20 分かっちゃった
「……そっか。」
唐突にその答えに辿り着いて、俺はフッと笑ってしまう。
最初見た時は綺麗な顔だなって思って、天から落ちてきた天使様か何かだと思ったが……なんだかその顔は無表情だし、いつもつまらなそうな顔をしていた。
でも、そんな顔が少しづつ変わっていき、幸せそうな顔を見せてくれる様になると、多分俺はそれが嬉しかったのだ。
こんな『普通』な俺でも、誰かをこんな幸せな顔にできるんだって。
『源は俺の側にいて!』
『それをちょうだい!あれもちょうだい!!俺以外の誰にもあげないで!!』
俺が持ってるものなんて全部『普通』。
多分そこらへんのコンビニでも買えちゃうくらいなのに、翔は全部欲しがる。
すると、『普通』だったソレは、あっという間にキラキラ光る宝物へと変わり、それを翔にあげると、ニコッ!と幸せそうな笑顔を見せてくれた。
嫌だと思っていた事でも、ホントはそれが好きだったのか……俺は。
新たな自分の気持ちを知って、ジ~ン……と感動してしまい、思わず鼻を啜ってしまった。
するとそれを見た蝶野さんは、嬉しそうに大きく口元を歪めた後、俺の両手をギュッ!と握って上目づかいで俺を見上げる。
「泣かないで!根本君!皆っ!もうこれ以上止めてあげようよ!根本君だって何か理由があったんだと思う!」
「蝶野さん優しい!でも、俺はこんなヤツが同じ会社にいるなんて反吐が出るよ。
朝イチで人事に言ったから。」
「俺も無理。吐き気がしそう。男同士もアウトなのに、複数に体売って貢がせてるなんてマジムリだわ~。」
シクシク泣き出す蝶野さんと、笑いながら俺を睨みつける取り巻きたち。
そして俺の後ろには、戸惑いながらも蝶野さん達を睨むアズマと和恵、部署内の社員達と……その場は結構な混乱状態になってしまった。
……どうしよう。
本気で困ってオロオロしていると、部長と人事のお偉いさんらしき人が突然部署内に入ってきて、俺と蝶野さん達を見て厳しい顔つきをする。
「あ~……朝から随分と騒ぎになっている様だが……根本君。これについて君は何か知っているか?」
部長が俺の嘘の悪口が書かれた紙をペラっと前に出すと、俺は首を横に振った。
「いえ……全く存じません。」
「……ここに書かれている事に身に覚えはある?」
今度は人事の人がそう言いながら『男を相手にする店で働いている。』と書かれている部分を指差すが、それについてもしっかりと首を横に振る。
すると二人はフゥ……と大きなため息をついた。
「流石に行き過ぎている内容だから信じてはいなかったが……一体誰がこんな馬鹿な事……?」
「全く……会社中にこんなの張るなんて普通じゃないよ。
まぁ、でも夜間の監視カメラは回っていたから、犯人なんてすぐ分かるけどね。」
怒りを滲ませながら、部長と人事の人は蝶野さんとその取り巻き達を睨みつける。
どうやら既に二人はその犯人の証拠らしきモノを持っていて、俺には事実確認に来ただけの様だ。
それに気付いた蝶野さんと取り巻き達は、明らかに動揺した様に目を泳がせたため、全員がこの騒動の犯人が誰なのかを知った。
『よかった……翔に迷惑かけないですみそうだ。』
真っ先にそう頭に浮かんで悶々としてしまったが、目の前の蝶野さんが小さく舌打ちしたため、直ぐに意識は蝶野さんへ。
蝶野さんは俺だけに聞こえる様に「……うざっ。」と呟いた後、突然ワッ!と泣き出した。
えっ?何だ??何だ??
呆気にとられて固まっていると……蝶野さんはとんでもない事を言いだした。
「わ、私……私~……!実は学生の頃、根本さんに酷い事を沢山されたんですぅ~!!
空野君っていう彼氏と結婚の約束だってしてたのに、根本君が嘘を吹き込んで別れる事になって……!他にも沢山被害者がいます!」
「…………はっ???」
あんまりな大嘘にびっくりして固まってしまったが、それをチャンス!とばかりに蝶野さんは更にペラペラと嘘を吐き続ける。
「だから当時から根本君は凄く恨まれていて……このままじゃダメだって、勇気を出して止めて欲しいって言ったんです。
そしたら……それからずっと陰湿な嫌がらせをされました。
ここで偶然再会して、もうあの頃の根本君じゃないんだって許したのに、根本君はその頃と全く変わってなくて……私すごく悲しい!」
「????」
真実が一つもない事に驚きすぎて言葉も出ず……。
ただポカンとしていると、今度は怯える様にプルプルと震えだした。
「しかも副業までしているって、本人が自慢する様に言っていたのを偶然聞いてからは、元同級生として止めるよう説得したのに怒鳴られてすごく怖かった……っ!
私はただ根本君に自分を大事にして欲しかっただけ!
今回の事件をキッカケに、ちゃんと心から愛せる人を作って、その人だけを真摯に大事にできる人になって欲しいの!」
うっうっ!と嗚咽混じりに語られる大嘘に、とうとう白目を剥いてしまったが、蝶野さんの取り巻きたちは信じたらしい。
戸惑っている部長と人事の人に、文句を言い始めてしまった。
せ、せっかく場が収まりそうだったのに……!
絶句して見つめる俺を、蝶野さんが正面から見返しフッと鼻で笑った瞬間────……。
「源~。お弁当忘れてたよ?」
全く空気を読まない声が入口から聞こえ、全員が口を閉じてそちらへ視線を向けた。
するとそこには、お弁当の包みを持った翔の姿が……。
「か、翔……??」
「今日はハンバーグ入れたからね、源が好きだって言ってたやつ。それに夜はいい魚が手に入ったからさ、楽しみにしててよ。」
この明らかに良くない雰囲気の中、翔は全く気にせずスタスタと俺の前まで歩いてきて、蝶野さんの手を乱暴に叩いて俺の手から外した。
「……っキャッ!!」
蝶野さんが驚いて悲鳴を上げたため、取り巻きの男性社員達は、翔の圧倒的な存在感に圧されながらも食って掛かる。
「あ、あんた、誰だよ……!突然現れて……ちょっと失礼じゃないですか!?」
「そ、そうだそうだ。それに女性に暴力振るうなんて……最低ですよ!」
俺の時の様な強い口調で言わないあたり、翔をかなり警戒している様だ。
俺は翔からお弁当を受け取りながら周りを見渡すと、アズマや他の攻撃的ではない男性社員は口を開けたまま翔を見ているし、女子社員達は真っ赤な顔で凝視している。
更に入口からは他部署の女子社員達が詰め放題の何かのようにひしめき合いながら、翔を見ていた。




