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春夏秋冬  作者: 日和
12/21

秋には秘め事を 3




 唯君からのメールを確認してから電車を降りた。唯君からの提案で今日は二人で下校途中の駅近くにあるスーパーで買い物をして帰ることになった。愁を夕飯時まで家に帰らせないようになってからは唯君が積極的に協力してくれるのはとても助かる。


 少し肌寒い風が吹く中待ち合わせの改札前に着くと見慣れた姿を見かけた。しかし今日は、これからはその人に用事は無かったので知らんぷりして唯君を待とうと携帯を片手に近くの柱に寄り掛かった。



 「ちーちゃん!」



 とっさに他人のふりを出来るはずがなかった。懐かしい屈託のない笑顔を向ける冬馬君は傍に来るとセーターの中に引っ込めた手を見つけてさっと自分のマフラーを私に巻いてくれた。そうしてまっすぐな瞳で私を見る。その瞳に見つめられて一瞬時間を巻き戻したくなる。



 「ねぇちーちゃん、俺あれから考えたんだけど俺の一番ってやっぱりちーちゃんだよ。有希子さんのことが心配なら今度ちゃんと紹介するから、だからもう一度やり直そう」



そっと手をとった冬馬君の手はあの時みたいにかすかに震えていて冬馬君を見ると苦笑して呟いた。



 「ってゆーか、俺がちーちゃんがいないと駄目なんだけどね」思わずその震える手を取りそうになってはっとした。



 冬馬君は優しい。優しくて、どこか寂しがり屋で一人では居られない。だから私が必要。本当はもう倒れそうになっているポロポロの心を私にさらけ出して癒されることを望んでいる。有希子さんには何らかの理由があって、今はそれを望めないから。けれどそれをしてしまったら後に冬馬君自身が一番傷つくことになる。私を傷つけたこと。有希子さんを傷つけることに。

 大きく深呼吸して冬馬君を見つめる。やっと決めた。冬馬君を傷つけること。



   ここでその場限りのぬくものを与えてはいけない。




 「私の一番はもう冬馬君じゃないの。ごめんね」



 優しく巻いてくれたマフラーを外して冬馬君に突き出すけれど、冬馬君は首を横にブンブン振っていやいやをしてみせる。



 「嘘だよ。ちーちゃんに新しい彼氏が出来たとか、好きな人が出来たなんてウワサ聞いてないし」



 ……なかなか鋭い所をつく。言葉に詰まると体制を立て直した冬馬君は得意気に続ける。



 「ちーちゃんだって自分で気付いてるでしょ?「三年のお人形さん」って、一年の間にも知れ渡ってる位人気あるんだよ。そんなちーちゃんに何かあったら絶対すぐウワサになるでしょ」



 もちろん知っている。「笑わないお人形」として一部の生徒が面白がって陰口を叩いてることも、私の交際周期が短いことから「お人形は男遊びがお好き」だと言われていることすら。





 今度こそ、打つ手がない。どうしたもんか考えているとタイミング良く唯君の姿が見えた。ホッと胸を撫で下ろして冬馬君に向き直った。




 「今回はウワサが流れるのが遅かったのかもね」

 「えっ?」

 「明日から、冬馬君に君が発信源になっても良いよ」



 そこまで言うとマフラーを押しつけて唯君の所まで一目散に走った。私に気付いた唯君が訝しげに私を見たけれどそんなのお構いなしで突っ込んだ。冬馬君に見せつけるつもりで力を入れて唯君の制服を掴んで抱きついたけれど、どうにも身長差がありすぎて子供が大人にじゃれているようにしか見えない。





 「ちー?どうした?何かあったのか?」



 そっと頭の上から唯君の優しい声が降ってきて大きな手があやす様に頭を撫でた。



 「何でもないの。遅いから心配しちゃった」

 「悪かった。下駄箱で担任に捕まったんだ……お前、そんな格好で待ってたのか。寒かっただろう」



 柔らかく笑うとふわっと私の首に自分のマフラーを巻いた。中に埋もれた髪を大きな手がそっと包んだ。



 「これで良し。さ、行くか。まだ特売残ってるといいなぁ」



 妙に所帯じみたセリフに現実に戻されながら、茫然とこちらを見つめる冬馬君を見つけてにこやかに手を振った。それに気付いた唯君が微笑みを浮かべて会釈した。これで本当にさようなら。冬馬君。









 「……さっきの、またふったのか」



 スーパーからの帰り道、家までの道のりを荷物を抱えながら唯君が私を振り返る。きれいに色付いた紅葉の葉が付く木々を見上げながら頷いた。



 「仕方ないね。私ワガママなんだもん」



 笑って誤魔化そうと表情を窺うと泣きそうな顔した唯君が私をそこから動けなくした。




 なんで、どうして唯君はそうやっていつでも優しいんだろう。どうして私の勝手に付き合ってくれるんだろう。何で怒った顔の一つも見せないんだろう。何で私は、そんな唯君を振り回すことしか出来ないんだろう。




 「ちーも、ちゃんと幸せになって良いんだぞ」




 柔らかく笑った唯君が言った言葉が、何故か胸の奥深くに突き刺さって離れなかった。



最後まで読んで頂きありがとうございました。

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