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お嬢様と先生の楽しく学ぼうシリーズ

マルコフニコフ則を聞きかじって、お嬢様が良からぬことを企てた単元

作者: halsan

 お嬢様がホームセンターから大量の木材と大工道具を買い込んできた。

「お嬢様、何を作っているのですか?」

「ホームパーティー用のテーブルと椅子よ」

「そんなのは出入りの大工さんにお願いすればいいじゃないですか」

「いいのよ、私が作るのよ」

「それでは、目的だけでも教えて下さい。そうしないと学習に影響が出ますから」

 お嬢様は俺の目を見てから念を押した。

「絶対内緒よ」

「わかりました」

「今度のホームパーティーに、男性が2人来るのよ。私のお友達は3人で、私を入れて全員で6人」

「はい、それで?」

「お友達3人を、3人とも片方の男性と同席させたいのよ。でも、私の主催だから、あんまり無碍むげにみんなに座る場所とかを押し付けるの、逆に失礼でしょ」

「まあ、それはそうですね」

「そこでマルコフニコフ則よ」

「なんだかわかりませんね」

「いい、2つのテーブルを微妙な距離で固定し、男性2人が、各々のテーブルに1人づつ座るようにするの。そして、私がどちらかの男性のテーブルに座っていれば、残りの3人も私に吸い寄せられるように同じテーブルに来るわ。そこで私がお友達に席を譲ってあげれば、お友達が3人とも、片方の男性と同席になるの」

「はあ、さいですか。でも、マルコフニコフ則に準じるなら、2つの炭素原子が並ぶように、男性も同じタイプでなければいけませんよ」

「わかっているわよ。だから2人にはタイガーマスクの覆面を被せるのよ」

「何か、違った方向でサプライズになってません?でも、理由はわかりましたから、私から大工さんに依頼してあげます。お客さんを釘が出ている椅子に座らせるわけには行きませんからね」


 そしてパーティーの当日。


 男性とは、お嬢様が所属しているサークルの男性。意外といい男。そしてもう1人は何故か俺。お嬢様は、サークルの男性とお友達3人を同席させたいわけか。

「さあ、2人ともこのマスクを付けるのよ」

 言われるがまま、俺たちはタイガーマスクのマスクを被り、席に座る。

 そうこうするうちにパーティーのお客さんがやってきた。女性3名はお嬢様とはちょっと異なるタイプ。

「さあ、私の座る席に、皆、引き寄せられるのよ」

 お嬢様の小声が聞こえる。

 お嬢様のお友達の声も聞こえる。

「あら、お嬢様はそちらなのね。では私たちはこちらで」

 気を使うようにお嬢様と反対のテーブルを選ぶ3人。

「え、ちょっと待ってよ!」

 慌てるお嬢様の声。

 そしてマスクを脱ぐ男性2人。

 私の席には女性3人。サークル男性の横にはお嬢様。

 空気が重い。

 女性3人とお嬢様が、そろってアウアウしている。

 策士策に溺れるってやつだな。仕方がねえ、執事っぽく振る舞ってやるか。

「皆様方、失礼いたしました。最後のテーブルメイキングをいたしますね」

 俺は男性のスネを無言で蹴り、耳元で凄んでから、快く席を替わってもらった。これで1つ目の席はお嬢様と私。2つ目の席は男性と3人の女性。

「助かったわ。先生」

 小声でつぶやくお嬢様。

「どういたしまして。でも1つだけ学びましょう。マルコフニコフ則は、寄ってくる側も同じ原子じゃなければ成り立ちませんよ。今日も学習しましたね。さあ、それではティーパーティーを始めましょう」

パーティは滞り無く進む。するとお嬢さまが不意に俺の耳元で囁いた。

「私はあの3人を、男性と一緒に座らせたかったんじゃないの。先生を独占したかったの。うまくいってよかったわ」


 俺はマルコフニコフさんに少しだけ感謝した。

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― 新着の感想 ―
[一言] まさか、この小説家になろうでマルコフニコフ則という言葉がきけるとは(笑) マルコフニコフ則を知っている人が何人いるのかは疑問ですが(笑) 博学なお嬢様と作者さんなのだと感心致しました。 …
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