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僕的幸福度指数  作者: バナナの革
3/3

君と僕の手

pixivでチョロチョロと書いたものを書き足して再投稿です。

あれ、なんだっけ、なんで揺れてんだ......

暗闇からまぶたをひらけると、雪がちらちらと降るなか、家が田んぼがどこかに吹き飛んでゆく。

嗚呼、そうだったな。僕達、電車に乗っているんだった。意志に逆らって、閉じようとするまぶたを擦って叩き起こす。隣から熱を感じ、目をやると見慣れた制服が目についた。

「......ゆうと」

なんて消え入りそう声でささやいてみても、悠人は夢の中。もちろん声が返ってくる訳が無い。知ってたよ、と心の中で言い訳をしながら腕を真上に上げ、足を放りだして伸びをする。周りをフッと見回すと、会社からの帰路だろうか、40代から60代くらいのコートを着た男が二、三人乗っているが皆下を向いている。午後5時の癖をして、何故だか車両に数人しか乗っていない。真上に上げた腕を降ろしながら、ドサッと背もたれに背を預ける。彼らは寝ているのだろうか、明日の仕事の事でも考えているのか、そんなくだらない事を考えながら脳を起こす。この車両には何かふわふわとした、現実では無いような雰囲気が漂っている。いや、僕がただ単に寝起きで頭が回らないから、そう感じるだけだろうか。


「実はさ、俺、美咲ちゃんと付き合う事になったんだけど」

そんな願ってもいない悠人の言葉を聞いたのは気になっている、と僕に話していた三週間後くらいの話だった。悠人の友人が半ば無理矢理、悠人に告白をさせてみたところ両思いだったそうだ。悠人からその事を耳にしたときは、心に槍が突き刺さるだけで涙なんか出なかった。しかし、電車に乗っていつものように悠人の事を考えているとやはり涙が溢れ出て僕の心が、がらがらと音を立てて崩れていくのが僕の脳にも聞こえた。


 再び、目をつむっている悠人に目を向ける。悠人はどんな夢を見ているのだろう。

その付き合ってると話していた子の事だろうか。僕がいつもその話を聞きながらどんな気持ちだったか分かっているのかな。いや分かられてしまったら、君はどんな顔をするだろう。その可愛らしい顔にシワをつけて僕を拒否するだろうか。そうだろうな。だからって、この気持ちをどうやって処理すればいいの。君を起こして、この感情をぶつけてしまおうか。

「はあ......」

と、溢れる気持ちをため息に変換し、僕の外に押し出す。悠人に冗談で抱きつく友人が羨ましい。冗談として手をつなぐ友人が羨ましい。僕なんて君と喋る時はいつだって、心臓が跳ねるんだ。


君に触りたい。


ふいに椅子に投げ出されている悠人の手を見つめる。この手は、また明日になればあの女の子と同化してしまうのだろう。この手を握ることが出来たら僕はどれ程幸せだろう。握ってしまおうか。例え今、握ったとしても僕の気持ちの電流は君の心に届かないだろう。それでもいい。僕には君と一緒の電流が流れる事なんて来世でもないと分かっているから。

 今度は意志通り、僕の右手が悠人の左手をめがけて狙う。



「まもなく、まもなく新澤山」


車掌のくぐもった声が、僕の行きすぎた脳内に突き刺さり、慌てて手を納める。

周りからゴソゴソと音がし始め、サラリーマンが動き出す。それに乗じたように、悠人がもぞもぞと動き、目を覚ましたようだ。

「あー、寝てたわ。もう新澤山?」

「う、うん。あはは......」

端から見れば普通の会話だが、僕の心臓は自分の行いを恥じる気持ちや色々な気持ちが交わり破裂しそうだった。


「新澤山、新澤山です。右の扉が開きます。ご注意ください」


アナウンスを聞くと、悠人が

「よく寝たー」

なんて呟きながら、細身の体をふらりと立ちあげた。

僕もぎこちなく立ち上がり、凍えきっているホームの人混みを掻き分ける様に歩く悠人について行った。

 

 自転車置き場までの長い階段を悠人に続いて降りていると

「そういえば顧問の本多にさあ、ハードルを直しとけって言われたんだけど、どうやって直すんだよ。溶接でもしろってか」

と嘲笑したように笑いながら喋りかけてきた。いつもの通りに

「あははは」

と笑い返すと、悠人は安心したような顔をし、革靴を鳴らした。

悠人は、その場で立ち止まり身体ごとぐるりと回らせ

「翔太さあ、今日一日全然笑ってなかったよね」

と、へらっとした顔のどこかに真剣さを混ぜて尋ねてきた。

「そうかな、そんな事ないと思うよ」

出来るだけ表情を変えずに答えると、

「何?恋の悩み?」

一層へらっとさせた顔をして追い討ちを掛けてくる。

「そんなんじゃないよ、あはは」

なんて答えるが、悠人についての悩みだなんて言える訳がないよ。

「翔太はさ、第一志望はもう決めたの?」

「僕は今からもうちょっと頑張って総学かなあ」

「え、すげーじゃん。でも翔太ならそれくらい行けるか、うん」

「あははっ、ありがと、悠人は推薦で決まってたよね」

「うん、報大なら陸上も強いしね、でも関西の大学だから学校のみんなとはほとんど会えなくなっちゃうけど」

悠人の何気無い言葉が僕の心臓を跳ねさせた。今まで考えないようにしていたが、何と無く分かっていた。あと3ヶ月もすれば悠人とも離れ離れだ。僕はそれまでに悠人と何回話せるだろう。何を残せるだろうか。


僕は何を......

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