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気(キガツク)

5000PV&1000ユニーク突破いたしました。

皆様のご来訪に、心から感謝申し上げます。


まだまだゲームを楽しんでおります。

っべーわー、まじっべー。ちょ、もーっべすぎるわー。


浮き沈み激しいように思われそうですが、普通の感性持った人間が世界渡ったら、こんなものではないと思います。

落ち着くまで、もう少しシリアス風味が続きます。

ではでは、ゲーム要素出ましたポジネガ忙しい5話目、始まります。






「それじゃあ、彼女のことお願いします」

「任せときな? 同じ人族、見捨てちゃ置けないからね。その上勇者様のお願いとなっちゃ当然の話さ」

「ありがとうございます」


 簡素な木の扉の向こうで話す声が聞こえたけど、内容なんて気にしていられなかった。

 だってそれどころじゃない。

 今のオレは、現実になんて意識を向けていられないんだ。


「帰りたい……っ」


 どうして、ここにいるの?






 朝が来た。

 嵌め殺しの窓の向こうから、カーテンを透かせて陽射しが室内に滑りこむのが見えた。

 一睡もできなかった。

 一晩中、ただ布団にくるまってすごした。

 目が回るようで、視界がちらつく。

 あれから一食も摂ってない。

 何度か呼ばれた気がしたけど、そうじゃなかったかも知れないし、分からない。


コンコン


 嫌だ。

 出たくない。

 オレの世界じゃないのに、いたくない。

 でもどうしようもない。

 帰りたい。

 昨日からずっと頭の中がループしてる。


コンコンッ


 どうしよう。

 帰りたい。

 ここにいたくない。

 でも帰り方が分からない。

 どうすればいいかわからない。

 どうしよう。


コンッ コンッ コンッ


 帰りたい。

 帰りたい。

 帰りたい。

 帰りたい。

 帰りたい。

 帰り


グァバンッ


「起きたかもち肌あ!!!!!」

「っぴゃい!?」

「もう少しやわほやに起こしてあげませんか?」


 なになになになになになになになに!?!?!?!?

 今変な声出た何なの!?!?


「いい加減起きて外に出て来やがれもち肌! 君まさかもち肌の上に美肌目指そうとしてんじゃねえだろうなあこんちくしょううらやましい!!」

「本音がぺろりんとこぼれてますよメグちゃん?」


 もち肌でごめんなさいでもそれオレのせいじゃないっ!?




 寝起きドッキリもかくやと言わんばかりの起こしっぷりだったけど、すぐに騒ぎを聞きつけたシュイさんとダンさんが回収に来てその場は収まった。

 男性2人は部屋をのぞかないようにしてくれたみたいで、扉の陰で言い合っているのが聞こえたオレはまた少し沈んだ。本当に女の子になってるんだな…。

 起き抜け?の衝撃が覚めないままオレは起きて支度をすることになり、4人は下で待っていると言い置いて降りて行った。

 ちなみに後から聞いた話だと、クロウさんは最初から1階で待っていたそうだ。メグさんと顔を合わせると収まる物も収まらなくなるんだそうだ。…否定できない。

 この宿の女将さんからお借りした服に着替えると、備えつけの水道で顔を洗う。

 視界の端に光がちらちらと泳いでいる気がして、オレは冷たい水をかぶるように冷たい水を何度も被った。

 手さぐりにタオルを探して水気を拭い、頭を上げる。

 正面の鏡に映るのは確かに見慣れた自分の顔なのに、着替えた時の体も、返事をした声も、今までと同じじゃなかったんだ。

 丸みを帯びた輪郭、声変前のような声の高さ。

 暗い表情を自覚したまま、オレはみんなが待つ1階の食堂へ向かった。

 まだちらつきは治まらない。貧血かな?

 階段を下りる前からすでににぎやかな話し声が聞こえていて、場違いな気持ちでいっぱいになった。


「メグ、今さらって分かってるけど言わせてくれ。もう少し女らしくなろうよ」

「このナイスばでーのどこが気に入らねえってんだ!?」

「淑女の欠片もない野ブタめ。マリーを見習ってはいかがですか?」

「その口縦に裂いてやんぞ? 詐欺師…」

「はっ。人語を介する知恵があるとは驚きです、野ブタ」

「おぉもぉてぇ出ろや詐ぁ欺師ぃぃいいい!!」

「はいはい、喧嘩はなしなし」

「ほいほい、落ちつけ落ちつけ」


 あんなにもにぎやかで楽しそうな場所に、本当にオレが行ってもいいのかな。

 あのまま部屋で閉じこもってた方がお似合いだったんじゃないかな。

 中段辺りで足が止めた。手すりを握って落ちないようにしたのは、身体か、気持ちか。


「吸ってー吐いたー、吐いたー吸ってー、深呼吸で落ちつきましょう」

「ちょっとリズムが違うかな、マリー」

「……すみません、盗賊のせいでつい。カリンさんも、どうかこれのことは気にせず、こちらに下りてらしてください」

「え? あ、ホントだ。ごめんねうるさくて」


 っ!? な、何で分かるの!? オレ喋ってないよ!?

 見えないクロウさんから声をかけられてとっさに両手を抱えこむと、階段下からシュイさんがひょいと覗きこんでオレを見上げた。

 にこりと謝ったシュイさんは、わざわざ階段を上ってオレの所まで来ると、胸の前の両手をとって下まで連れて行ってくれた。うわあ、紳士すぎる、シュイさん本当にイケメンだ。


「朝から驚かせてばかりだよね? 大丈夫?」

「あ…はい、大丈夫です、だよ」

「あははっ! 昨日言ったこと覚えててくれたんだね、ありがとう」


 連れられたまま下につくと、勇者パーティが勢ぞろいでオレを迎えた。分かっていても、彼らの姿を見るのは少し苦しい。

 彼らは彼ら「らしい」言葉で笑いかけてくれる。


「おはようございます、カリンさん」

「カリンちゃんおはようです。昨日はゆっくりお休みできましたか? おねむさんは残っていませんか?」

「はよー、って髪まだ湿ってんじゃねえか。おばちゃーん! タオル貸してくれー!」

「よう、調子はどうだ? 怠いとか辛いとか、隠さなくていいからな」

「おはよう、カリン。怪我がなくて本当によかったよ」

「………おはよ、う」


 メインストーリーのシナリオクエストで数回一緒に戦ったことがある。細緻なCGと人気声優のボイスで見聞きした、その通りの姿形。

 優しい、思い描く「勇者パーティ」そのままの優しい、彼らの言動。

 いい人たちだと普通に思えるのに、VOを知るオレはそれだけじゃいられない。

 昨日のお礼を言おうとして開いた口は、何も出ない。


「…ぁ……………っ」


 にじみそうな視界を落として、オレは唇をかんだ。鉄さびの味がする。現実だ。

 無言でうつむく俺に、誰もが口をつぐむ。

 ついさっきまでにぎやかだったはずの食堂が、こんなにも静かだ。ほらね? やっぱ場違い。

 視界の端では光が点滅を繰り返す。

 沈黙に耳が痛くなりそうな中、右肩にそっと触れるように手が置かれてオレは隣を見上げた。


「オレたちはさ、魔王を倒すべく勇者をやってる。何で倒したいのかって言うと、みんなを助けたいからだ。みんなってのは、カリンみたいに困っているみんななんだ」


 肩の手に力が入る。痛くない、けど、息が詰まる。


「オレたちに、カリンを助けさせてください、お願いします。……だめかな?」


 じっとこちらを見つめる澄んだ青色に、気がつくとオレは首を縦に振っていた。

 ゆっくりと促されて椅子に座ると、ちょうどマリーちゃんとメグさんの間だった。2人にに挟まれてテーブルにつく。

 向かいには男性3人が腰を下ろしていて、みんなオレを見守るように見つめていた。


「よろしく、お願いします」

「うん。それじゃあ最初は、朝ご飯を一緒に食べようか」


 タイミングを見計らった女将さんが全員分の食事を並べて、オレたちはそろって食べ始めた。

 この世界で初めて食べる朝ご飯は、すごく優しい味がした。




 イメージ通りに食べるのが早いメグさん、ダンさん、シュイさんが食後のお茶をいただいている間に、クロウさん、マリーさん、そしてオレの順で食べ終わった。

 オレが特別遅いんじゃないよ、みんなが早いんだ。運ばれてくる時点で感じていたんだ。


「量、多かったね」

「そうですか? 私はまだまだ食べてもへっちゃらほいですよ」


 マジですかマリーさん。女の子でそんなに細いのにこれでも足りないんですか?


「体の調子がまだ整っていないのでしょう、ゆっくりで構いません」


 賢者って少食だと思ってました、クロウさん今食べてるデザートのパイ3つ目ですよね?


「遠慮とかするなよ? もっと欲しければ頼んでいいから」


 オレの意が限界を訴えています、むしろダンさんのようなたくましさが欲しいです。

 女の子よりも食が細いという事実に愕然としながら、オレはごちそうさまと食事の終わりを告げて調理場へ空いた食器を下げる手伝いをした。

 気にかけてくれるのはありがたいけど、どうか触れないでやってくれ。これはある種の男の矜持だから。

 あらかたが片づいてお茶のカップをもらい席に戻ると、表情を引き締めたシュイさんたちに改めてオレについて説明を求められた。

 途切れ途切れに、どうしようかと悩ませながら答えるオレの様子を違う方向へ捉えたのだろう、どこか厳しい目で彼らは視線を交わせる。


「ちょっとごめん、オレたちだけで向こうで話してもいいかな?」


 立ち上がったシュイさんが奥のテーブルをさして許可を求めるので、オレは慌てて首を振って答えた。


「気にしないでっ、どうぞ。オレ、ここで待ってる…れば、いいんだよね?」

「ありがとう。すぐだから、ごめんね?」

「ううん、だいじょうぶ。行ってらっしゃい」


 手を振って送り出せば何故だかみんなしてきょとんとして、そして笑って行ってきますと席を立った。

 うん? あれ、何か変なこと言ったかな?

 手を振ったまま5人が奥のテーブルにつくのを見届けると、オレはお茶を1口飲んで目頭を押さえた。

 どうにも、目がちかちかと落ち着かない。


「本格的に貧血? でも吐き気はないしご飯も食べられた…怠さは、少し、あるかないか。何でだろう」


 首を振って、目元に手を当てて、朝からずっと気になっていた光に意識を集中する。


「眼病だったら笑えない………?」


 右下の隅の方。

 点滅する青白い光。

 きょろきょろとみる方向を変えても、同じ場所に光はあり続ける。


「?? これ? 何?」


 錯覚か、それにしてははっきりと主張するように輝く、というか瞬く光の粒。

 蛍のようなそれが気になって、右手で扇ぐように点滅するあたりを触ってみた。


ピポン


 2度、3度と扇いでいると不意に懐かしい機械音がして、空中にこれまた懐かしく感じる映像が現れた。

 映像と思ったのは、それが半透明で向こう側の景色が透かして見えていたから。あ、マリーちゃんがこっちを見て手を振っている。振り返しておこう、って!


シュン


「うわっ、消え…」


 思わず肩がびくついた。

 突然現れた映像は、同じように突然消えてしまった。

 意味が分からず目を白黒させていると、さっきまで青白く点滅していた光が、今は落ち着いた青色で静かに光るだけになっているのに気がついた。

 内心疑問符ばかりで、恐る恐るもう一度そこに指を持って来る。振れるだけでは何も起こらない。

 じゃあ、動かせばいいのかな。と気軽に指をスライドさせると、再びあの機械音と映像が現れてまたもや肩が跳ねる。


ピポン


 右手で払ってみる。


シュン


 人差し指でスライド。


ピポン


 右手で払う。


シュン


 ………なるほど、分からない。いや、何となく推測は立ったんだけど、理屈がわからない。

 SF? どっちかって言うとファンタジーだよねここ? ああでも、同じだもんな……。

 先ほどから現れて消えてを繰り返す映像、ぶっちゃけて言えばステータス画面に、オレは大きくため息をついて体を椅子に沈ませた。


「どーなってるんだろう……ここもオレも」


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NAME:カリン(♀)

LEVEL:2  CLASS:人族

JOB:無  TITLE:異邦人

STP:5

--------------------

HP:600  MP:250  SP:700

--------------------

HACK:25  STAB:27  BEAT:19

DEF:15  MGAT:35  MGDF:28

AVD:31  DEX:32  LUCK:10

--------------------

EQUIP:女将のお古

SKILL:お茶の間のアイドル


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 懐かしく感じるのは当然、だってこれはVOのキャラステータスの画面と同じ表示だから。

 数値は全く覚えがないけど、名前がカリンでLVが2なのだから、これはオレ自身のステータスってことなんだろうな。

 それでえっと、魔法関係が微妙に強いみたいだね、ちょっと納得。剣道をかじった影響も出てそうな感じかな?

 言われるまでもなく、フィジカルが弱い自覚はあります。ほっといてよ。

 装備とスキルは……何とも。

 女将さん、これ貴方のお古だったんですか、てっきり娘さんの物かと。そしてどこまでもオレはいじられる運命なんですかそうですか、いい加減にしてよこれでもコンプレックスなのに。

 称号…異邦人……異邦人……………異邦。


「もう、いいや」


 じっくりと眺めた画面を手を振って収めると、椅子の上に両足を上げて、体育座りで体を丸めた。

 目を閉じて膝に押し当てるようにすれば、世界は簡単に消えてしまう。


「ゲームだってことでしょ? 分かったよ、っもういいよ」


 シュイさんたちの声は、かすかにしか聞こえない。

 今オレは、オレだけの暗闇に沈み込む。


「帰ろうね、絶対、何が何でも」


 オレの世界じゃない世界で、オレだけの暗闇。




 全てを乗り越えるために、オレは何かを飲みこんだ。







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