ボクノキモチ
全力で書いてどや顔で投稿がモットーです。
「なんか今日だりーな、二人でさぼっちゃおっか」
いつもの様に顔をへらっとさせて、部室で僕に提案してきたのは今から3分前の事で、既に練習着に着替えていた僕を半ば強引に悠人は連れ出した。いつの間にか6月も終わり、むしむしとした期間がやっと終わったと思ったら、太陽がてらてらと照りつける本格的な夏が始まってしまったようだ。
バックネットのある東のほうのグラウンドからは一定の間で甲高い金属音が聞こえ、グラウンドの中央を陣取っているサッカー部からは名物熱血教師の怒号が聞こえる中、僕達、陸上部はグラウンドの隅っこでいつも黙々と走り続けている。この時期になるとサッカー部、野球部の両雄が特にうるさくなり僕達は懲罰で走らされているような気分になる。そんな雰囲気だとさぼりたくなる気持ちも分からなくのか、僕ものこのこと彼についてきてしまった。自販機が設置してある二階の中央ベランダに行く為、校舎に入ると、どこからか50代の男の声の様な低いトランペットの音が流れてくる。毎日通っているはずの道なのに、人の通りが無い事も相乗して、僕達はさぼり以上のもっと悪い事をしているような錯覚に襲われる。
悠人がベランダへの扉を砂が混じったような音と共に開けると、生ぬるい風がふわっと吹き、悠人の前髪を巻き上げた。
「いっつも行列が出来てんのにねー、さぼるのもたまにはいいね」
と、僕と同じような考えを口に出した。
悠人はコーラを、僕はお茶を買いベンチに腰を降ろした。
携帯をひらけ、かちかちとボタンを押してメールを確認しながら口を開いた。
「そういえばさあ、俺と同じクラスの三咲ちゃんってなんかさ、良いと思うんだけど」
ずくん、と僕の心が動いた様な気がした。
「そ、そうかなあ、まあ頭良さそうだよね」
なんて、脳内のHDDから必死に引っ張り出した知識をなんとか返す。そっか、そうだよな。僕は何を期待しているんだ。悠人だって男なんだ。当たり前じゃないか。悠人に何を求めて、何を失望しているんだ。
「翔太って、本当に女に興味無いんだな。女子を連想した時に一番最初に頭の良さが出てくんのかよ」
と、携帯に目をやったままニヤリとした。
しばらく、僕の脳内がショートして沈黙が続くも、下手なトランペットが絶え間無く鳴っている。
「なんかさ、翔太と一緒にいると黙ったままでも苦痛じゃないんだよなあ。なんでだろうなあ。」
辞めて、僕をそれ以上勘違いさせるのは辞めてくれ。僕の事なんか嫌いだと、そう言ってくれさえすれば僕はこんなに悩まなくても、君の事を考えて上の空になることもなくなるんだ。
「そ、そうかなあ、僕なんてつまんない人間だよ」
平常を装って返すも頭の中はショートしたままでまともな思考なんて出来ていない。
「ははっ、なんだよそれ」
悠人が目を細めて笑うと、甲高い金属音がいつもの倍は大きく聞こえた。