その22~来ないのならばこっちから行こう~
あの日からイスカは薄い青みがかった水晶の中で虚空を見つめ続けていた。
「この魔法も効果無しか・・・」
水晶の中に封じられたイスカを助け出すためにアラクネ達ドールズにより三国中からは情報を集めては解除を試みていた、そして今日もその試みは失敗していた。
レオの《無》の力を使ってこの封印を壊す事もできなくはない、と思われるが術と共にイスカも消滅させてしまう可能性が高いので、うかつに試す事もできない。
今現在わかっているのは人が使う魔法の継続期間はそれほど長くは無いので何事もなくこのまま時が経てば自然と封印も薄れて解除されると言う事、これは過去の伝承や封印された魔物の封印補強の儀式の必要性などから言ってもおそらく正しいだろう、そしてこれまでの試みでわかった事はイスカが受けた封印術は周りを魔力で固める防御術に近いものだと言うこと、魔力がイスカの周囲を高密度に集まった結果、時の流れからも隔離する封印のようになっていると思われる。
「マスターの残存魔力が4割を切っております、少しお休みください」
アラクネが忠告してくるが魔力がいくらあってもイスカを助けられなければ無駄だ。
「ナナシ、少しいいかしら?この家【という名の城】に集まった獣人達の中にイスルギから来た人たちがいてね、魔王が持っている魔法具に解呪が使えるものがあるらしいのよ」
「本当でございますかフィル様?」
「その獣人達の話だと魔王が仲間にかけられた呪いを解くところを見たことがあるって言っていたわ」
「魔王だろうがなんだろうがイスカが助かるんならその魔法具いただきに行くぞ」
「魔王などと大層な名前をしておりますがおそらく全盛期ほどの力は残っていないでしょうからマスターの敵ではありません、ですのでひとまずお休みください」
アラクネの瞳が紅く輝くと扉が開き多数のドールズがなだれ込んでくる。
「マスターをベッドへお連れいたします」
「マスターをベッドにくくりつけます」
「マスターを人形肌で暖めます」
「マスターをクンカクンカします」
ドールズによってナナシが連れ攫われた後にはドールズにもみくちゃにされ、床に倒れているフィルとアラクネが残っていた。
「フィル様、そのような体勢を続けておられると踏んでしまいますよ?・・・私に」
「踏みながら言わないでよっ!」
「元気そうで何よりです」
「貴方達のおかげで元気ではなくなりそうだったけどね」
「ハッ!ハッ!ハッ!ゴジョウダンヲ」
「棒読み!すっごく棒読み!」
「それはさておき、私は少し用事が出来ましたので出かけてきます、ドールズへの命令を許可しておきますので、フィル様マスターとこの家を頼みます」
「そう、いってらっしゃい、ムチャしちゃダメよ?」
「ええ、もちろんです」
ナナシの自室は部屋の主がベッドに括り付けられ無数の人形にそれを取り囲むというさながらホラー映画のようだったとか。
「『アラクネ』報告があります」
「続けてください」
「ドールズより報告、魔王の所持する魔法具の件ですが以前公の場で使用されたのは勇者との対戦を最後に、使用されていないそうです。それから勇者はその対戦の傷が原因で死亡しているという噂があります、例の勇者がハーレムを作っているという情報の確認を提案いたします。」
「勇者に対する詳細情報を挙げなさい、魔王の方はしばらく様子を見ます」
「了解しました」
アラクネと同じ顔をした人形は報告を終えると影の中へと沈んでいった。
「イスカ様、貴方様がいないとマスターもあの通り無様なものですよ」
部屋に一人残ったアラクネは、クリスタルの中で眠っているようなイスカへ、語りかけるようにそっとつぶやいたのだった。
「ふっ、あの城は俺の手作り、すなわち抜け道なんかもどっさり仕掛けてありますとも!とりあえずはあそこの魔王様とやらに、魔法具をもらいに行きましょうかね」
ナナシは自室に戻るなり非常用の隠し通路を使い、外へ抜け出し魔都イスルギへと向かっていた。
だが、少し平静さを取り戻していた彼は自室に手紙を残してきた。
アラクネおよびフィルへ
ちょっと魔王凹ましてきます、
アラクネにはイスカの警護、他のドールズへの指揮を、
フィルは集まってきた人たちの対応を任せる
ナナシ
・・・アレは手紙とは言わんぞ、書置きもしくはメモといった程度だろう・・・
細かい事は気にスンナ!一番いいのはチャっと行ってバキッと倒してバレル前にチャっと戻ってくるのが理想だよな
・・・それは無理がありすぎるだろう・・・
身体能力を強化し、魔都イスルギを目指すナナシの周囲を囲むように地面からモンスターが湧き出してきた。
「何だこいつは」
・・・自然に発生したモンスターの類ではなさそうだな・・・
「ということは俺への歓迎って事か!《ファイアーランス》!」
炎の槍が目の前の敵を焼き尽くすが、倒した先から次々とモンスターが沸いてきている。
焼き、切り裂き、潰し、凍らせ、砕いても敵の数は減るどころか増える一方だった。
「おい、キリが無いぞ!」
・・・これは、《虚無》を使え、生半可な攻撃では奴らが増えるだけだ!・・・
「魔王様、森に配置した罠に道化師が掛かりました」
「そうか、《虚無》の攻撃は最強であっても無敵ではない事を教えてやろうではないか!」
イスルギの城に集まった異形のモンスター達は魔王が腕を振るうと全てが幻であったかのように転移していった。
「コレで最後だぁぁ!」
《無の槍》を最後の一匹へと突き立て倒す、槍の刺さったモンスターは皆、空気に溶けるように消えていった。
「いつにもなく疲労感があるのは魔力が尽きかけているせいなのか、モンスターが使ったなにかしらの術のせいなのか」
わからないが、と続けようとしたがその先の言葉は出ることは無かった。
「うむ、なかなかどうして・・・よい勘をしている、あのまま避けねば二つに裂いてやったというのに」
「生憎、まだ死んでいられないんでね、そこを通してもらうよ」
「面白い、まだ俺に向かってそんな口を聞く奴が勇者以外にいたとはな!第・・・何代目かの魔王の力見せてくれる」
「お前をとっとと倒して魔王のところまで行かせてもらおう・・・魔王?」
「ん?いかにも俺は魔王だが?」
自分が何代目なのかも覚えていない魔王は大振りな剣を闇から取り出すと目の前に構えて嬉々とした表情で言った。
「魔王と戦うと言ったのだ、せめて俺が全力で戦える位の実力は持っているんだろうな!」
その時ナナシは思った。
魔王ってもっとクールで、玉座に座って待っているイメージが、あったんだけど部下も連れず、自分の国ですらない所で強者に、エンカウントしてくる魔王って嫌だなぁ・・・と




