春の旅立ち 2
なんかランダムだけど、ラストだからって理由で許してもらえるのかな?だって本当なら愁の番だけど、仕方ないじゃない。愁に回したら嫌みで終わりそうだし。
夜、相変わらず律儀に夕飯の片付けまで終えて家に帰るためリビングを出た唯君に追いついて明日からの新居の合鍵を投げた。受け取った唯君は不思議そうに私を見るからちゃんと教えてあげなきゃ。
「それあげる。家族以外で勝手に入って良いのは唯君だけだから」
「勝手になんか、入らねぇよ」
パーカーのポケットに鍵をしまいながら言う唯君に「確かに」って内心納得する。唯君はそんなことが出来るほど器用じゃない。
「でも、持ってて欲しいの。それでこっそり浮気調査したって構わないから。ね?」
そう言って半分強引に渡した鍵は今は唯君のキーチェーンに唯君家の鍵達と一緒に収められている。
「ちー、荷物貸せ」
東京なんて、今は高速バスであっという間だ。家族は皆して「遠い」と騒ぐけれど、実際その気になればお母さんなら愛車のトラックで通ってしまえそうだし。唯君に渡した荷物はかかりのおじさんによってバスの中にしまわれていく。何も言わないでも窓際の席に座らせて貰えたのを良いことにするりと腕をからめて手を繋いだ。
「ちょっ、ちー!」
「ここまで来たら皆いないんだから良いでしょう?」
「そーゆーことじゃなくて…」
朝よりも真っ赤になって大慌ての唯君をしり目にその手を離す気がないことを分らせるために一層強く握った手に力を込めた。周りに気付かれるのを恐れてかため息をついて降参してくれた唯君が「あ」と言って上着のポケットを探る。
「忘れ物?」
「違う。……これ」
そう言って目の前に差し出したのは私のアパートのものとは少し違う鍵だった。見上げるとまだ頬が染まったままの唯君が少し悔しそうな顔をする。
「本当は俺が先に渡したかったんだけどな」
「……私、これで浮気調査するかもしれないよ?」
「いいよ。どれだけ荒らしたって良いから、なるべく俺が帰るまでいてくれ」
これから始まる新生活は初めての慣れないことだらけなのに、今の私はとても満たされている気がした。繋いだ手はそのままに唯君に寄り掛かって頭を預けたけど、今度は抵抗する素振りも見せなかったのが嬉しくて、着くまでこのままの体制でいようと小さな決意を固めた。
「本当に東京に着いちゃったね」
薄暗くなった空に向かい大きく伸びをしながら呟くと大あくびをした唯君が「そうだな」と相槌を打った。大学を決めた時は別に一人で行く気でいたけれど、こんなときに唯君が一緒で良かったと思う。
「唯君バスで寝なかったの?」
「寝れなかったの!」
ちょっと不機嫌な唯君を少しなだめてここからは電車移動になる。ぼうっとしていたら流されてしまいそうな程人が多かったのをいいことに「はぐれちゃう」と駄々をこねて手を繋いだ。
「お前、もうホームシックか?」
若干、本気で心配そうに私を見る唯君はさっぱり乙女心が分ってない。
「違うよ。初デートを楽しみ見たいだけ!」
また真っ赤になって押し黙る唯君の手を引いて駅に向かうといきなり大音量の機械音が鳴った。
「…もしもし」
「もしもし、ちー?ちゃんと着いた?唯兄とはぐれてない?家出たきり連絡がないから心配してたんだよ。ほら、ちー姉って知らない道でも自信満々で進んで行って迷うことよくあるからさぁ」
まくし立てるような愁の声の奥で双子達の声が聞こえる。
「誰?」
「うちの第二のママ。双子の声もするから、多分明日香ちゃんも近くにいるよ。代わる?」
「いや。怒鳴られそうだから辞めておく」
そうしてふとお兄ちゃんの顔で笑う唯君は自分の携帯を取り出した。すっかり忘れていたけれど、多分唯君はマメにメールで連絡をしていたんだろう。関心していると携帯から愁の早口の声が聞こえる。
「ちよっと、聞いてるの?大体何で心配してるって分ってて連絡の一つも寄越せないかな。だからちーは…まさか、連絡が出来ないようなことでもしてたんじゃ?ちー、唯兄出して、隣にいるんでしょ?」
「バスで寝ちゃっただけだから、そんなに捲し立てることないじゃない。唯君とはもう別ルートだから別れちゃったの」
「嘘だ。唯兄がちーを一人で行かせるはずないよ。どーせトイレかなんかに行ってるだけでしょう?」
我が家のママはなんでもお見通しだ。電話から声が漏れて内容が聞こえたらしい唯君と顔を見合わせて思わず笑ってしまった。
「俺の所にも愁達からメール来てた。お姉ちゃんは人気者だな」
皆それぞれ、離れ離れになったり、難しい年頃で口にできない悩みを抱えることも少なくないと思う。今だって全部を分って全部を皆共有しているわけじゃない。それでも、皆気にしてて心配してくれる。私の帰る場所はそこなんだなって、離れて初めて実感した。大丈夫、それでも私達は家族なんだから。
「大丈夫よ愁。そんなに心配しなくたって、私達はどこにいたって家族なんだから。ちゃんとそっちに帰るから」
「はあ?分ってるよそんなこと。ってゆーかちーはここ以外にどこに帰る気でいたの?まさか、唯兄ん家に帰るなんて言わないでよ?」
シスコンが治らない弟をなだめるのは時間がかかりそうだ。もちろん、未来の家族の唯君はその間何も言わずに時折電話口から漏れる愁の声に優しく笑いながら傍にいてくれた。
最後まで読んで頂きありがとうございました。
「春夏秋冬」これでラストになります。
ありがとうございました。




