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3話

 告白した日を境に、最上は何かにつけて俺のところに来るようになった。どこか甘い雰囲気を放ちながら、大学内のどこに居ても急に現れて声をかけてくる。最初よりは多少喋りやすくなって、たまに食堂で一緒にご飯を食べることも増えてきた。

 

 (昔みたいに一緒に居られるのは嬉しいけど、変に期待させてくんのはやめてほしいな……)


 最近の俺の悩みはもっぱらこれである。数多の人間を好きになってきたがこんな悩みを持つのも初めてだった。だからこんな可愛い悩みを親友の峰くんに相談してみたが、「大変ですね」の一点張りだった。その上、最上がなんか怖いという理由であまり俺と一緒に居ようとしなくなった。


「俺、お前しか友達いないのに……」

「俺は?」

「ヒェッ!」


 振り向くと、うっすら笑みを浮かべている最上が立っていた。胸に手を当てながら声が出ない俺をお構い無しに、彼はすぐにベンチに座っている俺の隣に座る。


「最上っていつも急に現れるよね…まじでビビる」

「あー、ごめんね?ところで俺の名前呼びはやめたの?最近いつも言ってるよね」

「まだ呼び慣れてなくって…ハハ」

「苗字呼びだったことの方が少ないでしょ」

「そうですね…」

「まあいいや、スマホ出して。俺の連絡先ブロックしてるでしょ。解除して欲しいな」

「えっ」

 (中学の時に最上の彼女見たショックで泣きながら消したんだった。忘れてた…)

「わかった…」


 とんとん拍子で進んで行く会話に焦りながら、急いでズボンのポケットに手を突っ込み、スマホを取り出した。


「ブロックっていうか、連絡先削除してるからまた教えてもらっていい?」

「うん」


 最上は「貸して」と言い俺のスマホを取ると、黙々とお互いの連絡先を交換し俺の手元にスマホを戻した。


「これで外でも会えるね」

「えっ」

「嫌?俺は久しぶりに源馬と遊びたいけど」

「そうじゃなくて、最上わかってる?」

「何が?」


 キョトンとした顔で首を傾げる。何がじゃねえよ、俺の気持ちを何だと思っているんだ、と内心イラつきながらも苦笑いで答える。


「俺、最上に告白したんだよ?しかも振られてるし」

「うん、わかってるよ」

「じゃあ、なんでそんなにグイグイこれんの」


 最上が積極的に関わってくるから、俺はいつまで経ってもお前を忘れられない。淡い期待を持つ度、中学の時のトラウマも付随して蘇る。振られた事でさえショックなのに期待なんてこれ以上持ちたくない。険しい顔をした俺とは裏腹に、彼は冷たい目をすると俺の手をギュッと掴んだ。


「俺達、友達にも戻れないの?」


 ハッとした。そうか、そうだよな。最上は友達に戻りたかっただけだ。全てのピースがはまり、現実が出来上がる。掴まれた手にジトっと汗が滲む。


 (ほらな、期待したからこうなるんだよ)

 

 出来上がった現実が、最上とは付き合えないんだと突き付けてくる。中学の時もこれが辛くて耐えられなかった。あの時は、どうやって耐えようとしたんだっけ。もう心がグチャグチャで分からない。


「そうだよな」


 絞り出すようにでた言葉はこれだけだった。

 


 気付いたら家に着いていた。1Rの安くて狭い部屋の隅で壁にもたれズルズルと下に落ちていく。


「あんだけ期待しちゃダメだって考えてたのに、どっかで付き合えると思ってたのか」


 自分の声が響き、耳に返ってくる。自分が言っているのに誰かに言われているような気持ちになり、あー、と唸りながら両膝を抱え丸い隙間に顔を埋める。あれから何の会話をして、どうやって帰路に着いたか分からない。俺は何て言って欲しかったのだろう。何を期待して彼の言動の意味を聞き出そうとしたのだろう。羞恥心と自己嫌悪とショックとが綯い交ぜになり心に落ちた影が色濃くなるのを感じる。

 

「ピロン」


 スマホが音と共に光り、顔を上げ目を落とす。通知欄には「最上修成」と書かれていた。恐る恐るトーク画面を開く。


 『今日は連絡先教えてくれてありがとう』

 『なんか様子変だったけど具合とか悪くなってない?』


 今日連絡先を交換した手前消しにくい。多分、明日からも最上は俺と関わってくるだろう。今度は距離も置かず間違わず、彼の友達になれるかな。


 (最上は友達、最上は友達、最上は友達…)


 永遠に頭の中で唱える。連動して胸の痛みは強くなるが意にも介さず唱え続ける。一刻も早く彼を忘れる為にはどうすればいいのだろう。

最上の連絡に返事は返さなかった。




 峰雪斗、20歳。B型。座右の銘は、なるようになる。自他共に認める適当人間で交友関係も例外ではない。でも、こいつにだけは向き合おうと決めた友達がいる。目の前に座って誰かを見つめながらボーッとしているこの男である。


「はあ……」

「さっきからハアハアうるせんだよ。マラソン大会か」

「お前には関係ねえだろ〜…」

「まじで何なの、最近変だぞ。最上と話す時も挙動不審っぽい感じあるしさ。てか待って、今日最上来ねえよな?」

「知らねえよ〜…」

「はあ?…なんなんまじできしょく悪い」


 見ての通り様子がおかしい。本当に向き合っているのかと言わんばかりの悪態をついているのに、何も言い返してこない。こいつもまあまあ短気なのになんなんだ?


 (まあどうせ最上関連だろ)


 そう思い、源馬の視線の先を振り返って確認する。が、そこに最上の姿はない。いや、あれか…?目を凝らしよくよく見るとそれらしい人物がいる。後ろ姿しか見えないが、黒髪の短髪で背が高い。じーっと見続けると、一瞬横を向き顔が見えた。いや最上じゃないじゃん。イケメンで確かに遠目から見ると似てるけど、最上の方が何となくかっこいい気がする。おーいと俺は源馬の目の前で手を振る。


「あれ最上じゃねえぞー」

「知ってる…」

「え?」

「あれ、俺の好きな人……」

「はあ!?」


 驚いてもう一度振り返り視線の方に目をやる。混乱で様々な考えが頭を駆け巡る。なんだ?最上、ほぼ毎日源馬に会いに来てたよな?でも最近は来る頻度も減っていたか?だから俺、源馬とまた行動するようになったしな…。顔を戻し、とりあえず問いただすことにした。


「あの、最上さんは…?」

「あぁ。やめた」

「なんで」

「最上は俺と友達になりたいんだって。だから好きなのやめた」

「やめれるもんなの?俺が言うのもなんだけど、最上の事は本当にちゃんと好きなんだなって思ってたよ」

「峰の事もちゃんと好きだったよ」

「いやー、どうだか」

「本当だって」

「それ本当に最上とは友達になれてんの?」

「なれてるよ。だって他に好きな人がもういるんだよ?」

「まじで何を言っているの……?」

 (なんかこれ、高校の時も見たぞ?)


 びっくりするくらい男女問わず好きになりまくり、振られたら即次に行き。ずっとおかしいと思っていた。俺に振られても悲しそうな素振りなんか見た事もないし。俺以外の時もそうだ。あんだけ周りに気持ち悪いと言われていたのに、仲良くなる前からも今も、こいつから誰の悪口も聞いた事がない。そんな源馬だから向き合おうと決めて友達になった部分もあるが、だからこそ薄々誰の事も本当は好きじゃないのだろうと考えていた。好きな人ができ続けるのは、ただ寂しかっただけではないかと。でも、もしかすると違うのでは?


 (最上が何か関係してんのか……?)


 とりあえず、まずは最上と話してみるしかない。ものすごく嫌だけど。ボーッとしている源馬の顔を両手でガッチリ掴むと、俺の方へ向かせた。


「絶対、まだ告白すんなよ」

「なんで」

「爪が割れるから!」

「え、やだ」

「何なんだよまじで!」


 こいつと向き合うのもう辞めようかな。

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