春のホッとココア 2
窓から見る景色が段々と薄暗くなるのを見つめながら二人で黙ってココアを飲み干した。リビングの電気を付けて、カーテンを閉めにソファーを立った背中に小さな声で明日香がポツリと言った。
「…冬路、ありがとう」
「うん♪」
携帯にちー姉から一言「飯出来たよ」とメールが入っているのを確認してから、明日香を見た。
「今日もおじさんとおばさん遅いんだろ?夕飯、うちで食べられる?こっちで食べたい?」
昔から我が家も明日香ん家も両親は共働きなため、いつの間にか夕食は子供達皆でうちで食べることが習慣になっていた。
「あっちに行く。私平気だから」
微笑んで見せる明日香を連れて家に戻ると早速ちー姉に見つかった。腫れは引いたと思ったのに、明日香の顔を見るとすぐさま濡れタオルを用意した。
「きっと明日腫れるから、少し目を閉じてその上に乗せてて」
強がってた明日香が子供のようにコクンと頷いて言う通りに行動した。昔からそうだった気がする。昔から強気な明日香は、何故かちー姉には逆らえない。濡れタオルを持ってテレビの前のソファーに寝そべる明日香の姿を確認するとちー姉はとても優しい顔をして微笑んだ。
「今日の飯何?」
「今日はクリーム煮。上手く出来たから大丈夫よ?私一人でやったわけじゃないし」
調理作業に隠し切れない男らしさがあると兄弟の中で定評のあるちー姉は先回りして言う。そういえばと思いキッチンに目をやるとちょうど夏樹がテーブルに料理を運ぶ所だった。
「夏樹と作ったの?」
「そうだけど?」
「マジで?」
「マジで」
微笑を浮かべたままのちー姉にひたすら驚きを隠せないでいると同じ顔をした双子の兄の夏樹がニヤニヤしながら近づいてくる。
「自信作だぜ。お、明日香いたのか」
「居た。兄ちゃんもすぐ来るから」
ちー姉の指示通りタオルを外さないままで明日香が返事をする。それを特に気にするでもなく夏樹は上機嫌だ。
「俺ったら今まで自分の料理の才能に気付かなかったのが残念でならないね」
「コラボ作そんなすごいの?」
「夏樹が作ったなら相当やばいじゃん」
「なにぃ?」
寝そべったままで明日香がため息をつく。一卵性双生児の僕と夏樹を明日香は目も開けずに見分ける。
「愁がびっくりしちゃうかも」
「いつもビックリさせられてるから!」
扉が激しく開くと同時に愁兄の叫ぶような声の後ろに無言の唯兄がヌボーっと経っていた。
「二人して一体何作ったの?よりによって一番いけないコラボかよ…」
力なく呟く愁兄に構うことなく二人は楽しそうに夕食の準備を再開する。
「食べるとき呼ぶから、明日香はそこにいて」
「うん」
明日香を置いて手伝いに向うと後ろから唯兄が付いてきた。
「ありがとな冬路。明日香についてやってくれたんだろ?」
声に振り向くと唯兄はたまに見せる優しい兄の顔をしていた。ひたすらでかくて三白眼な上に無口な唯兄がたった一人の妹、明日香を目に入れても痛くない程可愛がっていることはきっとその瞳を見れば一目瞭然なのに、唯兄はかなりの照れ屋なのでなかなか周りにはそれが伝わらない。
「冷蔵庫の生クリーム勝手に使っちゃった。ごめんね?」
「いや。明日でもなんか作るわ。何が食べたい?」
唯兄はこんなに優しくて、お菓子作りなんて趣味まで持っているのに。それをあまり知られていないことが残念でならない。
「甘いの。思いっきり甘いの、明日香好きだから♪」
ぐしゃっと大きな手で頭をくじゃぐしゃにされる。その大きな手が気持ちよくて笑ったら三白眼の目を細めた唯兄がやっぱり兄の顔で笑った。
「優しいな」
こんなに優しい唯兄を限られた人とか知らないなんて本当に残念だと思った。
最後まで読んで頂きありがとうございました。