アガナイ(贖)
投稿予定を過ぎてしまった(汗)
急ぎ足でぽいと投げ込んでまいります、間章、始まります。
頂いた意見を参考に、彼女視点です。
「ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ」
「!? カリンっ、どうしたのカリンっ!!?」
「ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ」
「いかんっ! 狂化になりかけている、ニナ私の杖を取ってくれ!」
「はい!」
「ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ」
「眠れカリンっ、これではお前の心が持たぬ…、頼む眠ってくれ! 漣の揺り籠、《スレプト》!」
「ああああああああああああああああああああぁ………」
「………」
「………」
「………」
「………」
「………」
「……ごめんなさい…、ごめんなさいカリン…っ!」
「エミー…」
「わた、っ。わたっ、しの、私の、」
「我ら4人の、であろう?」
「仲間はずれいくなーい……だめだよ、エミー」
「…っ、っふ、」
「次にカリンが目を覚まされましたら、みんなで、一緒に謝りましょうね」
憔悴に彩られ、涙すら流せない悪夢に苛まれるあなたに、私はどうやって償えばいいんだろう?
私の体内で嫌な音が鳴ったのを、どこか他人事のように感じていた。
吹き飛ばされた時も、打ちつけた時も、ひどい痛みと衝撃があったんだと思う。
でもそれらを感じていられるほど、私の心は真っ当な状態じゃなかった。
「あ゛う゛、っぉえ゛、ごぼ、げほっ。ガ、は、がり゛、ん゛、ガリ゛ン゛、ガリ゛ン゛!」
カリンが、カリンがたった一人で、“アレ”の前に取り残されてしまった!!
「ガ、リ゛、っ、ガリ゛ン゛!」
喉を苦い血がせり上がる、砕けた歯のかけらが舌にざらつく。
けどそんなことどうだっていい!
「ガリ゛ン゛!」
世界が歪んで、あの子の姿はおろか、囲まれているはずの敵の姿だって分からない。
これじゃあ!?
「ガ、リ゛、ン゛!!」
助けられない、助けられない、あの子を、カリンを、頼りなさ気に笑ったあの子を、助けられない!
そんなの嫌あ!!
「ガァ゛リ゛ィ゛ン゛ン゛!!!!!」
悲鳴みたいにあの子の名前を叫んだ時、世界が割れた。
「な゛っ、に゛!? ガリ゛ン゛、ガリ゛ン゛!」
まともに見えない今の私にも、ルゥが使う《ライフ・ライツ》よりも眩しい閃光が、目の前の空と大地に突き立っているのが分かった。
閃光が立つ辺りは、さっきまでの私がいた場所、あの子が取り残されている所。
「がっ、あ゛あ゛う゛ぅ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!? い゛だっ、い゛だい゛い゛」
立ち上がろうと勢いよく足を立てた瞬間、骨が肉を突き破った感触がした。
スコルピオグラドの尾に吹き飛ばされた時に、私の左足は折れていた。
それに気づかず力をこめてしまったせいで、砕けた骨がずれて神経をちぎり、筋繊維を裂き、赤くぬらつくぎざぎざの先端がくるぶしの辺りから覗いていた。
頭の先から脂汗が滴り、視界が明滅する。
歯の根がけいれんして、体中の血が熱を失うようだった。
「い゛だい゛い゛だい゛い゛だあ゛あ゛い゛い゛い゛!? い゛や゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ガリ゛ン゛ん゛ん゛ん゛ん゛ん゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛い゛だい゛い゛い゛い゛い゛」
「エミー!」
「い゛だあ゛あ゛ガリ゛ン゛ガリ゛ン゛ガリ゛ン゛ん゛あ゛あ゛あ゛い゛だい゛い゛だい゛い゛だい゛い゛だい゛ガリ゛あ゛あ゛あ゛あ゛」
「エミー!! 私の声を聴け!」
「ガリ゛ン゛ん゛ん゛」
そこからしばらくは、少し記憶が飛び飛びになっている。
多分、錯乱の状態異常になっていたんだと思う。
気がつけば半泣きのルゥに抱えられ、血や汗やよだれに砂がまぶさったひどく汚らしい恰好で私は砂漠に横たわっていた。
マナ切れを起こしかけているのか、ルゥの顔色は真っ青を通り越して砂のようだった。
「ルゥ…」
「しっかりせんか…っ、お前は、我らの頭たる存在なのだぞ? そのような体たらくで、どうする…馬鹿者、馬鹿者、馬鹿者、っ、………間に合ってよかった…」
「ありがと…、ルゥのおかげで、助かっ……!? カリンは!?」
「おい!?」
か細くつけ加えられた安堵に彼女らしくない弱弱しさを感じて、私は苦く微笑んでお礼を告げようとした。
でも、助かったと理解した瞬間、忘れていたカリンの存在が頭をよぎって。
思い出すと同時に私は、忘れてはいけない存在を忘れてしまっていた自分に吐き気がした。
「カリンはどうなったの!? あの子は無事なのっ!?」
「大丈夫だ! 今、サリーが水魔法で癒し、」
「カリン!!」
「おいっ!? 人の話は最後まで…ああもう! 待たぬかエミー!」
最悪だ、なんてことをしてるんだ、死ねばいいのに、死にたい。
周囲からすっかり敵の姿が消え去っている事実にも気づかず、私はサリーとニナが座りこんでいる場所へ駈け出した。
「サリー! カリンの容体は!?」
「エミー!? もう大丈夫なの!? ちょっと、ルゥ何やってんのちゃんと休ませて、っ!」
ニナは私が来たことに気づくと慌てて止めようとしたけれど、私は自分を気遣う彼女を突き飛ばして、カリンの体に手をかざすサリーに詰め寄った。
「私なんか後でいいからニナは黙って! サリー! どうなの!? 報告しなさい!」
「エミー」
「早く! 私の指示に従えなっ」
パアン
「!! っ、」
「エミー、落ち着きなさい、私たちのリーダー」
私なすがままに胸ぐらを掴まれ引き寄せられたサリーは、加減なく私の頬を引っ叩いた。
一瞬の熱が頬に宿って消える。
自分が焦っていたと自覚した私は、目を閉じて深く深呼吸を1度、掴みあげていたサリーの服をゆっくりと話して彼女を見た。
いつもきれいに結わえられているはずの髪が、あちこちほつれ、砂にまみれている。
私と同じエルフ独特の白い頬も、白塗りのお面のように温度を失くした色になっていた。
よくよく見ずとも、彼女だって、後ろで不安げに私たちを見つめるニナだって、疲れ果てぼろぼろの姿でここにいる。
気力と体力の限界に追いやられた不安と焦りの波打ち際でも、精いっぱいの平静を保っていた。
それは私と、何よりもあの子のために。
「…無事なの?」
「ええ、命に別状はありません。ですが、極度の疲労と思うのですけれど、眠り込んだまま目を覚まさないのです」
「…、そう」
「……サリーが治すまでね、結構ひどかったんだよ?」
視線を落とせば、力なく瞼を閉ざすカリンがいる。
皮膚に残る赤さびたかけらが、怪我の名残を教えてくれる。
彼女の目元の頬にこびりついた塊を爪先で払っていると、ニナがぽつりと話し始めた。
「さっきまでのエミーの方が、断然ひどかったから、ルゥにエミーを頼んだんだけど、でも、カリンもね、すごく、ひどかったんだ」
小さな指先がカリンの固まった前髪をつんと引っ張っても、彼女は1mmも動かない。
ニナは前髪から手を放すと、血に染まった服を示した。
宿の女将のお下がりと聞いたその服は、見る影もない無残な姿になってカリンを包んでいる。
「前から見ると、血が染みてるくらいにしか見えないでしょ? でも、背中側がね、ひっどいの。びりびりで、ぼろぼろで、それで、その下の肌もね、傷だらけ。あざはあるでしょ、切り傷はあるでしょ、皮膚がずるむけてたり、砂がめりこんでたり、もうね、ひっどいんだ。あんなにきれいな肌だったのに…、ひっどいんだあ…」
「そう、なの?」
「ニナの言うとおりです」
投げ出されたカリンの右手を救い上げ、サリーはそっと両手に包みこんだ。
「私たちのように、戦いを知る手の平ではありませんのに、まるで戦場を潜り抜けたかのような、そんな傷を負っていらっしゃいました」
「………」
「エミー?」
「…何、サリー」
私はカリンの表情のない寝顔を眺めながら、サリーの呼びかけに答えた。
「私たち、任務を失敗してしまいましたね」
「……………うん」
そこから村に帰りつくまで、私達は誰一人、何も言わなかった。
言えなかった。
「………、はあー…」
「ルゥ? …どう?」
「うむ、もう狂化は残っておらぬ。次目覚める時は、常と変らぬ目覚めとなる…だろうと、思う」
「思う、か。ありがとね、ルゥ」
「お前に言われることではない」
「うん、代わりに言ってあげたの。カリン寝てるからさ」
「…そうか。ならば受け取っておこう」
カリンが横になるベッドを見下ろして、2人は痛ましげな瞳で笑い合っている。
そんな空気が耐え切れなくて、私はベッドに背中を向けて部屋を出た。
唇を血の味がするほどかみしめると、少しだけ満足した。後ろ暗い満足だった。
ふいに背中に温かな手の平が添えられて、私は驚いて振り返った。
「誰!? って、サリー。驚かさないでよ」
「気を抜いていたのはエミーですから」
「……そーですねー。…何?」
「悔やむこと、苛むこと、ご自由にしてくださってかまいませんが、あの子が目を覚まされたら、その顔はやめてくださいね?」
「…何それ」
「ご自分の叱責よりも先に、カリンと私たちの生還を喜びなさい」
久しぶりに聞いた、サリーのお説教独特の喋り口調。
自ずと視線が地面に落ちる。
「喜ぶにも、あんな、ひどくうなされるような状態にさせて、どこをどう喜べばい、」
「そうでなければ、あの子が悔やんでしまいます。あなたは、あの子にまで責を負わせたいのですか?」
言い返せない。
いつもそう、サリーのお説教は、すべて正しく筋が通っていて、私なんかでは口答えの仕様もない。
それに、言われずとも分かっていた。
分かっていても、顔は心のままに素直な感情を映してしまう。
笑えない。
笑ってなんかいられない。
カリンは、もしかすると今だって夢の中で苦しんでいるかも知れないのに。
私は無言で、食堂へ下りる階段に向かった。
サリーも無言のまま、私の後をついて降りてくる。
「………」
「………」
「………」
「………」
「………私だって」
「私だって?」
「私だって、笑ってあの子の目覚めを迎えてあげたい! けど!」
最後の1段を思い切り踏みしめて食堂に降り立った。
「私のせいでカリンが死にかけたのに、私に笑いかける権利があるなんて思えないわよ!?」
「誰が、誰のせいで、死にかけたの?」
瞬間、私は顔を上げて凍りついた。
そこにいたのは、今1番、そこにいて欲しくなかった方々。
「ねえ、教えてくれない? …ヴァルキリアスのせいで死にかけた子って、誰?」
いつもの穏やかな雰囲気を捨て去った、勇者パーティの5人が、食堂の入り口で私を睨みつけていた。
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