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10/24:夜のステルゲンブルグで

作中の価格設定ですが、街の通行料や施設の登録料は【ある程度の身分を認める】という保証が付くため、意図的に高くしてあります。その反面、食べ物や宿屋の価格は安めです。


 喧騒が静まった夜。



 衛兵からクラスメイトの情報を聞き出した後、ついでに安全な寝床は無いかと衛兵に尋ねてちょっと高めの宿を紹介してもらう。

 なんでも、高級所であれば防犯対策も充実しているのだとか。

 二人の質問を聞いて邪推したのかは知らないが、「兄ちゃん、頑張れよ」というお言葉を貰って衛兵たちと別れることになった。

 

 教えてもらった中央区の宿屋【ルネライトハウス】はモダンな石レンガの高級ホテルだった。

 シャンデリアが輝く宿屋のロビーで、主人のおっさんと交渉する二人。

 日本で暮らしていると値切り交渉はあまり行わないが、海外や異世界では一般的な上、衛兵への賄賂で大盤振る舞いをしてしまったために残金が気になり始めたのだった。


「二人部屋は一泊五千エレクだ。これ以上はまけられねぇな」

「お願いします。お金は無いんですけど、どうしてもこの綺麗でおっきい宿屋に泊まりたいんです!」

「そ、そうは言っても、金がねぇんなら仕方ねぇだろ」

「……ふかふかのベッド……あったかい暖炉…………ぐすんっ」

「四千エレクなら泊まれるかい?」

「ありがとうございますっ!」


 実にあざといが、やはりどこでも可愛いは正義ということらしい。


 寝床を確保すると、次に二人は冒険者ギルドへと向かった。

 衛兵が言うには、この町で情報を探すのであれば、まずギルドへ行くのが定石のようだ。

 

 街中の案内板に沿って見つけた冒険者ギルドは、一言で言えば西部劇に出てくるBARの外見をした建物。

 その中も同じような配置になっていて、木で組まれた食堂の奥にはバーカウンターと、黒いメイド服を着た受付嬢がいるギルドカウンターがある。

 数十人が収容できそうな広い食堂には丸テーブルとイスが大量に置いてあり、犬耳をつけた荒っぽそうな者、眼帯で片目を隠した強そうなサムライ(らしき格好の人)、これまたコテコテの西部劇に出てくるような人たちがいて、それぞれが思い思いに酒を飲み、肴をつついていた。

 カルマとこころがドアを開けて中に入ると、当然ながら新参者である二人には値踏みするような目と下卑た視線が突き刺さるが、今はそれよりも大事なことがあったのでスルーして連中の間を通り抜ける。

 

 カルマは真っ先にギルドカウンターへ近寄ると、黒髪のメガネメイド受付嬢に声をかけた。


「情報を買いたいんだが……」

「では、ギルドカードをお出しください」

「ギルドカード?」


 受付嬢の言葉に疑問符を浮かべるカルマ。

 後ろから「そんなことも知らねぇのか今のガキはよぉ!」と嘲りの声が飛んでくるが、受付嬢とカルマはまるで聞こえていないかのように話を続ける。


「お二人は冒険者ではないのですか?」

「ああ。そうだ」

「は、はいっ」

「わかりました。では、ご説明させていただきます」



・ギルドで情報や物の売買をするには登録する必要がある

・登録料は一人一万エレク

・登録することでギルドカードが貰え、通行証の代わりになる

・登録することで【パルテの腕輪】が貰え、パーティー編成が可能となる

・登録することでギルドが受発注するギルドクエストに参加可能となる

・ギルドカードは別の都市でも使える(例外あり)



 なるほど、RPGによくありそうな設定である。


 メガネをキラン!と光らせて一息に言い終えると、メイドはそれっきり押し黙った。

 必要なことは言ったから、後をどうするか選べということなのだろう。


「分かった。二人分の登録を頼めるか?」

「はい。こちらの用紙に必要事項をご記入ください」


 メイドが用意していたのか、彼女の手の中には既に羊皮紙が二枚握られ、カウンターの上に置かれた。

 書くことは、名前と性別、年齢に種族。

 そして、自身の使える魔法か、得意な技能だった。


「……これ、嘘を書いても支障はないか?」


 本来、今から登録しようとしている人間が言うべきことではないのだが、一応聞いておく必要がある。

 受付嬢の返答次第では書くことが変わるからだ。


「はい、構いません。冒険者の中には荒くれ者上がりも多いですから、身分を隠そうとする方もいます。それに、強者がみすみす手の内をさらすこともありませんし、弱者が見栄を張っても待っているのは重症か棺桶ですから」


 あなた方は能ある鷹か、それとも威を借る狐か。

 レンズ越しに見える受付嬢の目は、二人に問いかけるように輝いていた。


 結局、こころは素直に自分の情報を書いたが、カルマはサバを読んで【上級炎熱魔法師】と書いておいた。


 後でいくらでも登録情報を変更できるということで、最初はこの辺が妥当かもしれない。

 初級中級一種類だと受注できるクエストが制限されることは予想がつく。

 かといって王級が使えると何か言われそうだし、例え本当でも無想級なんて書いた日には笑いモノにされる。

 ここが精いっぱいの妥協点だった。


「……はい。確かに受け付けいたしました。少々お待ち下さい」


 受付メイドは二人から羊皮紙、そして金札二枚を受け取って一瞥する。

 特に問題はないらしく、そのままギルドカウンター奥の扉へと入って行った。


 つかの間の休憩に二人の緊張が解けたのか、近くにあったテーブルと椅子を引き寄せてどっかりと座りこむ。

 口から出てくるため息は、どこか重たそうだ。


「ふぅ。ひと段落ってところだな。何も解決してないけど」

「そうだねぇ……生き急いでわたし達が危険になっても意味がないしね。できることからやっていこうよ」


 二年三組三十二人が異世界に飛ばされた中で、この町にいるのは三十一人。

 一刻も早くコンタクトをとって現状を確認しなければならないところだった。


 だが、気を抜く時は気を抜かないと、今度は気を張り詰め過ぎて何か重要なことを見落とすかもしれない。

 そう考えた二人はバーカウンターまで移動して木の椅子に座り直すと、試しにウィスキーをロックで頼み、


「ゴフッ!」

「けほっ!」


 盛大にむせた。


「あ、でも氷を溶かせば結構イケるな」

「そうかなぁ……よく飲めるね、こんな濃いの……」


 こころが追加のオレンジジュースを頼んでウィスキーを薄め終わった頃、ギルドカウンターからメガネメイドがやってきて、こころの隣に座る。

 超フレンドリーな受付嬢である。


「お待たせいたしました。こちらがギルドカードになります」


 隣にいるこころに一つ、更に向こうにいるカルマに一つ。

 カウンターの上で金属板の青いプレートを滑らせると、それぞれの前でピタッと止まった。

 何気にちゃんと上に向けていて文字が読めるように静止させるメイドさん。

 マジぱねぇッス。



=======================

カルマ・コノエ 男 17歳

種族:人間

上級炎熱魔法師

ランク:F

=======================

ココロ・カシザキ 女 17歳

種族:人間

初級風緑、初級水聖魔法師

初級治癒術師

ランク:F

=======================



「個人情報が記されておりますので、街の通行証として使用できます。ただし、王都などの信用が必要な場所では一部を除いて機能いたしませんのでご注意を」


 当然だろう。

 偽名でもいい身分証明がどこでもまかり通ったら大変なことになる。


「ギルドカードを提示していただくことで、冒険者ギルド内での売買とギルドクエストの受注が可能になります。提供できる情報の希少性が高い場合や高難易度のクエストはランクが必要となってきます。依頼をこなすことによってランクが上がりますので頑張ってください」


 要するに物が買える入場パスか。

 貴重品買いたきゃ貢献しろやオラァと。

 把握。


「それと、こちらが【パルテの腕輪】になります」



============================================


【パルテの腕輪】

RARE:ノーマル

BONUS:特殊

鈍い光沢の赤い腕輪。アカシアの木を削って数人で魔力を注ぎ込んだ代物。仲間と認めた者に力を与える。


============================================



「これは冒険者ギルドだけでなく、商人ギルドや鍛冶師ギルドなどでも同様の物が配布されております。その分、あまり効果は期待できませんが、無いよりは良いと思われます」


 外見はただの木でできた赤い腕輪だ。

 効果は、パーティを組んだ仲間の全能力が極めて微量に上昇するとのこと。

 保険程度といったところか。


「後の事項は、こちらの契約書をお読みください。……ああ。基本的に利益にはなっても不利益になることはないと思われますので、読まなくても結構です」


 渡された契約書を念入りに読もうとするこころを、メイドが引きとめた。

 契約書読まなくてもいいとか、この人は本当に受付嬢なのだろうか。

 アバウトすぎる。


「さて、情報の売買が目的でしたね。どのような情報をお探しですか?」


 これで事務仕事は終わりというかのように、メイドがメガネを外す。

 幾分かフランクさが増大したが、目の光は変わっていない。

 彼女にとって今の時間はビジネスであり私的案件。

 それと、不思議な者に対する興味だった。


 視線を上げれば、さっきまで「ガキに売る酒は一杯だけだ」と言っていたバーテンも、こちらを見てじっと待っている。


 日本に帰還する手段も聞きたかったが、まずは仲間の情報だ。


「俺と同じ服を着た連中が、一昨日おとといこの町に来たはずだ。やつらがどこに行ったか知りたい」

「そうですね。その情報料は……」


 さて、いくら吹っ掛けられるか。

 再び値切り交渉に持ち込もうと身構える二人。


「お酒一杯でいいです」

「そりゃちょっと高すぎ……あれ?」


 予想外の言葉に、ハトが豆鉄砲を喰らった顔をする。


「その程度の情報、わざわざ冒険者ギルドに頼らずとも道端でも入ってきます。ですから、お酒一杯奢ってくださればお教えしましょう」


 カルマとこころは、実は自分達が非常に恥ずかしいことを頼んでいたのではないかという気にもなってきたが、ひとまずは置いておくことにした。

 メイドはバーテンへ「マティーニお願いしますね」と頼み、カルマの学生服を一瞥してから続けた。


「先日ステルゲンブルグに入ってきた奇妙な服の一団ですが、現在は貧困区にある旅籠はたご風見鶏かざみどり】に泊っているようです。出入りを見た者が何人かいるとのことですし、まず間違いないでしょう」


 その言葉に二人が顔を見合わせた。

 これで合流できる。


「ありがとうございます」

「あ、ありがとうございましたっ」


 メイドから風見鶏の住所を聞き出す(さらに酒を一杯取られた)と、二人はメイドに礼をする。

 そして、カウンターに金貨一枚を置いて立ち去った。




「ひとまず情報は手に入れたな」

「そうだね。言われてみれば、聞きこみで普通に教えてもらえそうなことだったよね」

「うん、まぁ……人のいない夜でも聞けるってのは便利だけど」


 電気の無い世界なので、夜は飲食店やBAR以外は灯りが消えて静寂に包まれる。

 蝋燭やランタンの類はもちろんあるのだが、光熱代が馬鹿にならない貧困層と一般層は、夜に寝て日が出ている時に稼ぐのが普通らしい。

 そのため、日中に比べれば人通りもかなり少なくなり、聞きこみしようにもできない状況だったので結果オーライだろう。


「この調子だと、あいつらも寝てるだろうな」

「明日の朝から張り込みをするってのはどうかな?」

「……そうだな。そうするか」


 同じ服を着ているとはいえ、宿屋が泊ってもいない部外者をすんなり通してくれるとも思えない。

 聞いてみれば、クラスメイト達が泊っている風見鶏には実力者も多数いるらしく、宿内にいる限り危険は少ないそうだ。

 どのみち生活するには外に出る必要があるのだから、張り込むのが一番安全で確実に会える。


「俺達も今日は飯食って宿に帰ろう」

「やることもないしね。どこで食べる?」

「適当にその辺に入って大丈夫だろ」


 特に希望も無いだろうということで、煌々と明かりが灯る食事処に入って行った。

 冒険者ギルドの数軒隣だ。


 内装はギルドと同じようなものだったが、さすが飲食店と言うべきか清潔さは段違い。

 一定間隔に置かれた丸テーブルと椅子は磨きあげられ、カウンターは光沢を放っている。

 時間的に遅いのか、客は数人ほどがまばらに酒を煽っているだけだった。


「はーい、いらっしゃ~い。お二人?」

「ああ」

「個室もありますけど、どうしますか? お二人でラブラブチュッチュしながらお食事したいんだったら、案内してあげるけど?」


 入店するとすぐに店の女の子が近寄ってくる。

 こころと同じくらいの背丈で、外見からして歳も近そうだ。

 日本人に近い黒めの髪が映える少女で、看板娘なのか笑顔がまぶしい。

 服装は、濃紺の麻でできた粗末な服にエプロンを纏った格好だった。

 別段高級品ではないが、手入れをしっかりしているのか清潔感が目立つ。


「いや。席はどこでもいい」

「えー、つまんないのー……」


 カルマが腕を振って拒否すると、給仕の女の子はぶーぶー文句を言っている。

 視界の端で幸福から絶望へ暴落するこころの表情も見えたが、見なかったふりをしてカルマは案内に従った。

 

 ちなみに、結局通されたのはカーテンで仕切られた個室だった。

 内装は細長いテーブルと、それに合わせたベンチのような椅子。

 いわゆるカップル席である。

 こころ株がストップ高で値上がりしたのは言うまでも無い。


「どう? いいところじゃない?」

「はいっ! ありがとうございます!」

「それで、この店は何かオススメがあるのか?」

 

 女同士でサムズアップし合う光景を尻目に、引き攣った表情のカルマは注文を促す。


「うーん。今日の人気商品はコーミ鶏の蒲焼と、北で取れた穀物を使ったピッグハチノコ御飯だよ。この二つは相性抜群なんだ!」

「じゃ、蒲焼と御飯、あとスープを二人分くれ」

「ほいほーい。他に注文は?」

「わたし甘いもの欲しい!」

「それならチョコパ…………じゃなくて、リリス梨のシャーベットがオススメだよ」

「今何か言いかけなかったか?」

「い、いやー。なんでもないよん」


 注文を終えて給仕の子が個室から出る。

 ほどなくして料理が運ばれて来た。


「意外にうまそう……」

「見た目は日本の定食と変わらないね」


 真っ白な皿に並べられた香ばしいタレがかかった鶏の蒲焼に、陶器の茶碗山盛りの炊き込みご飯、千切りキャベツ、木の深皿に入ったコンソメスープという日本人泣かせの構成だった。

 これで味噌汁が付いていれば最高だったが、贅沢は言うまい。

 なにせ今まで食べていた食事は兵舎でのシチューを除くと、地下部屋の肉と果物か、道中で食べた串焼きくらいしかないのだ。

 

 調味料がふんだんに使われた定食にお腹が悲鳴を上げ、すぐさま二人は食べ始めた。

 ちなみに箸はないらしく、使っているのは銀のフォークとナイフである。


「炊き込みご飯に入ってるハチノコって意外に甘いんだな」

「ピッグハチノコって言うくらいだから、豚肉っぽい食感だよね」


 味がいいのか、あっという間に二人で平らげ、こころは満面の笑みで食後のシャーベットも味わう。

 大満足の夕食を終えて代金を払うと、二人はほくほく顔で宿へと戻ったのだった。

 

 店の前で手を振る給仕がニヤニヤと笑っていることも知らずに。




 その日の深夜。

 

 発情したこころがカルマに襲いかかり、あわや貞操の危機という事件もあったのだが、それはまた別のお話である。



============================================


【リリス梨】

RARE:レア

真っ赤な果汁の梨。極めて強い催淫作用がある。


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近衛カルマ (17歳)

種族:人間

職業:冒険者

レベル:3

経験値:648/102400

体力:180/180

気力:10/10

腕力:166

脚力:126

知力:92

スキル:【ザ・スキルセレクター】・焔神威・空きスロット・空きスロット

装備品:学生服・ブラックレインコート・アテムの指輪・サバイバルナイフ・リュックサック

所持金:39700ELC


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樫咲こころ (17歳)

種族:人間

職業:冒険者

レベル:5

経験値:125/240

体力:170/170

気力:400/400

腕力:72

脚力:82

知力:274

スキル:【初級水聖魔法師】・【初級風緑魔法師】・【初級治癒術師】・【オカン】・【女神の慈愛】・空きスロット・空きスロット・空きスロット

装備品:学生服・皮のコルセット・ステートのネックレス・サバイバルナイフ・リュックサック

所持金:0ELC


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