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春夏秋冬  作者: 日和
10/21

秋には秘め事を


 秋

     (長女千春語り)


 「私達、別れようか」





 放課後の下校中、歩幅を合せて歩く優しさ溢れる彼になるべく穏やかに告げた。夏のギラギラした暑さはとうに通り過ぎ、肌寒さと一緒に木々は赤く色付きキレイに紅葉を魅せていた。




 「なんで?俺はるちゃんに何かしちゃった?」



 体を二つに曲げて目を覗き込んでくる瞳は冷静を装いつつも揺れていた。その儚げな所がちょっと好きだったなと思いふけてみる。



 「何もしてないよ。でも、冬真君にもう無理して欲しくないの」



 分かっていながら言ったズルイ言葉に冬真君の瞳は今度こそ動揺を隠せなくなる。春から付き合い始めた一つ後輩の冬真君は誰かのために必死で大人になろうと足掻いている。

彼の等身大の子供な部分を彼はけして認めずに蓋をする。そんな所がいじらしくて、惹かれていた。



 「それ、どーゆーこと?はるちゃんと付き合うことが無理なの?」



 制服の袖から出したキレイな手が私の制服の袖を掴む。その手が微かに震えていることに気付かないフリをした。



 「冬真君を凄く好きだけど、私の一番は冬真君じゃない。冬真君が本当に好きな人も、別にいるはずだよ」

 「何だよそれ。本当に好きな人って何、とにかく、ちゃんとどっかで話し合おうよ?」



 怒ることで動揺をかくしてみせる冬真君はとても弱くて、壊れそうな気がした。



 「有希子さんって、誰?」


 彼の目を見れずにいった言葉に、私の袖を掴んだ手が力なく離された。



 「なん、で……」



 「何度か寝言で聞いたことあるの。冬真君は今、本当はその人のために必死で大人に刈ろうとしてるんじゃない?」



 顔面蒼白で物言わぬ彼に背を向けて歩き出す。簡単なウソも見破ることが出来ない彼を少し可愛いと思う。本当は私は全部知ってしまっている。有希子さんが冬真君にとってかけがえのない人であることを。




 「はるちゃん、有希子さんは、確かに大事な人だよ。だけど、そ~ゆ~んじゃなくて、なんてゆーか姉貴みたいな」 

 「冬真君はそれが不満なんじゃない?弟なんかじゃないって認めて欲しくて、夢中で手をのばしてるの。無自覚かもしれないけど、冬真君はずっとその有希子さんを追いかけて走ってる」



 駆け出して私の腕を掴んだ手に力が入っていたけれど、その手を静かに外してもう一度冬真君を見た。



 「冬真君と一緒にいれて楽しかったよ。今度は、ちゃんとお互いの一番と向き合わなきゃ」




 今度こそ何も言わずにいる冬真君を置いて、振り返ることなく進んだ。頬に一筋の涙7を流しながら「私の一番って一体誰のことだろう?」と思った。











 

 「今日から、少し余裕が出来たから私が夕飯とか作るから愁は遊んでおいで」朝食の厚焼き玉子を摘みながら1つ下の弟の愁に告げるとアーモンド型の涼しげな瞳が私を捕らえた。


 「別にそんな遊びたい年頃でもないけど?」

 「生徒会とか、色々あるでしょう?タイムセールとか気にしてたら集中出来ないし。私だいぶ上手になったから、やらせて。ね?」



 半分強制的に弟を頷かせると四つ下の双子は揃ってビー玉のような丸い瞳で食い入るように私を見つめていた。その様子を父だけが穏やかな顔で優しく頷いた。


 

 「お父さん、今日しょうが焼きが食べたいなぁ」

 「任せて。スーパーのタイムセール行って来る♪」

 「ちーの高校からダッシュして間に合うのかよ」


 双子の片割れ、うるさい方の夏樹が味噌汁のお代わりを突き出しながら言う。


 「じゃあ俺が行くよタイムセール」 


 すかさず名乗りを上げたのが双子の穏やかな方の冬路。


 「え?何で?お前部活は?」

 「俺しょうが焼き食べたいし」

 「いや、俺も食べたいけどよ」

 「久々だからワクワクするよね」



 焼き鮭を口に運びながら微笑む冬路に夏樹が白旗をあげそうになる様子が手にとるように分かって面白い。



 「じゃあ冬路、よろしくね」

 「分った」



 私と冬路のやりとりを愁が不思議そうに見ていた。今ではもう、自分が夕食を作るのが当たり前位に感じているんだろう。




 愁はきっと私達兄弟の中で一番真面目で責任感が強い。生まれてくる順番を間違えたんじゃないかとたまに思うくらい。だから、だからこそ今は遊んできて欲しい。大きな声で言うわけにはいかないけれど、春に付き合い始めた彼女と別れた様子はないし、その彼女といちゃついてきたって構わない。とにかく、愁には愁の時間を過ごして欲しい。



  「今日から、夕飯前には帰って来ないでね!」




 玄関先、困惑顔の愁に念押しをしてから登校した。その様子を訝しげに見ていたお向かいの家の唯君に電車の中で「ケンカでもしたか?」と聞かれた。




 高校までの道のりは途中まで一緒だから、よくこうして一緒に電車に乗る。通勤ラッシュの電車は混んでいて座れたためしがない。長身の唯君は吊革じゃなく、銀の柱を掴めるから余裕だけど、私はいつも人に押し潰れそうになる。



 「ちー。ここにいろ」




 唯君がいると、いつもいつも扉に背をつけて立っていられるから少し楽だ。私がもたれる扉の窓に手を置いて少しスペースを作ってくれるからこうしてお喋りもできる。




 「ケンカはしてないよ。愁に、自分の時間を作って欲しくて。私最近余裕が出来たから夕飯作るようにして愁にはその分自由に遊んできて欲しいの。姉としては、彼女との行方も気になる所だし…」

 「姉として、ね」



 顔をのぞいて疑わしげな表情を見せる唯君に怒ってみせた所で名案を思い付いた。



 「唯君、今日家で生姜焼き食べない?」




下心が見え見えなはずの私の名案に相変わらず私を庇った格好をしたままの紳士な唯君はとても優しい顔で笑った。その顔を見るたび、妙に胸がざわつく。だけどそれは、唯君には内緒。




 最後まで読んで頂きありがとうございました。

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