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春夏秋冬  作者: 日和
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姉、千春




 「高村君家って皆仲良しなんだね」



 放課後、部活のパート練習中に我が家の話をしていると森下真未が肩を震わせて笑うとセミロングの髪が揺れた。



 「両親が共働きのせいかな?家事は気付いたら兄弟で分担するようになってたから」

 「じゃあ冬路料理上手いの?」



 鈴木麻衣がいう。ボブに揃えた髪が日差しに反射してきれいだった。



 「俺掃除とか洗濯のが専門。料理は三つ上の愁兄が得意なんだ」

 「そうなんだ。でも、将来高村君いい旦那さんになりそう♪」



森下真美が微笑んで机に頬杖をつく。制服のスカートの上に置かれたフルートがまぶしく光って目が離せなくなった。フルート部門のエースである森下真美は目が合うと微笑むから思わず目を反らしてしまった。




「駄目だよ、こいつは飽き性なんだから、こいつの姉ちゃんみたいにしっかり支えてくれる人が嫁じゃないと」


 佐藤良樹が笑いながら話に混ざってくる。フルート部門では二人だけの数少ない男子部員だ。


「姉ちゃん?そんなすごい姉ちゃんなの?」

「小さくてお人形さんみたいな顔してんだけど、なんつーか雰囲気あるんだよ。有無を言わさない」

「何それ!お人形の迫力って何よ」



鈴木が手を叩いて笑いだすが、良樹の評価が妙に当たっていてうまく笑えない。ちー姉の存在はけっこう大きい。



「本当。俺何度か冬路ん家に遊びに行って会ってんだけど、冬路なんか言いなりなの!」

「冬路はここでも言いなりじゃん!」



良樹の言葉に鈴木が突っ込んでその場を笑いに変える。この息のあったコンビは見ていてあきない。窓からの景色が段々暗くなっていく。本日のパート練習はおしゃべりで終わりそうだった。



「高村君家って楽しそうだね」

「そうかな?結構うるさくて大変だよ」



二人の漫を横目に森下真美がこっちを見るからつい顔か゜にやけてしまう。








 「ちー、つまむな。つくれ」

 「味見」



 声が聞こえてキッチンに向うと年長コンビのちー姉と唯兄がそろって夕飯作りの真っ最中だった。本日のちー姉のパートナーには唯兄が選ばれたらしい。



 「ただいま」

 「おかえり冬路。今日はハンバーグだよ♪」



 微笑みを浮かべながら味見と称してスープのつまみ食いをしようとするちー姉をおたまを取り上げた唯兄が阻止する所だった。小柄なちー姉と鍛え抜かれた長身の唯兄ではまるで子供と大人のような体格差があるが、この二人の落ち着いた優しい雰囲気が俺はたまらなく好きだ。 



 「本当?じゃあ早く洗濯物畳んでる」



 二人の空気を邪魔したくなくて早々に退散した。お人形のように表情が無いと言われるちー姉がそっと気を緩めて甘えたような空気と、唯兄の明日香に見せるのとは違った優しい空気はいつからかほのかな甘さを含むようになった気がする。


 リビングに広がった洗濯物の山に手を付けながら少し遠くのキッチンでの二人の会話に耳を澄ませる。


 「最近、ちーの飯担当多くないか?」

 「愁にね、彼女が出来たみたいなの。だから応援してあげようと思って♪」

 「確かに今までみたいに毎日夕飯作ってたら遊びにも行けないもんな」 



 納得したように頷く唯兄の隣で楽しそうに微笑みながらちー姉が調理器具を洗う。



 「ね、愁はどんな子がタイプなのかな?」

 「そっとしといてやれよ。くれぐれも夏樹や冬路に探り入れさせたりするんなよ」

 「しないよ。切り札はちゃんと取っておかなきゃ」



 楽しそうな含み笑いのまま、洗った器具を唯兄に手渡す。それを唯兄がふいて、所定の位置に戻していく。



 「きっと、ちーとは真逆のタイプだろうな。愁はちーには散々な目に合わされてきただろう。昔から」

 「可愛がってるのに?あぁでも昔愁と買い物に行ったらカップルに間違えられて……あれはお互いにショックだったなぁ」



 二人で笑って、次は翌日の弁当の具材作りに取り掛かるようだ。打ち合わせもないまま息の合ったコンビネーションで次々とおかずが出来上がる。



 愁兄はなんだかんだ言いながら、内心実は一番唯兄よりもちー姉を頼りにしている、隠れシスコンな気がしている。そうして内心、唯兄と少し敵対している気もする。




 お人形のような顔に小柄な体で、実は自由奔放。それなのに何故か妙に逆らえないのは本当はそうしながらも周りを深く見渡して周りを統率していくちー姉の姿に惹かれるのは何も唯兄だけじゃないから。それでもきっと愁兄は、ちー姉が唯兄にだけ見せる女の子の顔を知っているから。



 「愁も毎日デートでもしてるのか?]

 「分からないけど、ラブラブな時期なのかもよ」



 高村家四兄弟の姉、高村千春はそっと姉の顔をしながらテーブルに皿を並べ始める。それを向いの家の幼馴染、姫宮唯がとても優しい男の顔で見つめていた。


 最後まで読んで頂きありがとうございます。

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