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停(テイセン)

いきなり目標を失敗しました、申し訳ありません。


案外難産となりまして、いえ予想通りな難産とも言えますが、どうにか形にはなりましたが皆さまの反応が不安です。

我が家の主人公は、いじられっこなんだ!

と言うことで、喧嘩はよくないよな13話目、始まります。


前回厳しいご指摘をいただき、ちょっとへこみましたorz

良くも悪くもすべての評価は成長の素! と思ってお腹に力を込めて頑張りたいと思います。

ただ少しorzがぶり返して更新が遅くなったときには、申し訳ありませんと先にお詫び致します。

うう…、頑張ります、はい。






「カリン! 頼むから出てきてくれないか!? カリン!」

「カリンちゃん、こいこーいですよ?」


 内鍵で閉じられた扉の向こうから、繰り返しノックとオレの名を呼ぶ声が聞こえる。

 オレはベッドの影にしゃがみこんで頭を抱え、全てを聞こえないふりでやり過ごそうとしていた。


『いいのか? アレ』

「……もう、ちょっと、放っておいて、お願い」

『ふーん……ま、オメーの好きにしてりゃいいか』

「うん、ありがとう」


 きっとにやついた笑みを浮かべているんだろうな。

 声だけでレインの表情や仕草は想像がつく。

 腕を組んで壁にもたれて、オレのこと見下ろした感じで絶対笑ってるんだ。頭の中でだけど。


『さすがよく分かってんじゃん』

「ぅー…、るさいよ」

『はい、はい(笑)』


 あ、今かっこついた。


「閉じこもってどうなるの? 出て来てよカリン!」

「しゃらくせえ打ち破んぞ!?」

「治すのは誰だと思っている、失踪しろ盗賊。お願いいたします、扉を開けてくださいませんか?」


 やだ、絶対やだ。

 ここにいる、外になんか出て行かない!


「カリン、聞こえてるんでしょ? みんな本当にあなたのことを心配してるの。だからお願い、この鍵を開けて?」

「ごめんね、オレたちもう絶対に、」

「嫌だ!!」


 もう決めたんだ!


「オレこのままここに引きこもるんだもん!!!」






「1つお伺いしたい、と言いますか確認したいんですが、あなた方は今回の依頼をどのように受け止めていらっしゃったんでしょうか?」

「…カリンの身を守り、日常生活における常識と振る舞いを教えること、です」

「よかった、そこはご理解いただいていたんですね」


 クロウさんの声には、人を嘲る時の見下した色があった。

“今はとにかく、落ち着くことが先決です”

“さあ、どうぞ”

 黄昏砂漠でオレを助けてくれた、あの心を落ち着かせる穏やかな響きは、ない。


「君たちの強さはそれなりに評価していたんだ、BBランクは決して道楽で上がれるものではないからね。それなのにこの事態。君たち、クラス昇格に浮かれ過ぎていたんじゃないかな?」

「浮かれっ…! 違います、そんなことはっ!」

「それとも慢心? “私たちなら黄昏砂漠程度問題ない”、そう思っていたんじゃない?」

「ぁ……ち、違、」

「まったく考えてなかったって言える? 100%?」

「………………思い、ました」

「ほら、それが原因なんだよ。君たちは、己が分を弁えていなかったんだ、そしてこうなった。高ランク冒険者にあるまじき考えだと思うのはオレだけ?」


 温度のない瞳、シュイさんの軽めの口調が逆に寒々しくて痛かった。

“ねえ、大丈夫?”

“そうそう。もっと気軽でいいんだよ”

“カリンを助けさせてください、お願いします”

 優しい勇者の面影は、今の彼のどこにも見当たらない。


「残念です」

「君たちは、信頼に足る人物だと思っていたのに」


 エミーさんの目元から、光る粒がこぼれたような気がした。


『バカッ待て!』

「待っ、てぇぅわやしまだっぶふいぐあづぅぇえばぶっ!」


グキャ ダンッ ゴツ ズル ガコガコガコ ベショッ ガツ


 説明しよう、オレことカリンは階段から落ちてしまったのだ!


「………………は?」

「………………え?」

「………………な」

「………………ば!」

「………………あ?」

「………………え」

「………………げ!」

「………………あ」

「………………あらあらあら」

『クッソだわけ寝起き病み上がりふらふらが階段駆け下りるとか自殺かボケ!!!』

「~~~~~~~~~!!!!!」


 いっ、いった、いったっ、いったっいっ!

 尋常じゃなくあらゆる意味でいったいです!!


「何やってるのって言うかどうしてそうなったの大丈夫!?」

「足と頭と手と肩と背中と顔とああもうどこもかしこも心配だらけよ!?」

「マリー! ルゥさん! 治癒をお願いします!」

「馬鹿者! なぜ大人しくしておらぬのだ! ようやく回復したと言うに…ええい!」

「おいおいおい、ヘタすりゃ打ち身じゃ済まねえよ」

「あまり動かさない方がいいです、どうかそのまま。そう、じっとしていて」

「はあ!? バッカじゃねえ怪我治ったばっかのやつが何やってんだ!?」

「信じらんない信じらんない信じらんない顔面強打とか信じらんない女の子なのに!?」

「挫いてぶつけて擦りむいて転がって潰れてぶつけてしまいましたね、大変です」

『ったく、オチねーと変われねーっつーのに、バカしてんじゃねーよ』

「ご、ごべんなばい…」


 全員がオレの周りに駆け付けてくれたんだろうことは分かるけど、今はそれどころじゃなかった。

 もうとにかく痛いし、恥ずかしいし、痛いし、痛いし、申し訳ないし、痛いし、恥ずかしいし、ああもう恥ずかし痛い!!

 何かいっそスコルピオグラドと戦った時よりも気持ち的に痛く感じるのは何でだろうか?

 アンサー、羞恥心分割増。多分それだ。

 と言うか強打した顔面を抑える両手が何かぬるぬるするんですけど、これってあれだよね、絶対鼻血出てるよね、骨折れてたらどうしよう、鼻の骨折は治療が激痛だって噂本当なのかな。


『現実逃避、治療受けろバカリン』

「カリン、ヒールをかける、手を退け…む、これは…」

「はいちょっと男どもあっち向けあっちー」

「鼻からお口がまっかっかーですね」

「女の子には見られたくない時があるの、鼻血が出ちゃった時とか、顔が鼻血で染まってる時とか」


 肩や背中をさすられ、ゆっくりと体を起こされる。

 すべての動作に体のそこかしこが痛んで、涙が出そうな気がした。

 情けなさを抑えるために、全力で抑えこむ。頑張れオレ、負けるなオレ。


「サリーさん、女将さんから濡らした布をお借りしてきていただけますか? ダンは救急箱を」

「構いません、女将さんは確か自室に戻られると言っていましたから…」

「ヒールをかけるんじゃなかったのか?」

「程度の軽い打ち身は、自然治癒に任せた方が体のためです」

「あー、了解」


 怪我の大きな箇所をルゥさんとマリーちゃんの《ヒール》が癒してくれる。

 痛みが薄らいで行き、恥ずかしさに内心のた打ち回っていた感情も少し落ち着いて、オレは周囲を見渡す余裕を持つことができた。

 サリーさんから濡らした布を受け取ったメグさんとルゥさんが、ぶつぶつと小言を呟きながら鼻血塗れの顔と手を拭いてくれる。恥ずかしすぎる、のに自分でやろうとしたら睨まれた。何で!?

 ダンさんはシュイさんに救急箱を渡すと、全員が慌てて立ち上がったためにあれてしまったテーブルを整えている。あ、サリーさんとニナちゃんが合流した。

 クロウさんはオレの足元に膝をついて、一応は《ヒール》で治した捻挫に大事を取って包帯を巻いている。

 シュイさんはクロウさんの指示に従って箱から包帯、ハサミ、留め具を順番に手渡しながら、エミーさんと一緒に他の打ち身や怪我の具合を調べている。


「肩が少し酷そうだね、ここもヒールをかけておこう」

「背中は…すみません勇者様、ちょっと顔を」

「ああうん……いい?」

「ありがとうございます、ここも必要かと」

「そう。マリー、お願い。腕は?」

「そちら側はお願いします。…右手は問題ないようです」

「左は肘の辺りがよくないかな、ルゥさん、ここに」


 労わるように、温めるように、オレに触れる手の平はどれも以前と同じで、何ら変わりないように感じた。

 でも、この人たちは、ついさっきまで睨み睨まれ、一方がもう一方を責め立てていたんだ。

 それなのにオレが1人間にあるだけで、こんなにも優しい。


 違う。

 対立を作った原因は、オレ。

 オレの、せい。


「…んで」

「え? 何か言った? 他に痛む所があるの?」

「カリン、大丈夫? 無理しなくていいわ、痛むなら素直に言いなさい」

「どうしましたか、カリンさん?」


 かすれた小さなつぶやきも拾い上げてくれる、気にかけてくれる。

 ほら、何て、優しい人たち。

 オレのせいでねじれてしまった、優しい人たち。


「、何で」


 鼻の奥がつんとする。


「シュイさんは優しいよ」


 目が熱い。


「エミーさんは優しいよ」


 だめ。


「みんな優しくていい人たちだよ…!」


 オレに泣く資格はない。


「何で傷つけて傷つけられないといけないの!?」


 辛いのはエミーさんたちなんだから。


「オレっ! そんなのやだよ!!」

「っ、カリ、」

「やだよ、何でシュイさんが、クロウさんが、エミーさんたちを責めないといけないの? シュイさんは勇者様でかっこよくって温かいのに、クロウさんは賢者様で知的で人を思いやれるのに、そんな2人が一生懸命だった4人を、ヴァルキリアスを追い詰めてるのなんて見たくない! 聞きたくない!!」


 視界の端で目を見開くシュイさんが見えた。誰かが息を呑む気配も感じた。

 きっと、8人とも、オレに注目してる。

 オレの言葉を聞いてくれている。


「エミーさんたちは悪くないっ! 怪我しながら死にそうになりながら、必死にオレを守ろうとしてくれた! 助けようとしてくれた!! オレのせいなのに! 悪いのは全部オレなんだよっ、後先考えずに首を突っこんだオレなんだ! エミーさんたちは少しも悪くない!! 悪いのはオレで原因もオレで、ただ迷惑かけられただけなんだから!」

「カリン、いいの」

「よくないっ! ちっともよくない! 話を聞いて、ちゃんと聞いてよ!? シュイさんもクロウさんもあんな怖い人じゃないでしょっ。本当はもっとずっと優しい人で、今みたいにどじやったぼくを焦って助けてくれる温かい人で、すごくすごく頭のいい人たちなんだからっ、ちゃんと聞いてよ分からないはずないんだから!!」

「カリンさん」


 叫ぶ度に体に小さな痛みが走る。

 自分の声がぶつけた頭に響く。

 全部、ここにいるみんなの優しさの証。


「聞いてよ! 何があったか! どうしてこうなったか! ヴァルキリアスの話を聞いて! 間違った判断で責めないで! 理由をちゃんと確認して!」

「あ…」

「嫌なの!! 優しい人が恨まれるのも、優しい人が傷つくのも、ここにいる中で悪く思われていい人なんか1人もいないんだからぁ! 怒られるのも責められるのもオレだけでいいんだよ! 悪者オレ1人、後みんな善人、はいおしまい!」

「それは違、」

「違わない! それでいいのそうなんだから! オレのっ、せいなの!! 何かもう何言えばいいか分かんなくなって来たけどお願いだから!」


 無茶苦茶を言っている自覚はあっても、オレはオレを止められなかった。

 これだけは、言わなければいけないのだと強く、強く、感じていたから。


「もう…! 喧嘩しないでぇ……っ!!!」


 今のオレの、心からの叫びだった。




 それから誰1人口を開かず、オレの荒い呼吸だけが食堂に聞こえていた。

 それが収まるにつれ、心も落ち着いてきたオレは、しんと静まり返る場の雰囲気にだんだんといたたまれなくなって来た。


「(どうしよう!?)」

『何が?』

「(顔あげらんない!!)」

『知るか(笑)』

「(レインのばか!)」

『(笑)』

「(ぶわかああああ!)」


 とかなんとか脳内会話もどきをしていると。


「カリンさん、1つよろしいかしら?」

「あっ、えっ、はい! ったぃ」

「ふふ、かしこまらなくてもいいのですよ?」


 思いもよらぬ方向から声をかけられて、オレは反射的に姿勢を正してしまった。うう、背中痛い…。

 整えたテーブルから離れて、オレの前に屈みこむサリーさん。

 白魚の様な手がこちらにのばされ、頬をそっと包んだ。

 何を言われるのかさっぱり見当がつかないオレは、されるがままに彼女を見上げた。


「実は、先程から思っておりましたの。カリンさん」

「は、はい」

「男性が同席する前でその姿のままでは、後後すごく後悔されないかしら、と」

「………え、と?」

『(笑)』

「え?」


 よく分からないままのオレを置いて、レインのかっこ笑いを皮切りに周りが顕著な反応をくださいました。


「あ、…っぷ、ごめん、何でもない」

「わっしゃぐっしゃ大変そうですね」

「っく、すまぬ、カリン、つい、っくく」

「な…に、が?? え?」

「うわぁ…これは、気づかなくてごめんなさい」

「っ、っ、すみっ、ませっ、っ!」

「ぶっは! ひっでえ! マンザイかよってな有様だな!」

「ぐ、具体的に言うとねっ、っごめんやっぱ言えない笑っちゃう!」

「ま、待って、鏡。鏡、ないの?」


 おろおろと周りを見回すオレを憐れに思って…そんな訳ないね、面白がって、レインがオレの現状をつぶさに報告してくださいました。


『髪は寝起きから転げたの合わさって台風レベルの寝癖。上着と靴下は半脱げ、中とスカートは脱水直後。靴片方ぶっ飛んでる、ちなみに階段の途中にあるからな? んでおまけに鼻の頭が赤くなって絆創膏? みてーのがぺったり。ま、そんな感じだ』


 ………マジですか。え、それ何て…。


「………………こもる」

「ぎゃははははは…、あん? 何だって?」


 オレは無言で立ち上がった。

 脇目も振らず階段をのぼり、中段に落ちている靴を1足拾い、履いて、くるりと振り返り。

 唖然とオレを見上げる16個の目を見下ろして、高らかに宣言した。


「オレは部屋に引きこもります!!!」




 誰かが笑う顔が好き、誰かが笑いかけてくれる顔が好き。






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