10/25:風見鶏亭で
ヒロイン格の処女は主人公のものです(決定)。
ビッチ系ヒロインを出す気になったらその時に考えます。
窓から朝日が降り注ぐ宿屋の一室。
大園晴香は毛布にくるまって震えていた。
「ぅううぅぅ……やだ、やだぁぁ……」
彼女の外見は、黒髪のショートボブで目尻が優しげな気の弱い女の子。
背丈は百五十ほどで起伏もあまりなく、幻台高校二年三組の中では一番小さい。
それゆえにクラスではマスコットとして可愛がられており、高校内でも護ってあげたい癒し系少女として根強い人気を誇っていた。
だが、今の晴香からは、その面影は微塵も見られない。
黒く鮮やかだった髪は恐怖で真っ白に染まっていて、一見しただけでは彼女だと分かりそうもない。
目の下にはどす黒い隈ができており、痩せこけた頬や身体には青い痣が無数に刻まれ、左足に至っては折れているのか添え木とテーピングがされている。
彼女が着ていた学生服は汚れがこびりついて何とも見すぼらしい様相を呈していた。
異世界に連れてこられてから早五日目。
あの大迷宮から脱出し、元の世界に帰る情報を得る為にクラスメイト達三十人はこの街へとやってきていた。
そして、通行料が必要だと言われて『身を売った』友人が去ってから、彼らの大半はおかしくなってしまった。
特異な場所に放りこまれ、大迷宮で二人を失い、さらにもう一人が自由を投げ出したのを見て、精神の均衡が崩れたのだ。
全員が泊っている貧困街の宿屋【風見鶏】の一室。
高校の教室と同じくらいの広さの大部屋には家具も何も無く、雑魚寝で夜を明かすその場所では怒声が絶えることが無かった。
金を稼げる男子が横暴を振りかざし、保身で必死になっている女子は彼らに媚を売る。
夜になれば、大部屋の一角で我が身可愛さに女子が男にまたがり、嬌声を上げる宴が繰り広げられていた。
金がなくてギルドへ登録をしておらず稼ぐことすらできない一部の女子にとって、食事と寝床を確保するために身体を切り捨てるのは仕方のないことだったのかもしれない。
あのクラス委員長だった山田敦志も、既にその誠実さは見る影もない。
もはや、クラス内でまともな男子は誰一人として残っていなかった。
「……朝か。ったく汚ねぇなぁ、オイ。シーツ変えねぇとなぁ」
「んっ……おはよう、大祐。そんなの大園にやらせて、もう一回しましょ?」
隅で毛布にくるまって震えていた晴香は、宴の跡地から自分の名前が飛び出したことにビクリと身体を震わせる。
「オウ、そうだな。おい、大園! シーツ変えろ! でなけりゃ、てめぇも犯すぞ!」
続いて飛び出した怒声に、晴香は被っていた毛布をかなぐり捨てる。
そのまま視線を声の方に向けると、裸の男女が一組。
示現大祐が下卑た目で、神楽坂優姫が敵を見るかのような目で晴香を見ていた。
「ひっ!」
幸いにも、晴香はまだ手をつけられていない。
恐怖で固まっていたのを反抗的と見て殴る蹴るや衣服を剥ぎ取られる暴行は幾度も加えられたが、身体を許すこと以外の雑事では素直に従っていたのだ。
示現と神楽坂が叫ぶと、周りにいた男子と女子も目を覚まして身体を起こしてくる。
当然ながら彼らは一糸まとわぬ姿。
そのうち何人かの男子は現状を察したらしく、晴香の小さい体躯に情欲を向けている。
その目は「やっと大園とヤれる」と語っていた。
「ごっ、ごめんなさいごめんなさいごめんなさいっ!!」
彼らの視線に身の危険を感じる晴香。
慌てて近づくと、彼らが剥ぎ取った、体液に塗れたシーツを手繰り寄せ始めた。
彼女の頬には涙が流れ、動悸が激しく乱れている。
そして、心中では「どうか殴らないでくださいどうか蹴らないでくださいどうか犯さないでください」と懇願しながら、必死になって手を動かしていた。
そのまま彼らが使っていたシーツ十五枚を全て引っ掴むと、振動で痛む左足に鞭打って、部屋の扉まで走ってから廊下へと飛び出す。
「っくぅ……はぁ、はぁ……ふぅぅ」
大部屋の扉を背中で閉め、そのままずりずりと崩れ落ちる晴香。
後ろからは再度始まった宴の嬌声と、晴香を嘲るような声が聞こえてくる。
「ったく。あいつぁいつになったら堕ちるんだか……」
「時間の問題でしょ。どうせお金が稼げないんだから、いつかは身体を売ることになるわよ」
「いやそれじゃ俺らがあのロリボディを楽しめないんだから意味ないっしょ」
「じゃあさ、アレ使ったらどう? ほら、リリス梨ってやつ」
「梶君、アレの強力さ知ってるの? 間宮ちゃんが面白そうとか言って試しに使ってみたら、一晩中腰振ってたのよ?」
「いいじゃねぇか。小さい女の子に搾り取られるとかそのまま死んでもいいくらいだぜ」
「面白そうじゃんねー。アタシが大園の食事に混ぜといてあげる。あいつ、前から気に入らなかったのよ。あんな小動物キャラ作りやがって」
「そうよそうよ! 癒し系オーラとか言われてるけど、絶対晴香って裏で陰口叩くタイプよ!」
「いつの間にか髪白く染めてるけどさ、アレ男に媚売ってるだけだよね~。マジムカつくわ」
クラスの中に彼女へ味方する者はいない。
元々幻台高校で人気だったこともあり、女子生徒からは妬みの視線を浴び、男子生徒からは欲望の目で見られている。
それらの醜悪な感情が、一層歪んだ陰湿ないじめへと彼女を追い込んでいた。
金を稼ぐ手段がない現状、晴香はここから逃げるという選択肢をとることもできない。
このままだと自分は近いうちに彼らの好き勝手にされ、人としての尊厳を失うことになるだろう。
「うっ、ぐすっ、うううぅぅぅ……」
絶望に涙を流すも、このまま止まっているわけにはいかない。
帰りが遅ければまた殴られるかもしれない。
晴香はシーツを抱えたまま、足を引きずりながら歩きだした。
そのまま廊下を抜け、宿屋のロビーに出ると、青い髪と犬耳が特徴的な犬人族の女将に洗濯物を渡す。
女将は男女の体液に濡れたシーツを怪訝な目で見た後、溜息をついて大きな腕で受け取っていた。
「アンタ、本当にこのままでいいのかい?」
「……え?」
ここに泊まり始めてから四泊五日目で、女将も大部屋の惨状は知っている。
だが、既に料金を一週間分先払いしているため、何も言うことができない。
この程度の暴力沙汰は貧困街では日常茶飯事だからだ。
その中でも唯一正気を保っていて献身的に家事をする晴香を見て、彼女も同情の視線を送っていた。
「今はまだ数日しか経っていないからいいけど、あの部屋で生活してたら、アンタも狂っちまうよ?」
「それは……」
そう言われても、どうしようもないものはどうしようもないのだ。
金も無い、頼るあてもない。
だが、簡単に死ぬこともできない。
自分達の為に身を売り、もう犠牲を出さないと約束した『彼女』の為にも。
「はぁ。まったく……」
彼女の沈んだ表情を見かねたのか、女将はポケットから一枚の金貨を取り出して晴香の手の中に握らせた。
「え? お、女将さん、これは?」
女将は肩を上げてほほ笑む。
その表情は、宿屋の常連客から「肝っ玉母さん」と言われるだけはある愛嬌に溢れていた。
「たまには外で羽を伸ばしてきな。女将って言ったって、アタシは部外者だ。こんなことくらいしかできないけどさ……」
女将の言った意味を理解して、晴香の眼に再び涙があふれる。
その温度は先ほどよりも暖かい。
「あ、ありが、ありがとうっ……ありが……ぅ、ござい、ます」
「あいつらには、アタシの仕事を手伝わせたって言っておくから。ほら、行ってきな」
まるで娘を見るかのように優しげな表情をする女将。
彼女の手によって、晴香は宿屋の入口から押し出された。
晴香は宿屋に来てから家事にかかりきりで一度も外へ出ていなかったが、ついに日の目を見ることができ、降り注ぐ陽光を掌で遮って周囲を見渡した。
久々に見た外の景色は五日前と変っていない。
貧困街では、朝早くから人々が道端に屋台を出し、店舗の扉を開けて商売にいそしんでいる。
しかし、宿屋から出た晴香は違和感に気付く。
「……あ、あれ?」
宿屋の正面で、その先に進むための足が動かないのだ。
彼女の目は大通りを歩く人々、その中に多分に含まれる男に向けられている。
「あ……ああぁっ、う、うそっ、な、何で、何で?」
無論、彼女が見ている男は赤の他人である。
当然ながら晴香のことを歯牙にもかけずに通り過ぎていく。
だが、晴香自身は違った。
目に映る男の全てが、自分を害し、犯し、蹂躙するだけの獣にしか見えなかったのだ。
その様相は、この数日間で彼女が味わった恐怖がどれだけのものであるかを物語っていた。
「ぅ、ああぁぁぁ……もう、いやああぁぁ……」
両足から力が抜け、晴香は店先で座り込んでしまう。
崩れ落ちた彼女を見て傍を通る男が怪訝な顔をするも、目線を向けられるたびに「ひっ!」と怯えた顔をする少女に舌打ちして通り過ぎていく。
(誰か……誰か助けて……)
乾いたタイルの上に、両目から溢れる雫が垂れ落ちる。
それは次から次へと地面に染み込み、新たな斑紋を作っていった。
もうどうしようもない。
そう思った瞬間、彼女の脳裏に、ある映像が浮かび上がる。
それはこの五日間、いっそ死にたくなるほどの恐怖に負けそうになった時、いつも自分を励ましてくれた光景。
(この、え、くん……)
彼女の脳裏に浮かぶのは、あの大迷宮で、自分を抱えて巨大なモンスターから必死に逃げる男の姿。
例え危険だと分かっていても、晴香を見捨てず、救ってくれた英雄。
だが、もう彼はいない。
近衛カルマは、晴香を救って落盤の下敷きになってしまった。
それでも。
それでも。
「このえくん……たすけて……」
救いを求める声は止まらなかった。
「よく頑張ったな、大園。後は俺に任せろ」
懇願が口から滑り下りた瞬間。
晴香の頭に手が乗せられ、彼女はゆっくりと顔を上げる。
そこには、待ちに待った、もう夢でしか会えないと思っていた男の姿があった。
願いはついに聞き届けられる。
五日間で初めての安堵を感じて、大園晴香は意識を手放した。
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早朝にスマフォのアラームで叩き起こされたカルマは、隣のベッドで「んーっ! んーっ!」と声を上げるこころを一瞥してから、何事もなかったかのように出立準備をし、風見鶏へと来ていた。
昨晩いきなりこころが襲いかかってきたので、反射的に焔神化して撃退。
体内に包みこんでアヘらせてから、温度を下げた“火縄獣”で縛って放置していたのだ。
ちなみに、朝になっても情欲の色が治まっていなかったので未だに緊縛&放置プレイ中である。
“火縄獣”下でも動ける条件にトイレを設定していたのは、彼なりの最後の良心だ。
そして現在。
風見鶏の入り口で気を失った晴香を、近くにあった路地裏に連れ込む。
そして、彼女の惨状を見てカルマは口を開いた。
「……ひどい怪我だな」
黒かった髪が白に変化し、おまけに目の隈がひどいとなると本当に大園晴香なのかと疑いたくなるくらいだ。
ぼろぼろに破れた制服からは打撲の痕が見え、添え木をした左足に至っては完全に折れている。
もしかすると、見えないだけで肋骨なども損傷しているかも知れない。
「まさか、宿に商人でも踏み込んだのか? とりあえず、大園を隠そう』
カルマは指を鳴らして焔神化すると、“灼淨”と“火熨斗”を使って晴香についた汚れだけを熱で落とす。
あらかた綺麗にしてから、レインコートを巻いた彼女を身体の中に押し込んだ。
本来なら体内に入った時点でくすぐり地獄にさらされるのだが、黒いコートでくるんだ上に完全に気を失っているため、その心配はない。
そのうえ、温熱で肉体の賦活を促進する効果もあるので、中に入れておいた方が何かと都合がいいのだ。
ついでにもう一つ言霊を唱えておく。
『……このままだと人前に出れないな。“影炎”』
彼が言霊を唱えた瞬間、炎の身体から立ち上る熱で辺りの空気が屈折し、二人の姿を透明にした。
それでいて中にいる人は暖かいお湯のような熱気なのだから、何とも利便性の高い身体である。
『よし、これでいいな。急ごう!』
透明な身体のまま“火翔”で空を飛んで宿の前に着地すると、ゆっくりと熱風で扉を開けて中に滑り込む。
「いらっしゃ……あれ、変だね。確かに扉が開いたと思ったのに」
入ってすぐ横の受付カウンターから犬人族の女性が出てくるが、カルマはその光景に訝しんだ。
(襲撃じゃないのか?)
もし商人が指輪を求めて襲ってきたのなら、女将らしき人がこんなにのんびりしているわけがない。
カルマが思案していると、彼女が鼻をくんくんさせて「ん? この匂いは……」と言ってきたため、ロビーから早々に退避して廊下にうつる。
匂いはどうにもならないが、“火翔”で廊下の天井を飛べば誰にもぶつからないため隠蔽も万全であった。
しかし、部屋数が多いので、どれが生徒達の部屋なのかが分からない。
そのうえ、廊下の上やロビーで三十分ほど浮いていても、一人たりともクラスメイトに会わないのだ。
(全員でクエストにでも行っているのか? ……とりあえずは大園を宿まで連れて帰って、怪我を治してから話を聞こう)
カルマは晴香を抱えたまま風見鶏の入り口から飛び出すと、そのまま自身の宿屋へと帰って行った。
「いらっしゃー……またかい!? いたずらも程々にしておくれよ」
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近衛カルマ (17歳)
種族:人間
職業:冒険者
レベル:3
経験値:648/102400
体力:1/1
気力:9998255/9999999
腕力:1
脚力:1
知力:9999999
スキル:【ザ・スキルセレクター】・【焔神威】・空きスロット
装備品:学生服・アテムの指輪・サバイバルナイフ・リュックサック
所持金:39700ELC
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樫咲こころ (17歳)
種族:人間
職業:冒険者
レベル:5
経験値:130/240
体力:170/170
気力:400/400
腕力:72
脚力:82
知力:274
スキル:【初級水聖魔法師】・【初級風緑魔法師】・【初級治癒術師】・【オカン】・【女神の慈愛】・空きスロット・空きスロット・空きスロット
装備品:学生服・皮のコルセット・ステートのネックレス・サバイバルナイフ・リュックサック
所持金:0ELC
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改稿情報
第2部:焔神状態では状態異常も無効化する一行を追加しました。
第3部:学校の上履きから皮の靴に履き替える一行を追加しました。
第8部:シャムがいた街の名前をフォスダンからフォルダンに修正しました。
第9部:ステルゲンブルグ近郊の迷宮名をアース迷宮からアルス迷宮に変更しました。
第10部:ギルドカードの名前表記を漢字からカタカナに変更しました。
その他:細かい文章表現とステータス上昇値がにミスがあったものを修正しました。




