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23-3 頼朝軍団の至宝、赤井輝子

無事に琵琶湖から織田軍を追い払った頼朝軍。

味方も敵も予想しなかった赤井輝子の出撃あってこその戦績であった。

しかし赤井輝子の重大な軍令違反も明らか。

長浜城でかけがえのない仲間と杯を交わす赤井輝子。

しかし義経の言い訳は、筆頭家老羽柴秀長の目をごまかせない。

その時頼朝が下した決断とは……


■長浜城のさかずき


赤井輝子がしかけた予期せぬ琵琶湖上の戦闘によって、織田軍は完全に意気を阻喪そそうし、北近江の地から完全に退散していった。

これにより、安土城に駐屯する武田梓隊を残し、全ての頼朝軍部隊は整然と美濃・尾張の本拠地へ退却できることとなった。



戦いを終え、長浜城へと戻った赤井輝子は、再び長浜城天守から琵琶湖の景色を眺めていた。出陣前とは異なる穏やかな心持ちであった。それでも、命を散らせた多くの部隊の兵たちの最期の表情や声が脳裏から消えたわけでは無かった……。


そこに副将である大祝鶴と太田牛一も鎧を脱ぎ、天守閣に登ってきた。二人の姿を目にして、赤井輝子は二人のもとに歩み寄る。


輝子「……鶴姫、牛一殿。そなたたちのおかげで、湖上の織田軍を一掃することができた」


輝子は、静かに言った。


輝子「軍令違反は覚悟の上。しかし、そなたたち二人をも巻き込んでしまった……。

この通りだ、すまなかった……」


赤井輝子は二人の副将に、深く、深く頭を下げた。


しかし大祝鶴は、微笑みながら応える。


鶴「輝子様、わたくしたちも、もとより覚悟の上でお供しました。


何よりも、傷ついた我が軍が安心して再編できる貴重な時間、それを得ることができたのは輝子様のご決断のおかげ。むしろ、大手柄でございます」


太田牛一も、力強く頷いた。


牛一「義経様が、頼朝様にお話しくださることでしょう。ご心配には及びません」


赤井輝子は改めて感謝の念を込め、頭を下げた。その表情には、安土城での敗戦以来、ようやく和らいだ色が浮かんでいた。


輝子「そうだな――義経様にもご苦労をおかけした……。

それにしても、外が静かで久々に気分が良い。この長浜城から見る湖畔の景色というのも、悪くないじゃないか」


輝子は、ふっと微笑んだ。


輝子「どうだい? 今晩は久しぶりに三人で、ゆっくりと一献傾けないか」


鶴「まあ、輝子様! それは、是非とも!」


鶴も、牛一も、喜んで頷いた。



夜、長浜城内の一室では、輝子と大祝鶴、太田牛一が静かに杯を傾けていた。


(あの時の血の味を思えば――今の酒の甘露が、胸に沁みる……)


輝子は死んでいった多くの部下たちにも思いをはせながら、かけがえのない仲間とともに、ゆっくりと杯を口に運んだ。


挿絵(By みてみん)



■義経の言い訳と頼朝の機転


近江より那加城に帰還した義経隊は、頼朝、秀長、そして篠によって、温かく迎えられていた。


頼朝「義経、阿国殿、里! 長きにわたる近江での戦、まことに大義であった!」


頼朝は、弟とその副将たちの労をねぎらった。


頼朝「おまけに、挑発してきた織田の水軍を追い払っての帰参とは、さすがであるな。ご苦労であった!」


義経「いえ、兄上。琵琶湖上で油断していた織田水軍ごときに手こずるとは――この義経、まだまだ未熟であったと痛感いたしました。


しかし幸いにも、長浜城には水軍の姫君、大祝鶴殿が控えていてくれたがゆえ、織田軍を蹴散らすことができ申した……」


その義経の言葉に、秀長は腑に落ちない点があったらしく、問いかけた。


秀長「義経様……。

長浜城の船や兵を大祝鶴殿が動かしたのでございますか?

……ですが輝子殿に長浜城の兵を動かす権限は無かったはず。それを、どう説明なさるのですか?」


義経は、一瞬、言葉に詰まったが、落ち着き払っているかの態度を心掛けながら答えた。


義経「いや、秀長殿。我が部隊にも伏殿の部隊にも、船も湖上で戦える兵も無かったゆえ、拙者が無理を申し上げて輝子殿に、鶴殿の指揮・采配をお願いしたのでござるよ。

退却する我らの背後を織田の水軍が脅かしている状況下、やむを得ぬ判断であった」


秀長は、義経の言葉の裏にある本当の事情を察したようであった。


(……これは十中八九、輝子殿の猪突であろう。しかし、このままでは軍令が軽んじられる。放置すれば他の家臣が乱れる。さて、どうしたものか……)


挿絵(By みてみん)


秀長が戸惑っていると、頼朝が口を開いた。


頼朝「ところで、義経、秀長。

実はな、近江を発つ時から考えておった。安土と長浜、二つを拠点とせねば織田は抑えられぬ。伝えるのが遅れてしまったが、許せ。


聞けば、長浜の城下には優れた鉄砲鍛冶が多く住んでおるそうではないか。長浜城を鉄砲生産、そして鉄砲隊訓練と部隊駐屯の一大拠点としたい。


そこに、我が軍の中でも特に強き鉄砲隊を派遣したらば、近江全体の守備の要となり、さらに我らが上洛する際の先遣隊の拠点ともなる。

そこで重要拠点となる長浜城の城代には、赤井輝子殿こそがふさわしいと、そう決めておった。


行軍中であったがゆえに、任命の連絡が遅くなってしまったのだがな。


秀長。急ぎ、長浜城の輝子殿へ伝令を。わしの連絡が遅くなったことを、丁重に詫びると共に、正式に、長浜城代への任命を伝えるように」


秀長「かしこまりましてございます!」


秀長は、頼朝の見事な機転と、深い配慮に感服し、足早に部屋から退出していった。



頼朝の発した“長浜城代任命”の報が、城中に広がると、兵たちは口々に『よかった……』と安堵の息をついた。先の激戦で疲れ切った彼らにとって、輝子の赦免と再起は、新たな希望に思えたのだ。



部屋には、頼朝の一門と、出雲阿国だけが残った。頼朝は、少しくだけた調子で、義経に語りかけた。


頼朝「…やれやれ。義経は、相変わらず、嘘をつくのが下手じゃのう」


義経「…あ、兄上……。やはり、お分かりでございましたか……」


義経は、ばつが悪そうに頭を掻いた。


挿絵(By みてみん)


お読みいただきありがとうございました。

口が回らない義経の言葉は、随一の知略を持つ秀長には全く通じませんでしたが、頼朝の機転で赤井輝子は救われました。

次回、多くの織田軍の捕虜が、義経、頼朝と対面します。

その中には安土で心を交わした加藤清正の姿も……

お楽しみに!


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