートをかぶり、フードで顔を隠してからギルドに入る。

 昨日ほど時間が遅くないからか、冒険者ギルドは多くの人で賑わっていた。

 雑多な人ごみを掻い潜り、彼はギルド内の一角に顔を向ける。


(えーっと、依頼は依頼はっと……)


 彼の目の前にあるのは、壁に掛けられた横に長い木の板。

 そこには色とりどりの羊皮紙がピンで留められていた。


 それは依頼掲示板。

 ギルドクエストの協力者を募る為のものだ。

 冒険者は職業柄から気ままで粗暴な性格が多いので、彼らが常に同じ大人数のパーティーで行動するということは少ない。

 そのため、普段はソロやコンビで活動し、大討伐などの大型ギルドクエストを受注する時だけ掲示板を使って仲間を募集するという形が大半だ。

 要はモンスター○ンターのそれである。

 

(そこそこ金が稼げて、かつ少人数限定……そんな都合のいい募集あるのかなぁ)


 カルマの目が掲示板の羊皮紙を読んでいく。

 まるで、バイトのフリーペーパーを読み漁る大学生のようだ。


 実際、シャムからの借金も返さないといけないし、高めの宿屋と食事で贅沢をしているため、ともかく金が必要なのだ。

 明石雫あかししずくと再会するために大金を積む必要もあるかもしれない。

 安易にクエストを選んで多人数で行けば分け前が減るし、【焔神威】を目撃されれば間違いなく何か言われる。

 受ける依頼は厳密に選定しなければならないだろう。


「お?」


 彼の目が、隅の方にポツンと貼られた一枚の羊皮紙に留まる。



============================================

依頼番号00112

迷宮攻略のパートナー求む。

依頼主:オセロット・キャットボルト(ランクB)

内容:迷宮区における共闘とボス討伐補助

場所:アルス迷宮第五階層

人数制限:一人のみ

ランク制限:なし

報酬金:ボス討伐1回につき三万エレク。その他応相談。

期限:霜ノ月初メ

============================================



「……超良いじゃん」


 常識で考えてボス攻略を二人で行うなどと血迷った真似はしないからか、その依頼は誰からも見向きもされていないらしい。

 その代わり、報酬額がかなり高い。

 三回ボスを倒せば、それだけでシャムの借金にリーチが掛かるほどだ。

 しかもランク不問。

 今の彼にとって、まさに願っても無い条件だった。


 カルマはピッと羊皮紙をとると、ギルドカウンターへと走る。


「こんにちは。昨日と同じで忙しい方ですね、コノエさん」

「ん? ……あんたか」


 受付にいたのは、昨日と同じでメイド服を着た黒髪メガネの女性だった。

 冷静で表情が見えないのに眼光だけは相変わらず鋭く、カルマはなぜか怒られている気になって尻ごみをした。


「この依頼を頼む……あー」

「レベッカと言います。以後お見知りおきを」

「あ、ああ。しかし、よく俺の名前なんて覚えてたな。レベッカさんは、まさかギルドに登録している人全員を?」

「そんなわけないでしょう。井戸端会議で手に入るような情報をわざわざお金を払ってまで手に入れる馬鹿は他にいません。ある意味要注意人物ですし、昨日の今日だから覚えているだけです」

「ぐっ……」


 レベッカは依頼書を受け取ると、カウンターの下から台帳を取り出してめくる。

 左右に動く鋭い目の下で、ほんの少しだけ口角を上げて笑っていた。


「キャットボルト氏はこちらの宿に滞在しております。また、仲介手数料は二百エレクとなります。依頼主からのクエスト開始受付後に経過報告がギルドへ届かない場合、コノエさんのギルドカードが一定期間使用できなくなるので注意してください」

「……何故だ?」

「依頼主に恨みを持った者が、掲示板を利用して危害を加えることを防止するための措置です」


 彼女の言に納得して銀貨を二枚置き、小さな羊皮紙を受け取る。


【滞在場所:東C区十八番地 風見鶏204号室】


(また厄介なところに泊まってんなぁ……)


 嘆いていてもはじまらない。

 いざとなったら焔神化して“影炎かげろう”で無理矢理突破すればいいだけだ。


「……ありがとう。依頼が終わったらまた来るよ、レベッカさん」

「はい、お待ちしております。次はもう少しマシな、自殺行為ではない依頼を持って来てください。いえ、もう棺桶行き決定ですから次はありませんでしたか。失礼いたしました」

「あんた本当は受付嬢の皮をかぶった悪魔だろ」



 相変わらず無表情で毒を吐くレベッカに手を振って、カルマはギルドの外へ出る。

 そのまま近くの路地裏に飛び込み、キョロキョロと前後を振り返って誰もいない事を確認。


「今なら大丈夫……かな」


 夜の帳が下りた通路でしゃがみこんで小さく口笛を拭いた。

 念の為、路地裏に転がっていた木製ゴミ箱の後ろに隠れていると、灰色の火に燃える鳥が空から現れ、カルマの前で止まる。

 彼は、自身の三分の一ほどにもなる大きめの鳥を象った炎に話しかけた。

 

「樫咲、大園。聞こえているか?」

『……ぁ……はーい……もしも~し。大丈夫だよ』

『うん。晴香も聞こえるよ』


 【焔神威】の固有魔法“大灼鷸だいしゃくしぎ”。

 雌雄一対になった火のしぎを召喚し、この鳥の口と耳を通じて会話できる魔法である。

 要するに、鳥の形をした電話だ。

 ただ、電話に無い機能として、ひとたび戦闘になれば大灼鷸も加勢するため戦力としても数えることができる。


 ギルドに来る前、カルマが“狐火きつねび”では会話ができない事に気付き、急遽この鳥の片割れを置いてきたのだった。

 宿屋に残っていた彼女達は現在、部屋の隅でスヤスヤと寝ているのに口だけが動く火の鳥に話しかけているという状態だ。

 それだけを見れば何とも奇妙な光景である。


 地面に座ってポリポリと腹を掻いている鳥へ、依頼を受けて明日行く場所のことを伝える。

 クラスメイト達も泊まっている宿だ。


『……近衛君、一人で大丈夫?』

「依頼の打ち合わせをするだけだし、クラスメイトに会いそうになったらやり過ごすから心配するな。……念の為、二人は宿屋から出るなよ? あいつらが俺に気付いたら、後を追ってくるかもしれないからな」

『分かった。じゃあ、また後でね』


 しぎが二人の口調で話し終わると、再び闇夜へと飛び立って行った。

 

「さてと……帰るか」


 カルマも続いて路地裏から街の中央道へ戻る。

 何か面倒な業務を言い渡されたサラリーマンのような足取りで、彼は宿屋へと帰って行った。




-------------------------------------------------------------



???


「ふ~ん……面白い魔法を使うのね。複合魔法かしら? 何にしても、実力は充分そうで安心したわ」




~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


近衛カルマ (17歳)

種族:人間

職業:冒険者

レベル:3

経験値:648/102400

体力:44/180

気力:10/10

腕力:170

脚力:130

知力:92

スキル:【ザ・スキルセレクター】・焔神威・空きスロット・空きスロット

装備品:学生服・ブラックレインコート・アテムの指輪・サバイバルナイフ・リュックサック

所持金:33100ELC


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


「現代組は親のことはまったく考えてないの?」という友人からの質問があって、その心理描写を全然していないことに気づきました。さて、どうしようか……。


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