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4話

 最上から源馬の事について話を聞こうと思い立ってからもう1週間も経ってしまった。最上の連絡先も知らないし、源馬に聞いたら何か怪しまれるのではないかと思い聞けないし、学内で探してもどこにも見当たらない。


 (どこにいんだよ、最上)


 今日も学内を歩きながら人伝に探していく。が、何の手がかりも得られない。そんな時、2階の窓から、木陰に座り込んでいる人物を見つけた。短い黒髪に、筋の通った高い鼻、何も映っていないようにみえるのに品性を感じさせる大きい瞳。遠目に見ても綺麗な顔をしている彼の目立ち様に、なぜ1週間も見つけれなかったのだろう、などと思いながら1階に降りて木陰に近づいていく。


「やっぱ最上だ」

「あー……なんだ峰か。何か用?」


 落胆したような表情を一瞬すると真顔に戻りこちらを見てくる。


「源馬の様子が最近変だから何か知ってるかなと思って」

「こっちが聞きてえよ。マジであれどうにかしてくんない。よく分からない男にベタベタ触って、触らせて。まずアイツはどこの誰なんだよ」

 (でたよ……猫被り野郎)


 最上は源馬の前でだけ良い子ぶる。源馬と話していなくても源馬が近くに居るだけで、だ。その他には普通に冷たい。そして俺には何故かもっと冷たい。これが俺が最上に恐怖心を抱く原因である。見るからにイライラしている死んだ目をした男を横目に話を続ける。


「氷川さん、だったかな。1個先輩らしいよ」

「へえ。で、そいつの事が好きだって?」

「らしいな」

「……やっぱ俺の事、本気じゃなかったんだ」

「あ、そう思う?俺も思った」

「は?喧嘩売ってる?」

「いや、そういうことじゃなくて。俺も高校の時告白されたけど、後々本気じゃなかったんだろうなって思ったから」

「あっそ」


 少しの沈黙が起きる。最上は見るからに迷惑そうな顔をしているが、お構いなしに本題に入る事にした。


「源馬さ、高校の時もあんな感じでいっぱい好きな人できてたじゃん。でもただ寂しいからって理由でも無さそうだろ?だから何か無理してんじゃないかって心配でさ。原因を突き止められたらいいんだけど、最上は何か知ってる?」


 最上は死んだような目をしたまま前を向いて、何か考え込んでいる。こちらも最上が何か知っているとは本気で思っていなかったのに、彼の様子を見てこいつ何か思い当たる事があるのか?と少し怖くなってくる。少しすると死んだ目をしたままの彼が口を開いた。


「……高校からだよ、ああなったのは」

「え!お前ら元々知り合いだったの?」

「幼馴染。お前なんかよりずっと一緒にいるよ」


 そう言うとグルンと顔を横に向け俺の方を睨みつけてきた。コイツ、俺にマウント取るくらいには源馬に執着してんのかよ。俺は続ける。


「じゃあ、やっぱ何か知ってるんじゃないの?」

「知らね。急だったから」

「急だからこそ何かあったんじゃないのそれ…」


 最上は否定も肯定もせずまた前を向くと、ボーッとし始めた。今のところ源馬と最上が幼馴染だったという情報しか得られていない。2人の今のこの微妙な関係性がいまいち掴めていないのが悔やまれるが、最上のイライラ具合が時間が経つにつれ高まっているような気がする為、出直す事にした。


「まあ、最上も知らないならいいよ。すみませんね、邪魔して」

「本当にな」

「あー……あと一個疑問なんだけどさぁ、幼馴染ならなんで源馬がいじめられてた時助けてあげなかったんだよ?何か大っきな喧嘩でもしてたの」

「……」

 

 俺はただ、2人の関係性を何となく理解しておきたくて最後の賭けで聞いたのであり、この質問に特に悪気があった訳ではない。だが、今までのイライラの火が一瞬で凍りついたように彼は無表情になった。息が詰まる程空気が冷え身動きが取れなくなっていると、彼はザッと音を立てて立ち上がり、その場から去って行った。


「こ、こっわ……。何だ今の」


 美形な人間の無表情ほど怖いものはない。とりあえず気を取り直し、次は源馬に会いに行き、最上と幼馴染だった事について話を聞く事にした。



 授業終わりの源馬を攫い、ファミレスへ連れ込む。最上とこんな話をしたよ、とポップな感じで大まかに内容を説明しようと脳内でシミュレーションし席に着いた。が、源馬はその瞬間机に顔を突っ伏し、「峰〜……」と助けを求めるような声を上げ始めた。「何ですか」と言いながらメニュー表を源馬の頭の上に広げながら視線を落とす。落ち着いたように聞いてはみたが、内心嫌な予感しかしない。


「先輩に振られたー!」


 源馬が叫びながら頭を勢いよく上げ、置いていたメニュー表が机の上にパタンと音を立てて落ちる。その拍子に閉じられたメニュー表を今度は机の上に広げると、俺はガッと源馬の顔を片手で掴んだ。


「俺言ったよな?告白すんなって…!」

「えぇ!?そんなに怒ることか!?」

「怒るわ!こっちは心配してんのに」

「何か心配されることってありましたっけ……?」

「あるだろ」

「え?」


 視線を右下に落とす。

 

「……爪。痛かったろ」

「あっ……うん」


 源馬の顔から手を離し、メニュー表を横に向ける。2人でメニューを見ながら話を続ける。

 

「爪が割れるのも心配だけど、そうやって好きな人が短期間で連続的に出来るのも何かあるんじゃないかって思ってるよ俺」

「やっぱ気持ち悪い……?」

「そういうことじゃなくて。何かきっかけがあるんじゃないの?」 

「もしきっかけがあっても関係ないよ。俺がそういう人間だったってだけ」

「そのきっかけが辛いことだったとしたら行動自体が心因性のものかもしれないだろ」

「心因性……」


 メニュー表の内容なんて頭に入ってなさそうな様子で一点を見つめている。シミュレーションしたものとは全く違う展開になってしまった。源馬が本当に何か傷を抱えていてそれを隠そうとしていたのならば、今はまだこんなに踏み込むべきでは無かっただろう。俺は浅く深呼吸をすると、


「まあ、とりあえず今日は失恋慰め会にして早く頼もうぜ」


 と言って会話を切り上げた。彼も「あ、うん」と言うとメニュー表をめくり始めた。メニューを決め注文し、ドリンクバーに足を運ぶ。メロンソーダを入れて席に戻った源馬が、「そういえば」と言いながらコップにストローを刺した。


「先輩に振られた時にね。友達なら、って言われたんだ。で、いつも一緒にいる友達とも仲良くなりたいって言われたから、明日氷川先輩のとこに一緒に挨拶行こうな」


 俺は口に入っている烏龍茶が流れていくのも構わず「なんで?」と口に出した。会話の急カーブすごすぎるだろ。


「俺たちが仲良く喋ってるの見ていいなって思ったんだって」

「さっきお前の顔ガッツリ掴んでキレてたのに?」

「フハ、確かに!」


 源馬はひと笑いした後、メロンソーダをストローで一気に飲み干した。その様子を見て、今回の先輩に対する気持ちも本気じゃなかったんだろうな、と何となく思った。

 

 

 

 

 

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