2-1 大筒と紅の陣羽織(前編)
三部隊で小牧山を守る頼朝軍は、補給もままならず激戦を続けていた。
新たに迫る田原隊を迎え撃つため、羽柴秀長が“大筒”を提案。
決死の射撃、迫り来る織田の猛将・柴田勝家。
そして……紅の陣羽織が戦場に現れる。
※本作は史実を基にした創作であり、独自の歴史改変が含まれます。
小牧山で激戦を繰り広げる頼朝軍は、三部隊で戦線を支えていた。
既に犬塚隊は織田軍への執拗な突撃を繰り返して疲弊し、やむなく後退。
残る義経隊とトモミク隊も、補給の暇なく連戦に揉まれていた。
新たに織田の田原隊が接近しているのを確認し、頼朝は意を決して口を開く。
頼朝「此度の敵は、我らが正面で受け止める。義経、トモミクの両隊は左右に迂回し、機を見て田原隊に挟撃を加えよ」
当面、頼朝隊が単独で田原隊の突撃を支える形だ。
(これ以上、義経隊やトモミク隊に大きな損耗を強いたくない)
だが、即座に異を唱える声が上がる。
トモミク「いいえ、頼朝様。殿には迂回をお願いしたいのです。正面は私が引き受けます」
消耗が大きいはずのトモミクが、なおも前に出ようとする。
羽柴秀長が進み出た。
秀長「トモミク殿、そのお気持ちありがたい。しかし、此度は私にお任せいただけぬか。頼朝様、実は以前から試してみたい“新兵器”がありまして」
秀長は片目をつむり、唇の端を上げた。
秀長「例の“大筒”の威力を、ここで存分に発揮しましょう。まず大筒の一撃で田原隊の足を止め、弱ったところを義経殿、トモミク殿が左右から殲滅――これでいかがでしょう?」
トモミクは一瞬、首をかしげるように考え込んだが、やがて頷いた。
トモミク「……わかりました。秀長様の策を採用しましょう」
ーーーーーー
秀長の案に従い、頼朝隊は予想される田原隊の進路上に距離を取って布陣すると、運び込んだ部品で急ぎ大筒を組み立てはじめた。
(間に合うのか……)
*大筒を組み立てる頼朝隊
鉄工具がぶつかり合う甲高い音が、戦場のざわめきを切り裂く。
もし作業中に敵が現れればひとたまりもない。頼朝は焦りを抑えきれない。
ところが運良く、田原隊の進軍は遅く、数門の大筒を据え付け終える頃になってようやく敵影が遠くに見え始めた。
一方、トモミク隊と義経隊は、まるで「頼朝隊には指一本触れさせない」とでも言うかのように、田原隊の横腹めがけ、砂煙を上げて迂回する。
すでにトモミク隊が田原隊の前衛を捉えた。
トモミク「……私が、やります!」
戦場にはやや不似合いな、トモミク独特の掛け声が響く。猛射のあと、彼女は自ら少数騎を率いて敵陣へ突入した。
普段は冷静沈着に見えるが、その戦いぶりは無謀と呼べるほど大胆だ。射線を捨て、刃を抜く。トモミク隊も相応の被害を受ける。
そこへ、少し遅れて義経隊が側面から攻撃を開始。
義経「これ以上トモミク隊の犠牲は看過できぬ。わが隊も加わる。――撃て!」
二方向からの挟撃を受け、田原隊は大損害を被って壊滅状態に陥り、敗走していった。
*大筒を使用することなく、田原隊はトモミク隊と義経隊によって敗走させられた。
(結局、また……)
補給を受けて態勢の整った頼朝隊が自ら盾となり、義経隊やトモミク隊の消耗を抑えるつもりであった。蓋を開ければ頼朝隊は刃を交えずに終わってしまった。安堵と、不甲斐なさ。相反する二つが頼朝の胸に去来した。
ーーーーーー
田原隊を撃退したのち、北条早雲隊が犬山城に到着したとの報が入った。
(これでトモミク隊を休ませられる……)
早雲隊が近く小牧山の前線へ合流すると聞き、トモミク隊はいよいよ後退の準備に入ろうとした。
――そのとき、西の稜線に黒い軍旗が翻った。
陣太鼓が轟く。その主は、柴田勝家。織田随一の猛将が、なお健在――。
(まだ終わらぬのか……!)
頼朝は驚愕する。
いくら無尽蔵に国力のある織田軍であっても、そろそろ部隊も兵も削られ、疲弊しているはずであった。
それでも北条早雲隊が到着する寸前を見計らって突撃を仕掛ける判断の速さと執念――まさに織田信長の恐ろしさだ。
頼朝「もはや退けぬ!義経隊、トモミク隊、敵を迎え撃つぞ!」
自らが先頭に立ち、撃退する以外に道はない。頼朝は檄を飛ばす。
義経/トモミク「はっ!」
連戦に次ぐ連戦で補給も休息もなく、兵の疲弊は極まっているはずの義経隊とトモミク隊。しかし義経、トモミク両将に焦燥や迷いは微塵も見えない。その揺るぎなさは、指揮官としてまことに得難い資質、と頼朝は改めて感じた。
歴戦の猛将・柴田勝家は、こちらの弱点を看破し、最も消耗の激しいトモミク隊へ猪突してきた。
しかしトモミク隊は決死の鉄砲斉射を浴びせ、勝家隊の先鋒を混乱に陥れた。その隙に頼朝隊と義経隊も急ぎ駆けつけ――と思うより早く、トモミク隊がさらに的確な追撃射撃を加え、勝家隊を退却に追い込んだ。
*柴田勝家隊を斉射で追い詰めるトモミク隊
柴田勝家が退いた、その刹那……
紅の陣羽織が夕陽を裂く。率いるは信長の妹――お市。
ここまでお読みくださりありがとうございます!
今回は秀長の“大筒”初投入と、トモミク隊の戦いぶりが中心となりました。
次回はついに、お市の方が本格参戦します。どうぞお楽しみに!
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