惑(トマドイ)
連載開始早々申し訳ありません。
欲しかったゲームが届いてしまったので、次の更新まで少し空きます(死)
そして遅ればせながら、閲覧&お気に入りありがとうございます。
ようやくTS要素発揮の3話目、始まります。
「ねえ、大丈夫? 聞こえてる?」
「一時的な混乱でしょう。とりあえず、このままここにいるのはお勧めできません、移動しましょう」
「そうだな……立てる? 少し歩くけど、怪我はないんだよね?」
聞こえてる、混乱してる、立てるし歩ける、っけど!
どうなってるの?
何でオレ…。
「…どこ?」
「え? ああ、すぐ近くにオアシスがあるんだよ。そこで休もう」
「顔色わりぃな、先に水飲んどく? おーい、水袋ちょーだい!」
違うそうじゃない、そうじゃなくて!
「ここ、どこ…っ」
「黄昏砂漠ですよ、はいどうぞ、お水です飲んでください」
「たそがれ?」
「おう。さすが、昼前なのに日差しきついな。オレの影歩け? な?」
水袋とやらを受け取ったけど、今はそれどころじゃなかった。
黄昏なんて名前の砂漠、聞いたことない。
それに日本にこんな広い砂漠があるわけない。
ってゆーかそれ以前に!
親切なこの人たちは何でこんなコスプレみたいな格好してるの!?
「オレ、どこに来ちゃったの…?」
パソコンの画面にスタートの文字が浮かび上がる瞬間、誰かの声が聞こえた気がして瞬きすれば、オレは一面の砂っ原に座りこんでいた。
「……………、は?」
え? 何? どゆこと??
「え? え? え?」
思わず辺りを見回しても砂の原と丘ばかりで、草木の影すら見えない。
うっすらと立ち上る陽炎に、頭のどこかで「熱いんだな」って現実逃避が聞こえる。
下半分が薄茶色い砂、上半分が抜けるような青い空、その真ん中でオレは茫然と座り込んでいる。
…どこのフィクションですか? いいえ、現実です。
とか何とか、前にシュウが言ってた話し方を真似しながらお決まりにほほをつねってみた。
「…いたぁい」
普通に痛い、そしてやけに手が冷たい。
「~~っあーもうっ、何だよこれ!?」
やけになって頭をかきむしると勢いよく立ち上がり、オレは砂の海を歩き出した。
太陽に向かって歩けば東に進めるはず、もしかしたら人がいるところに出るかもしれない。
「冷静に、冷静に、落ち着いて行こう、深呼吸だ」
自分に言い聞かせたつもりでオレは、混乱と焦燥にかられるまま当てもなく砂原を彷徨っていた。
体格にも恵まれなかったオレだけど、毎日のバスケで体力には自信があった。持久走も得意だし。
でも、乱れたままの感情、無意識の焦り、照りつける陽射し、そんな中でいつもと同じようにいられるはずがなかったんだ。
「………」
どれだけ歩いたのかわからない。
比較できる対象がないから、数百mかも知れないし数kmかも知れない。
いつまでたっても変わらない色彩と上がる気温。
微塵も理解できない状況とまとまらない思考。
「………」
すぐに動けなくなった。
立っているのもつらくて、その場でしゃがみこんだ。
「……ぃん………」
何も見たくなくて、頭を抱えて歯を食いしばった。
「…たす…て……」
助けてよ、もうやだ、どうすればいいのかわかんない。
「っ、助けて…」
お願い、オレもう無理。
「ちょっと! 君!?」
真っ暗な世界にその声は降ってきたんだ。
すがるような気持ちで顔を上げた。
オレがうずくまっている場所からなだらかな丘になって、その頂点と思われる少し高い位置に女の人が立っていた。
「何してんのこんなとこで!? 死ぬ気!? シャレんなんないからやめてよ!? シュイー! こっち! きてー!」
ここへきて初めて自分以外の存在に会ったオレは、願望が見せた幻じゃないかと彼女を見つめていた。
反応の薄いオレに慌てたのか彼女は向こう側を激しく手招くと、ざくざく砂丘をかけ下りる。
近づいてくる彼女は、声の調子と同じ活発そうな印象だった。…そして変わった服を着ていた。
「うわなんかボロい、大丈夫かよ。シュイっ、シュイっ、早くこっち!」
「いたのか? ってうわっ、ぼろっ!?」
「盗賊の目の錯覚ではなく、本当に人間ですか? この砂漠に? …ぼろいですが、本当みたいですね」
「ダンさーん、こっちですー。、足元平気ですか? さらしゃらしてますもんね、鎧がお辛そうです」
「まー慣れたかな? ありがとさん、で、錯覚は錯覚じゃなかったのか?」
ぼろぼろ言われてる、そんなひどいのかなオレ?
追いかけるように4人が砂丘を越えて現れた。…あれ、この人たちも様子っていうか服が…。
彼女たちはオレの所まで下りてきた。
見つかってから一言もしゃべっていないので、ずいぶん心配してくれているみたいだ。
「ねえ、大丈夫? 聞こえてる?」
絵に描いた勇者のような青年が、オレの隣に膝をついて顔を覗き込む。正統派イケメンだった。
その後ろに、これまた絵に書いた魔法使いのような青年が立って、勇者(仮)に声をかけた。理知的なイケメンだった。
「一時的な混乱でしょう。とりあえず、このままここにいるのはお勧めできません、移動しませんか?」
「そうだな……立てる? 少し歩くけど、怪我はないんだよね?」
魔法使い(仮)の意見にうなづくと、勇者(仮)がオレの右腕をとってゆっくりと立ち上がる。
やけに丁寧だな、見た目そんなにひどそうなのかな? …そう言えばぼろって連呼されてたっけ。
つられて立ち上がりながら他の3人に目を向けると、勇者(仮)の横で話し合っていたようだ。
「な? あたしの言った通りだったろ? ダンまで錯覚言ってんじゃねえっつの」
「クロウにつられてつい、な。悪い悪い」
「ごめんちゃいです、メグちゃん」
「謝り方が可愛すぎて謝ってるように聞こえない…、ってかマリーも信じてなかったのかよ!? 酷くね!?」
「…てへ」
「てへ」
「ダンきしょい!」
胸を張ったり怒ったり忙しいのは、最初に声をかけてくれた女の人だ。言葉遣いが荒いけどいい人そうで、彼女みたいな人を強気美人って言うんだと思う。
鎧だらけの青年は爽やかなイケメンで、背が高く体格も立派な戦士のようだ。…いいなー、オレもあれ位たくましくなりたい。
言葉も動きも可愛い女の子は、ゲームに出てくるシスターみたいな華のある修道服を着ていた。お姫様みたいな雰囲気があって、ふわふわした可愛らしさがある。
そうやって一人一人を観察して状況理解に努めていると、少しずつ心が落ち着いてきた。一人じゃないってのは大きい。
オレの変化に気づいた魔法使い(仮)が、穏やかに笑って歩みを促した。
「向こうは気にしなくていいですよ。今はとにかく、落ち着くことが先決です。行きましょう」
「ゆっくりでいいから、ついてきてくれる?」
とられたままの腕を引かれてつんのめると、とっさに魔法使い(仮)が肩を支えてくれた。勇者(仮)がきつい視線を投げられて「ごめん」と慌てる。
歩き出したオレたちに、騒いでいた3人も追いついて隣に並んで歩いて行く。
助けてくれる相手に出会い、絶望の淵から離れられたオレは、一番気になっていることを尋ねようとした。
「…どこ?」
「え? ああ、すぐ近くにオアシスがあるんだよ。そこで休もう」
「顔色わりぃな、先に水飲んどく? おーい、水袋ちょーだい!」
ごめんなさい聞き方間違えました。水は嬉しいけどそれよりもこっちが気になるんです。
「ここ、どこ…っ」
「黄昏砂漠ですよ、はいどうぞ、お水です飲んでください」
「たそがれ?」
「おう。さすが、昼前なのに日差しきついな。オレの影歩け? な?」
言い直した質問に答えてくれたのはシスター(仮)だった。けれど、それはオレが欲しい答えじゃない。いや、ある意味は解決になるのかも知れないけど、決して喜べる答えではなかったんだ。
水袋とやらを受け取って、だけどそれどころじゃなくて。
「オレ、どこに来ちゃったの…?」
不思議そうに首をかしげたシスター(仮)がにこりと笑う。
「大丈夫ですよ、シュイさんは勇者さんなんです。だから、ドーンとお任せしゃんです」
……………何それ聞きたくなかった。
「いろいろ聞くのは後でいいから、先ずは日陰に座って。体を休めないとね」
「ほら、水飲んどけって。結局ここまでふた開けてねえじゃんか」
受け取ってからずっと握ったままの水袋を取り上げると、コルク栓を抜いて返された。
シスター(仮)さんのおかげでまたもや混乱してしまったオレは、オアシスにつくまで無口を貫いてしまった。親切にしてくれる彼らに申し訳ない。
「あの」
「水分と、それに汗で排出されてしまった塩分なども補給した方がいいですね。ダン、荷物を」
「チーズでいいか?」
「ひとかけら分下さい。さあ、どうぞ」
「あ…ありがとう、ございます」
至れり尽くせりとはこのことか。戦士(仮)から魔法使い(仮)を経由して分けてもらったかけらを、頭を下げていただいた。
消しゴム大のチーズをもぐもぐしている間に、勇者(仮)とシスター(仮)が向こうで話し合っている。
「マリーの予備の服、一枚貸してあげてくれないかな? あのままじゃさすがに可哀相だから」
「部屋着の私服なら何枚かあります。でも、スカートよりもズボンの方がいいですよね?」
「うん…そうだね、お願い」
「分かりました! お着替えのついでに、オアシスで体も拭かせてあげてはどうでしょうか?」
「あー……じゃあ、オレたちは茂みの向こうに」
「終わったら呼びますね」
「っ! ご、ほっ…ごほっけほっ」
「おいおい、焦んなくてもとったりしないから。ゆっくり食べろ?」
「けほっ、ちが、こほっ」
「はいはい」
聞こえてきたやり取りに、飲み込もうとしたチーズが変な所に入ってしまった。
今なんかとんでもないことが聞こえた気がするっ。
スカートって何? 何でオレの水浴びにシスター(仮)が残って勇者(仮)が離れるの?
嫌な予感しかしないんだけど、どういうこと?
笑いながら背中をさすってくれる強気美人さんに、オレは恐る恐る問いかけた。
「えっと、変なこと聞いてもいい?」
「うん? どうした?」
「オレのことは気にしなくていいから、正直に教えて? オレを見てどう思う?」
「? 見た目の感想を言えって事か?」
「そう」
心底不思議そうな顔を見合わせると、3人は順番に口を開く。
涙目を自覚しつつも、オレは唾を飲んで評価を待った。
「そうだなー、言っちゃ悪いけど、そんな美人じゃないよな?」
「けど不細工ってわけでもないぜ? 普通ってところだろう」
「しいて言うならば穏やかそうですね。家庭的、でしょうか」
「太ってもいなきゃ痩せてもいない、ホントに普通だな。そして勝った!」
「お前なあ。ま、まだ若そうだし、成長すれば大きくなるんじゃないか?」
「ダン、僕たちが指摘するのはセクハラになります」
「………ナンノハナシデスカ?」
「胸に決まってるじゃん」
「おっぱいの話」
「…女性に面と向かって投げる単語じゃないですよ」
「……………」
そっと胸に当てた右手には、柔らかな感触があった。
世界はいつもオレに、試練を与える所から始めるんだ。
ご指摘、ご感想、お待ちしております。