心の扉
女の子と奏太がキスしていたのを目撃して、環那が落ち込む中、奏太の記憶を戻すためにお試しデートをした場所で、また待ち合わせすることに……。
心の扉、続編です。
「ほら!教室に入ろう」
夏芽が私の背中を押した。
翌朝、約束通り夏芽が迎えに来て、学校に来たものの。教室に入る勇気がなくて、入り口の所でオロオロしていた。
「夏芽。やっぱり私、保健室にいるよ……。先生に言っておいて」
保健室に行こうとした時、私たちの後ろに奏太君が立っていた。
「邪魔なんだけど。入るの入らないの?」
「ごめ~ん。今、入るから」
夏芽が私の背中を押しながら、教室に入った。
「ちょ、ちょっと!夏芽」
慌てて困った顔をさせた。
「いいから、いいから」
「……」
どうしよう、奏太君の顔をまともに見られない。
そんなことを思っていたら、
「青山。風邪もういいのか?」
奏太君が、私に聞いてきた。
「う、うん……」
私は、俯きながら返事をする。
「この前は、せっかくプリント持って来てくれたのに悪かったな」
「……」
結局、プリント渡せなくて帰って来ちゃったんだけど……。
また、あの時のことが蘇ってきて涙が溢れてきそうになる。
「あのさ、お詫にって言うのもなんだけど……。この間、言っていた公園。一緒に行ってもいいぜ」
「え……!」
私はびっくりして奏太君を見た。
「何か思い出すかも知れないしな……」
奏太君が真顔になる。
急にどうしちゃったの……?
でも、思い出すんだったら、行くしかないよね……?
そして、私たちはあの日と同じ、10時に待ち合わせをした。
待ち合わせの日。
私はじっとしていられなくて、早く待ち合わせ場所に来てしまった。
私がそわそわしながら待っていると、
「悪い、遅くなって」
奏太君が、早足で歩いて来た。
「……!!」
でも、隣には奏太君とキスをしていた女の子が一緒にいた。
「あ、この間の子だ~。始めまして、未優です。私も御一緒していいかな~?」
と、言った。
「ごめん。途中で未優と、ばったり会ってさ。着いてこないように言ったんだけど、どうしてもついて行くって離してくれなくて……」
見ると、未優ちゃんが奏太君の腕を両手でガッチリ掴んでいる。
「だって~。奏太といたかったんだもん。そりゃあ、他にも、いっぱい付き合ってる子がいるのはわかってるけどぉ~。私だけ見ててほしいな……」
未優ちゃんは、唇を尖らせた。
記憶を失う前は、今まで付き合ってた子と全員別れたとか言ってたけど、記憶を失ってからまた、全員と寄りを戻したとか?
胸の奥が締めつけられる。
「で?始めどこに行けばいいのかな?」
奏太君が、私に聞いてきた。
「始めに、ボートに乗ったんだけど……」
「じゃあ、行こう」
私達は、ボート乗り場に向かった。
ボートに乗ってから、奏太君の顔色が少し悪いみたいだった。
「奏太~。本当に大丈夫なの?」
未優ちゃんが、心配そうに奏太君の顔を覗き込んだ。
「平気平気」
微笑んで見せたけど、少し頭痛がひどいみたい。
もしかして、記憶がもどる前兆だったりして?
私は、声を低めにしながら、奏太君に聞いてみる。
「杉山君、思い出せそう?」
「……全然、思い出せない」
「そう……」
ーなによ、2人でこそこそして!
奏太君の横で未優ちゃんがイライラしている。
未優ちゃんが一緒じゃ、あの時と状況が違うのか記憶も戻らないまま1日が過ぎた。
「おはよう、環那。昨日、杉山君、思い出した?」
次の日、学校に行くと夏芽がさっそく聞いてきた。
「色々、あってダメだった」
私は、昨日あった出来事を夏芽に話す。
「なんなの、その女!?キスしてたうえに、デートの邪魔までするなんて」
「未優ちゃんの話では、いっぱい付き合ってた中の1人みたい……」
考えると、胸の奥が押しつぶれそう。
「許せない!杉山君。全員と別れたとか言って本当は別れてないなんて女の敵だわ!私、一言。杉山君に言ってくる」
夏芽が凄い剣幕で、自分の席で、次の授業の準備をしていた奏太君に、
「杉山君!ちょっと来てくれない!?」
夏芽は、人気のない所に連れ出した。
私は、慌てて2人の後からついて行く。
「ちょっと、聞きたいんだけど杉山君。環那につきあってた子、全員と別れたとか言っておいてどういうつもりなの!?」
「……俺、青山にそんなこと言った覚えはないけど」
「あんたね~!環那の気持ち考えたことあるの!?」
夏芽の怒りが混みあがってきた。
「夏芽、もうやめて!」
私は慌てて夏芽を止めた。
「記憶がないのにそれ以上、言っても……」
「……ごめん、環那。ついつい忘れて、感情的になっちゃって」
夏芽は、恥ずかしそうに俯いた。
「うっ……!!」
私と夏芽はハッとさせた。
急に奏太君が、手で頭を押さえながら、痛そうにしている。
「大丈夫!?杉山君」
夏芽は、びっくりしてあたふたと慌てた。
昨日も、こんな症状が2、3回あったけど、結局は思い出せないままだった。
しばらくして、奏太君の状態が落ち着いてきた。
「ごめん。具合悪いから保健室で休んでる。先生に言っといて」
奏太君は、頭に手をやりながら言った。
「うん。わかった……」
私と夏芽が、同時に返事をした。
なんだか、顔色も悪いし大丈夫かな……?奏太君。
結局、帰りのホームルームが終わってからも奏太君は戻ってこなかった。
「環那。杉山君の荷物、持って行ってあげたら?」
夏芽が、心配そうに私の顔を見た。
「や~ね、夏芽。杉山君に言った勇ましさは、どこに行っちゃったのよ?」
「だって~。あんな痛みに耐えてる杉山君を見たら、ちょっとね……」
「……」
確かに、あの状況を見たら、心配になる。
「とにかく、行っておいで」
夏芽に背中を押されて、私は奏太君の荷物を持って保健室に行くことにした。
「失礼しま~す」
声をかけたけど、保健室に先生はいなかった。
「杉山君……?」
そっとベットの方へ行ってみた。
カーテンの隙間から奏太君が眠っているのが見えた。
「杉山君……。荷物、持って来たから、ここに置いておくね……」
気持ちよさそうに、眠っている奏太君を起こさないように静かに、荷物をベットの横に置いた。
もう、帰る時間だし、起こしたほうがいいのかな?
私が戸惑っていると、眠っているはずの奏太君に急に腕を掴まれた。
「す、杉山君……!?」
私は、びっくりして奏太君を見た。
さっきまで、眠っていたはずなのに、いつの間にか真剣な表情で私を見ている。
どうしたんだろう?もしかして、記憶が戻ったとか!?
「あのさ……、俺。最近、何か大切なこと忘れているような気がするんだ……」
と、言った。
なんだ……。まだ、戻ってないのか……。
「大切なことって……?」
「大切な子とか、大切な物とか……。何か忘れているような気がして……。今日、宮本に言われてから、余計に感じたんだ」
「どうして、そんなこと私に?」
「青山が何か、知っているような気がしたから……」
まだ、頭痛がするのか奏太君は、頭を押さえた。
「ほらほら~!もう下校時間だから、よくなったなら帰りなさいよ」
保健室の千鶴先生が入って来た。
「今、帰ります」
奏太君が、ベットから起きあがって、立ち上がろうとしたけどよろめいた。
「あ!大丈夫?」
私は慌てて奏太君を支えた。
「青山さん。杉山君、まだ調子悪いみたいだから、わるいんだけど、うちまで送っててあげてくれる?」
千鶴先生が心配そうに言ので、奏太君と一緒に帰ることにした。
「悪い、青山。本当は俺が送らないといけないのに……」
「ううん。杉山君、体調が悪いんだし仕方がないよ」
私は、少し微笑んでみせた。
2人で肩を並べて帰るの何回目だろう……? 記憶が戻ったら告白して、2人で手をつないで帰ることができるのかな?
マンションまで来ると奏太君は、
「サンキュー、青山。また明日な」
と、軽く手をあげた。
「うん。また明日」
私が、奏太君に手を振った時、
「奏太、環那ちゃん」
振り向くと、奏太君のお母さんがにこにこしながら立っていた。
「おばさん、こんにちは!」
私は元気よく挨拶する。
「珍しいな。急にどうしたんだよ?」
奏太君が、聞いたので、
「あんたの具合どうなのかと思って、様子を見にね」 奏太君のお母さんは、心配そうに言った。
「大丈夫だから」
「大丈夫って言ってもね……。とにかく、中に入りましょ。環那ちゃんもよかったらあがってて」
「はい……」
奏太君のお母さんに言われて、私は一緒にマンションの中へ入った。
「さあさあ、中に入って」
部屋まで来ると奏太君のお母さんは玄関のドアを開けて、私を促した。
「そうそう。夕飯作ろうと思って材料買ってきたの。環那ちゃん
よかったら、食べてって」
「でも、親子水入らずなのに私、お邪魔じゃないですか~?」
「奏太と2人で食べても寂しいから」
ーあの子。全然、電話くれないし。環那ちゃんしか、奏太のこと聞ける人いないのよね……。
奏太君のお母さんの声が聞こえてきた。
なあ~んだ。奏太君の様子が聞きたいのか……。
私は思わず苦笑いした。
「じゃあ、お言葉に甘えてご馳走になっていこうかな……」
「よかった。さっそく、夕飯の用意するわね」
奏太君のお母さんは台所に行くと、てきぱきと支度を始めた。
「私、手伝います!」
急いで、お母さんの手伝いをする。
「ありがとう。じゃあ、ハンバーグ作るから、玉ねぎみじん切りにしてくれる?」
「わかりました」
私は、玉ねぎの皮をむき始めた。
「環那ちゃん、奏太君のことなんだけど、記憶のほうどうなのかしら?まだ、戻った様子ないみたいだけど……」
付け合わせのキャベツを切りながら、奏太君のお母さんが聞いてきた。
「それが……」
奏太君の頭痛のことを話してみた。
「そう……。お医者様の話では、脳のダメージがあるから無理に思い出させないようにってことだったんだけど、
自然とそんな状態になっているなら、記憶が戻るのも間近かも知れないわね……。とりあえず、明日にでも病院に連れて行って来るわね」
お母さんは、手を動かしながら言った。
頭痛の原因が本当にそうならいいんだけど……。
次の日、奏太君は病院に行くため学校をお休みした。
本当に、記憶が戻りかけていている状態なのか気になって、授業中も上の空。
「ちょっと、聞いてるの?環那」
夏芽が、私の目の前で手を左右に振った。
「え?ごめん。聞いてなかった」
私は、慌てて夏芽を見た。
「だから、杉山君のこと心配なら、帰りにうちに寄ってみたら?」
「……うん」
私は、大きく頷いた。
ピンポ~ン!!
学校が終わると奏太君のマンションに行くと、玄関のインターホンを鳴らした。
「はい」
インターホンから女の人の声が聞こえてきた。
奏太君のお母さんだ!
「こんにちは。青山です」
「あら、環那ちゃん?ちょっと、待っててね。今、開けるから」
と、声がするとすぐに玄関が開いた。
「どうぞ、あがってて」
奏太君のお母さんは、にこにこしながら私を招き入れた。
「杉山君の体調どうなのかと思って、様子を見に来ただけだけなので、ここで……」
遠慮がちに言ったけど、
「そう言わずに。あがってって!」
と、奏太君のお母さんに言われて、お邪魔することになった。
リビングに行くと、テーブルの上に色とりどりのちらし寿司やなどご馳走が並べてあった。
うわ~。すごいご馳走。何かのお祝い?もしかして、奏太君の記憶がもどったとか!?
「あれ?青山」
奏太君がリビングに入って来た。
青山……。記憶が戻っていれば前みたいに、環那って呼ぶはずだよね?ってことは、まだ記憶が戻ってないのか……。
じゃあ、何のお祝い何だろう?
「あの……。今日、何かのお祝いなんですか?」
私は奏太君のお母さんに聞いてみた。
「実はね。今日、奏太の誕生日なのよ」
奏太君のお母さんは嬉しそうに言った。
知らなかった~!知ってたら、プレゼント用意してたのに~。
私はがっかりしながら、部屋の隅に目をやった。
そこには、沢山のプレゼントが置いてあった。
「こんなにいっぱい、プレゼントどうしたんですか?」
「あ、それ?奏太にって、沢山の女の子が次から次へと来て置いて行ったのよ~。あんなに女の子の友達がいるなんて、母さん知らなかったわ~」
奏太君のお母さんは、そう言ったけど、きっとみんな彼女だ……。
やっぱり、記憶をなくてから私と出逢う前の状態に奏太君、戻ったんだ……。
なんだか、急に目頭が熱くなってきた。
「環那ちゃん、よかったら今日も食べてって。一緒にお祝いしてあげましょう」
奏太君のお母さんが、にこにこしながら言った。
「え、でも……」
「青山。母さん、一度言ったら聞かないから、食べてけよ」
奏太君の思いがけない言葉に、ご馳走になることになった。
「あら、いけない!ケーキも頼んどいたんだわ。すぐ取りに行ってくるから、2人で先に食べててちょうだい」
奏太君のお母さんは、慌ててケーキ屋さんに取りに行ってしまった。
「ごめん。母さん、騒がしくて」
「ううん。賑やかでいいじゃない」
少し微笑んで見せたけど、2人っきりになると、何を話していいなかわからないまま食べ始めた。
「ごめん。醤油なかったな」
食べ始めてから、奏太君が醤油が出てないことに気がついたのか、さっと立ちあがった。
「あ、私が取ってくるよ」
私は急いで立ちあがった。
台所に行くと、テーブルの上に醤油が置いてあるのが見えた。慌ててリビングに持って行こうとした。
「ごめん、青山。飲み物も出てなかった」
急に、奏太君が台所の中へ入って来たので、びっくりして足もつれて転びそうになった。
「青山、危ない!」
バタ~ン!!
とっさに奏太君に抱きかかえられた状態で、私達はその場に倒れてしまった。
「杉山君!大丈夫?」
私は慌てて起き上がった。
「イタタ……」
奏太君が頭を押さえながら、起き上がった。
「青山、怪我はないか?」
「うん。大丈夫」
私は頷くと、奏太君を見た。
「……!ごめんなさい。杉山君の洋服に、醤油がついちゃった……」
自分の洋服も見ると、醤油のシミがあちこちについていてびっくり。
「早くしないとシミになっちゃう!私、染み抜きするから、杉山君。着替えてきて」
「じゃあ、染み抜きしたあと乾燥機で乾かすから」
その場で、脱ぎ始めた。
キャッ!こんな所で裸に!?
私は、顔を赤らめた。
洋服を着ている時はわからなかったっけど、奏太君の身体って引き締まっていて、結構、筋肉もついていて、なんだかドキドキしてしまう。
「はい。よろしく」 私がドキドキしているのを気にもとめずに、奏太君はシミがついた服を私に、差し出した。
服を受け取ると、私も持っていた体操着に着替えて、急いで染み抜きを始めた。
落ちるかどうか心配だったけど、すぐにやったせいか、シミがきれいに落ちたので一安心。
「はい、杉山君」
奏太君はシミが落ちた服を乾燥機に入れた。
「おばさん、遅いね……」
私は時計を気にしながら、言った。
今日、病院に行ってどうだったかのか、聞いていないのに……。奏太君に聞くしかないかな~。
「杉山君?」
呼んでみたけど、奏太君は無言のまま乾燥機の中の服の動きをじっと見ている。
服が回っているの見て、何か面白いのかな?
「……前に誰かの服も乾燥機にかけたような……」
「……え?」
いきなり、奏太君が呟いたのでびっくり。
きっと、雨の日のことだ!
あの時は確か、私が傘を忘れて奏太君の傘で一緒に帰ることになって……、走ってきた車のせいで、水溜まりがもろかかって服が濡れちゃったから、奏太君のうちで乾燥機で乾かしてもらったんだ……。
「うっ……!」
奏太君はまた、辛そうに頭を押さえた。
今までより、痛みが強いみたいで、頭を押さえたままだ。
「きゅ、救急車呼ばないと!」
私は慌てて立ち上がると、電話をかけに行こうとした。
「だ、大丈夫だから、ここにいて……」
奏太君は、辛そうな顔で私の腕を掴んだ。
「で、でも!」
私はハラハラしながら、奏太君を見つめた。
乾燥機が止まる頃、やっと奏太君の状態が落ちついてきた。
「……ふ、服。もう、乾いたみたいだ」
奏太君は乾燥機から服を取り出すと、私に渡す。
「ありがとう……」
私が服を受け取った時だった。
「ただいま~」
奏太君のお母さんが、帰って来た。
「あらあら。どうしたの?そんな所で2人して」
「ちょっと、服に醤油をこぼしちゃって。それより遅かったですね?」
「ごめんなさいね。知り合いに会って、立ち話してたものだから……」
すまなさそうに謝った後、
「あ、そうそう。奏太、お客様よ」
と、言った。
「こんにちは~」
女の子が入って来た。
未優ちゃん!
私は、顔を曇らせる。
「奏太君。今日、誕生日でしょ?だから、お祝いしようと思って」
そう言うと、未優ちゃんが奏太君に近づいた。
「いいわね~、奏太。お祝いしてくれる人がいて。さ、ケーキも買って来たことだし、始めましょうか!」
と、奏太君のお母さんは、台所の方に歩いて行った。
「ほら!奏太君も行こう」
未優ちゃんに腕を引っ張られて、2人はリビングの方に歩いて行った。
私も後から、ついて行く。
「……」
今日、誕生日だったの知らなかったの私だけ?そりゃあ。まだ、告白の返事もまだしてなかったし、知らないのは仕方がないことかも知れないけど、なんだか取り残された気分。
「ほら!環那ちゃんも座って」
奏太君のお母さんが、陽気な声で言われて、私は椅子に座る。
「はい、奏太君。プレゼント」
未優ちゃんは、可愛くラッピングしてある箱を奏太君の前に出した。
でも、奏太君は受け取ろうとしないで、黙ったまま。
どうしたんだろう?まだ、体調が悪いのかな?
「奏太。どうしたの?気分でも、悪いの?」
奏太君のお母さんも様子がおかしいことに気づいたのか、声をかけた。
「……」
「杉山君……?」
私も、心配になって呼んでみた。
「……ごめん。ちょっと来て」
急に、奏太君は立ち上がると私の腕を掴んだ。
「え……?」
私は訳が分からず、戸惑った。
ープレゼント受け取ってくれないで、どうして環那ちゃんの所に行くのよ!?
未優ちゃんの心の声が聞こえてきた。
見ると、未優ちゃんがムスッとした顔で私を睨みつけている。
「あ、あの。どうしたの?」
私は、冷や汗をかきながら奏太君に言ったけど、急に奏太君のお母さんが、手をパチンと叩いた。
「わかった!服、乾いたのに環那ちゃん着替えてないもの。体操着のままじゃ嫌よね~」
「……」
確かに、お祝いの席で私だけ体操着のままじゃ、恥ずかしいけど……。でも、そんなことじゃないような気がする。
「環那ちゃん。奏太に脱衣所の場所、教えてもらって着替えてらっしゃい」 奏太君のお母さんが親切に言ってくれたけど、脱衣所の場所ならわかる。
「……」
奏太君は、無言のまま私の腕を掴んだまま歩き出した。
「だ、脱衣所の場所なら、わかるから……」
廊下を歩きながら、奏太君に言ったけど、やっぱり黙ったままだ。
それにしても、まだ未優ちゃん睨んでたな~。あとが、怖そう……。
奏太君に戻っててもらわないと。
「す、杉山君。先に、戻ってても大丈夫だよ」
「……」
困ったなぁ。でも、ちょっと待って。こっちって、脱衣所だった?
奏太君は、部屋のドアを開けると、私を中に入れた。
部屋を見渡すと、すっきり片付いた部屋の中に、シンプルなベットと机が置いてある。
ここ……。奏太君の部屋?
どうしてこんな所に!?
呆然としながら立ち尽くした。
「あの……。杉山君?」
「……環那、ごめん。今まで、忘れてて」
「え……?」
私は、心臓が止まりそうになる。
「俺。全部、想い出したんだ……」
「す、杉……」
「奏太でいいよ。お試しデートの日もそう呼ぶようにしただろ。俺にとっては、あの日のまま止まったままなんだ……」
「……」
奏太君。本当に想い出したんだ!
嬉しくて、次第に涙が溢れてきた。
「お試しデートの続きまだ、できるかな?」
奏太君に聞かれて、私はブンブンと横に首を振った。
「……やっぱり、今からじゃ駄目だよな」
奏太君がしょんぼり、肩を落とした。
「ううん。そうじゃないの……。奏太君が記憶をなくしてから、自分の気持ちに気づいたの……。だから、もうお試しはしなくてもいいの」
「……」
少し間を置いてから言った。
「私、奏太君が好き……」
そう言った瞬間、奏太君が私を抱き締めた。
「良かった~。記憶なくしたのも、無駄じゃなかったのかな」
「も~!変なこと言わないでよ」
私は頬を膨らませた。
「あはは……。ごめんごめん。俺も環那のことが好きだよ」
奏太君が私の顔を覗き込むと、そっと顔を近づけてきた。
キスされる……。
私はそっと目を閉じた瞬間、奏太君と未優ちゃんがキスしていた日のことが、脳裏に映し出された。
「イヤッ……!!」
私は、思わず奏太君を突き放してしまった。
「環那……?」
奏太君はびっくりしながら、私を見た。
その時、ドアをノックした音がすると、ドアが開いて未優ちゃんが顔を覗かせた。
「あ!いた~。脱衣所にいなかったから、どこにいるのかと思ったら」
「未優ちゃん……」
私は、眉をひそめた。
「奏太君。おばさん呼んでるよ~。早く早く」
未優ちゃんは、奏太君の腕に自分の腕を絡ませた。
ズキンッ!!
胸の奥がが締めつけられる。
「あれ?環那ちゃん。まだ、着替えてないの?先に行ってるね。行こう!奏太君」 未優ちゃんは、奏太君の腕を掴んで部屋から出て行った。
つい、キス拒否しちゃった……。
私のことの好きならどうして未優ちゃんとキスしてたの?って聞いてみたいけど、記憶がない時の奏太君だったし……。
それに、女の子からの沢山のプレゼントも置いてあった。
奏太君のことは、好きだけど。他にも付き合ってる子がいるのか確かめないと……。
私は、キュッと唇を噛み締めた。




